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【11/10CS巨人戦◯】奥川くんのそれは、「奇跡」じゃなくて

奇跡なんてそんなに、起こるものじゃない。

ドラマみたいな筋書きが、現実に用意されているわけじゃない。

ここで打って欲しい、というときに、凡退することは山のようにある。

ここを押さえてくれれば、という祈りはなかなか、届かない。

エースと呼ばれる誰かが、いつだって素晴らしい投球を見せるわけではない。

それでも時に、現実は想像した以上の物語を用意している。


うそみたい。と、私は思う。

一年前ここで、めちゃくちゃに打たれまくったルーキーが、たった一年で、CSの初戦に98球で完封する姿を目の当たりにしながら。

一年前のこの日、奥川くんの初登板を、子どもたちと一緒にこの神宮で眺めていた。奥川くんはプロの洗礼を浴びまくり、2回5失点でマウンドを降りた。(でも今、その時の成績を見返したらやっぱり四球は与えていなかった。)

そういえば、「奥川くんが甲子園で15回を完投した試合を、数年前車の中で聴いていたのを覚えている」と、息子は言っていた。

だからその奥川くんがヤクルトのユニフォームを着ていて、それを目の前で見られることが、なんだかまだ信じられないのだ、と。

だけどその奥川くんは、この一年間、「現実に」ヤクルトのユニフォームを着て、そしてぐんぐん成長し続けた。ほんとうに、登板を重ねるたびにその姿はたくましくなっていった。まるで赤ちゃんが寝返りをし、ハイハイをし、つかまり立ちをし、そしてあるき始めるように、それはもう目に見える「成長」だった。そして赤ちゃんを眺めるときと同じく、そこには無限の希望と可能性があった。

成長を見守る高津さんは、頑なに、一定の球数が来たら奥川くんをマウンドからおろした。解説が「今日は奥川の完投、場合によっては完封も見たいですけどね…!」と言うのを、私は何度も何度も聞いた。でも高津さんはとにかく、どれほど好投しようとも球数が来たら交代をさせた。そして毎回、登板が終わるたびに登録を抹消し、間隔をあけた。

なんだかもうそれが、今日への布石みたいだ、と、そう思う。いや、そんなことはないのだけれど、高津さんだって「まさか最後まで投げるとは思わなかった」と言っているけれど、それでもこの一年間の集大成みたいなことを、CSの初戦でやってのけるなんて。

それはもう、スターというかスター以上だ。漫画みたいだ。いや漫画にもならない、あまりにも話が、できすぎていて。

だけどその物語は、決して、奇跡なんかじゃない。

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