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EP7 リー

EP7 リー
電化惑星だ。
今夜も股飴だ。
女はサクラだ。
夜通し寂しい男たちの話し相手をしている。
仕事道具といえば固定電話と口に含んでも有害でない成分で作られた潤滑ローションと自分の指と唇くらいのものだ。
俺はその2人前に別れた古着屋の女の部屋で留守番だ。
化粧を落とすとまったくの別人になる女の姉貴が彼氏とは別の冴えない中年男に抱かれて買わせたフランス産のコニャックをボトル1本勝手に飲み干しスポーツ新聞の風俗情報や官能小説が掲載されている誌面を暇つぶしに見ていた。
気がつくとダイヤルを回すのが習慣だ。
どうせ料金の請求は女の姉貴の方だ。
慣れない高級酒で前後不覚に酔う。
受話器を通して耳にした声には何の魅力も感じない。
俺は交わす言葉が自分の肩越しに飛んで消えていくのを目で追いかけてゆく。
駅前で会うことにする。
女は髪を後ろに引っ詰め度の強い眼鏡をかけ浪人生みたいに趣味の悪い服を着て駅前の交番の脇に立っていた。
大失敗だ。
しかし女は非の打ち所のない身体をしていた。
弓形の眉と切長の大きな瞳を持っていた。  
と同時に俺を否応なく不安にさせ苛立たせる何かがあった。
女は不眠症の他にも巨乳で拒食症で先端恐怖症で無名の大学で国文学科を専攻しており声楽部に所属し心療内科にも通っていて実家は緑煌めく学園都市の丘の上の一等地に建っていた。
女が好む気取った音楽は薄気味の悪いものばかりでそれを聴いていると俺はヘブライ語をはじめ多言語を駆使する悪魔に取り憑かれてしまいそうな気分になったし共通する愛読書は一冊もなかった。
結局生まれ育った環境が感性を育み殺す。
結局俺にはこれしかないと悟る。
騒音芸術だ。
美は雑音の中に宿る。
猫の目はブラックライトで火星の色に発光する。
飼い主に似てまるまると太っている。
まるで電送実験で遺伝子の配列を違法に組み替え白黒テレビとレッサーパンダと中華鍋を無理矢理合体させたみたいに醜く態度も険悪だ。
結局股麻だ。
薬局の開く時間だ。
女はまだ死にかけたフレンチブルドッグみたいに大きないびきを掻いて寝ている。
キャンバスの余白は女の死んだ脳味噌だ。
俺はまた女の財布から数枚の札と銀行のキャッシュカードと暗証番号を忘れてしまったので学生証を抜き取る。
駅前の交番から巡査がやって来る。
騒音被害の苦情が来ているという。
駅前の交番から巡査がやって来る。
騒音被害の苦情が来ているという。
俺は何階のどの部屋のどいつが苦情を訴えているのかと聞く。
巡査は呆れ顔で首を横に振り言えないと言う。
駅前の交番の巡査と肩を並べて女子大通りを歩く。
俺は皮革のホルスターに収められた拳銃を一暼して実際に弾丸が込められているのかと聞く。
柔道の有段者で黒帯だという巡査は真顔でこう答える。
当たり前だ。
君みたいな悪い人間を撃つためにな。
猫が脱走する。
暗闇に消える。
不動明王みたいな女の母親を電話越しに口説く。
真夜中だ。
駅前の交番から巡査がやって来る。
騒音被害の苦情が来ているという。
ギターの練習でもしていたのかと聞く。
俺は答える。
当たり前だ。
騒音芸術だ。
美は雑音の中に宿る。
俺は無観客の暗闇に向かって飲み干した虚しさの絵の具に12弦の猫の視神経を繋げて叩きつけてやる。
まばらな血飛沫。
そして拍手。
ブルース•ルー•リード•ブルースバンド。
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