【6/11ソフトバンク戦○】ハグしたてっぱちの、その笑顔
村上くんがチームに来るまで、4,5年ほど前、てっぱちは一人でその重責をになっているように見えることがあった。その時チームで一番若い野手だったのに、それでもあまりに重い責任とプレッシャーが、その背番号1にのしかかっているように見えた。
てっぱちはまだ、25歳とかそれくらいだった。25歳なんて大卒で言えば3年目くらい、まだまだ若者だ。25歳の青年には、もっとのびのびプレーさせてあげたい、私は試合を見ながら何度も思った。でもその頃のヤクルトはほんとうになかなか勝てなくて、てっぱちが満塁ホームランを打っても、てっぱちがサイクルヒットを達成しても、勝てなかった。満塁ホームランを打っても、サイクルヒットを達成しても、てっぱちに笑顔はなかった。
だけど今日、自分がチャンスで三振した直後に、満塁ホームランを打ってくれた村上くんに、てっぱちは見たこともないような笑顔でハグをした。いや、村上くんが手を広げるから、てっぱちは安心して、そこに飛び込んだ、ように見えた。
てっぱちが一人で担い続けた重責を、今少し、二人で分け合っているのかもしれない、そんなふうに思えた。
♢
試合が始まる前、村上くんがこれだけ活躍すると「ライバルだ」と自分で言っていたてっぱちはどんな気持ちになるんだろう、と、ふと思ってしまっていた。もしかして、複雑な思いを抱えているんじゃないか、と。
6回表、1アウト満塁の場面で、てっぱちは三振に倒れた。犠牲フライでも同点に追いつける場面だった。私は「もう…」と、思わず一人でため息をつく。
次の村上くんは、いつもの表情で、打席に立った。冷静に、冷静に、ボールを見極め、カットしながら、フルカウントに持っていく。7球目だった。村上くんは弾き返したボールは、鋭い打球を描き、そのままスタンドに飛び込んだ。
うっそやん。と、私は誰もいない部屋で一人でつぶやく。息子は塾へ、むすめは公園へ、夫は海外出張(海外出張…!)である。しばらくぽかんとしてしまう。それから「いやすごすぎやろ村上くん!!!!!」と一人でさけぶと、今日もねこたちが一斉に逃げていった。
グラスラを打った村上くんは、ゆっくりダイヤモンドを一周し、ベンチに戻ってくる。そしてベンチで迎えたてっぱちは、見たこともないような笑顔で村上くんを迎え、ハグをした。なんだよう…なんだよう…と、私はぐずぐず泣いてしまった。
二人はたしかに「ライバル」かもしれないけれど(それはいつだったかてっぱちがヒロインで言っていた)、だけど同時に、というかそれ以上にずっと、なにものにも代え難い、大切なチームメイトなのだ。
♢
てっぱちが抱え続けた重責はもちろん、今チームみんなで分け合っているものだ。でも、そこには明確な年俸の差があり、期待されるものの違いがある。それがそのままその世界の厳しさであり、苦しさでもある。レギュラーを目指す人には目指す人の、そしてレギュラーを当たり前のように託された人には託された人の、悩みと苦しみがある。だからこそ、その苦悩を、同じように分かち合える人がいることは、やっぱり「救い」なのだと思う。
このチームに、てっぱちと村上くんが両方いてくれてよかった。あのとき、てっぱちがこのチームに残ることを選んでくれてよかった。心底、そう思った。そう思ったらもう、泣けて泣けて仕方なくて、あの日、優勝した日にてっぱちが泣いているのを見た時以来、ぐずんぐずん泣いた。
交流戦優勝は、もちろんすごくすごくうれしい。でもみんなの笑顔を見ていると、なんだろうもう、こうしてみんなが良い笑顔で、楽しそうにそこにいてくれることが何よりもうれしい、とそう思う。てっぱちが、村上くんが、みんながのびのびと、そこで笑ってプレーしてくれていることが一番うれしい。
どんな時だって、ヤクルトが大好きだ。最下位になったって、96敗したって、16連敗したって、いつだってヤクルトが好きだ。でも、それを乗り越えてきたヤクルトたちの、今の心からの笑顔を見られることが、ほんとうにほんとうにうれしい。いつだって大好きだけど、今ももちろん、大大大好きだ。
ヤクルト交流戦優勝おめでとうございます。いつもいつも、最高の姿を見せてくれてありがとう。野球を楽しんでくれてありがとう。
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