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あの日「個人的な数字のことはいいです」と言ったぐっちのこと 【6/12練習試合 楽天戦●】

あの日、ぐっちは楽天のスタジアムでヒーローインタビューに答えた。「打率、絶好調ですね!」と聞かれたぐっちは、「個人的な数字のことはいいです、チームが勝ったんで」と答えた。

2年前、楽天スタジアムで行われた交流戦だ。

あの日、ヤクルトはヒット4本で3点を取り、失点は2点に抑え、なんと3-2という信じられないスコアで楽天に勝った。(先発は、由規だった。スタンドから見守るご両親の顔が忘れられない。)

ヒット7本で1点を取り、打たれたヒット4本で4失点だった今日の試合で、私はあの日の試合を思い出していた。

あの日と同じなのは、「どうやっても打てなさそうな則本からぐっちがきれいなヒットを打ったこと」と、「そして誰かがとにかくびっくりするようなホームランを打ったこと(あの日は荒木、今日はコータロー)」、「勝ちパターンの中継ぎが踏ん張ったこと」だ。

ぐっちはあの年、いつもいつもいつもこの「個人の数字はいいです、チームが勝ったんで」を言い続けていた。そのたび私はどんないけめんだよ。と、思っていた。野球に限らずなんだって、「個人の成績」を重視しがちな時代において、ぐっちはいつもいつも「チームが勝てばいいんです」と言い続けた。

だから私は去年、「個人の成績」が出せなくて、それでチームだって最下位に沈んだ時のぐっちの気持ちを考えるとなんか、いてもたってもいられないような気持ちになった。「責任感の強い選手なんで、辛いと思います」と、小川さんはぐっちをかばった。そういうことだよな、と、私は思った。

あれから2年がたった。みんなが同じく、等しく、歳を重ねた。村上くんは4番を打つようになった。保育園児だったむすめは小学生になった。低学年だった息子は4年生になった。2年というのはあっという間のようでいて、それなりに、「時間の重み」を感じさせる時間でもある。

時間の流れは時に残酷だ。それは歳を重ねるごとに誰もが対峙していく現実だ。でも、それが傷を癒し、誰かを奮い立たせ、その場に運び戻してくれるものでもあるのなら、私はいつでもその力を信じていたい、と思う。

悔しい一年を経て、ぐっちは今、とにかくまた、1番バッターとして戻ってこようとしている。そして、あの日と同じように則本と対峙する。私は画面をじっと見つめる。いつの間にか握りしめていた手に、力が入っている。言いようのない不安といつも戦っている気がする。同じものを、ぐっちが抱いていなければいいのに、と思う。

誰かを応援することは時に厳しい現実と向き合うことで、目を背けたくなったりする日もあって、信じきれない自分に嫌気がさすことすらあって、不安を持つことさえ良くない気がして、言葉が何も出てこなくなることがある。(だからこのnoteにあまりぐっちのことは書いていない。書かないんじゃなくて、書けないのだ。いや、書いてるように見えるかもしれないけれども「思っている」ことの半分も書いていない)

でも、どれだけ不安でも、どれだけつらい現実と向き合う日があっても、試合に出られない日があっても、それでも、やっぱり何かを信じて、そっと応援していたい。なぜならファンには、それしかできないからだ。私には、それしかできないから。

あの日ぐっちが言ってくれた「個人的な数字のことはいいです、チームが勝ったんで」を、私は今年は、ぐっちの数字に戻してあげたい、と思う。個人的な数字だって、びっくりするみたいなのを残して欲しい、と思う。

ぐっちは今年の公式ツイッターでのインタビューで答えた。「僕自身、今年は、首位打者をとります!」と。そうだそうだ、今年は、自分の成績もしっかり残す、そんな一年にしてほしい。

ぐっちは今日、則本からきれいなヒットを放った。あの日の勝ち越しタイムリーではなかったけれど、得点につながるものではなかったけれど、でもそれは、とにかく今私が勝手に抱く小さな不安のかけらみたいなものを打ち砕く、力強い一本だった。

ぐっちが今日、則本から打ったその一本がまた、次の一本につながりますように。今年はぐっちに、個人の素晴らしい成績がつきますように。


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