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蟲???展 ワークショップレポート|「夜の観察ワークショップ」編

2024年7月20日(土)
講師:小林真大さん

虫を観ることから世界の見え方の多様さにふれる、体験型の展覧会「蟲??? 養老先生とみんなの虫ラボ」。この夏(7月8日~9月1日)、鎌倉文華館 鶴岡ミュージアムで開催しています。本noteでは、期間中に行われるワークショップの一部をレポート。今回は、7月20日(土)に開かれた「夜の観察ワークショップ」の様子をお届けします。鶴岡八幡宮の自然のなかに、子どもから大人まで約30人が集まりました。

養老孟司先生と小林真大先生に聞く、虫のはなし

「昆虫採集」と聞くと、どんな方法を思い浮かべますか? 虫とり網で追いかけたり、ゼリーや果実を使って誘ったり、紙コップを地面に置き下に落ちてくる虫を待ったり――。方法はたくさんありますが、今回実施したのは夜にライトトラップを設置して昆虫を集める方法です。

集合時間は18時。参加者がぞくぞくと集まるなか、この日は養老孟司先生も飛び入り参加。夏の空はまだ明るく、日が暮れるまでには少し時間があります。そこで、養老先生と小林真大先生への質問タイムが急遽設けられました。

質問に答える養老孟司先生

「蝉は種類によって鳴き声が違いますか?」
「オオムラサキはどうやって捕まえられますか?」
「ミヤマクワガタはどこにいますか?」
「日本ミツバチが木のうろ(樹木にできる空洞)にいると聞きました。どういう木にいるんですか?」
など、虫に関する素朴な疑問が次々に飛び出します。

それに対して養老先生や小林さんが答え、時には参加者みんなで語り合い、「オオムラサキは身近なところだと高尾山にいる」「鎌倉はノコギリクワガタよりもミヤマクワガタのほうが多いらしい」「ハチは引越し先の木を偵察してから、集団で移動する」といった具合に、さまざまな虫の話が展開されました。

質問タイムの最後は、「虫塚バッジ」(「蟲???」展グッズの缶バッジ)を、先生が一人ひとりに手渡ししてプレゼントしました
缶バッジが入っていたカプセルのなかに、拾った蝉の抜け殻を入れ嬉しそうに見ている子も

正解がないライトトラップ

虫の話が盛り上がるなか、あたりがだんだんと暗くなってきました。本ワークショップのメイン「ライトトラップによる昆虫観察」の始まりです。ライトトラップの仕組みやどんな虫がくるのか、明かりをつける前に小林さんからレクチャーがありました。

小林さんからの問いに答える子どもたち

はじめに「ライトトラップを見たことがある人?」と小林さんが問いかけると、何人かの子どもたちから「YouTubeでみたことある!」と声が上がりました。「じゃあ、これはどんな電球か知っている?」と小林さんが再び質問。

現在は製造されていない水銀灯を使用

「紫外線?」「太陽みたいな」などと子どもたちが答える様子に、小林さんは「みんなよく知っているね」とにっこり。そこから電球についてさらに詳しい説明が始まります。
「いま家庭で使われている電球は、紫外線がほとんど入っていないLEDという電球ですが、昆虫は紫外線に集まる性質があります。だから、こういった紫外線が強いライトを使ってやっていくんですね。直視すると危険なので気をつけてください。では、ここに張ってあるこの白い布、どうしてあるのか知っていますか?」

真剣な眼差しで話を聞いていた一人の小学生が、手をあげます。「はい! 光をあてたときでも、茶色い虫だと木についたら色がわからないから」。
小林さんは「そのとおりです。白い布を張るのは、電気をあてたときに見やすいからですね」といい、ここからさらにいろいろな面白いことがわかっていきます。

例えば、白い布を正面に張るだけでなく下にも敷いたり、カゴを置いたりするのは、虫の性質によって壁や木に止まる虫がいれば、地面にしか来ない虫もいるから。同じように光に反応する虫たちのなかでも、オサムシの仲間などは飛ぶことができないため、歩いてやってくるそうです。

虫の多様な性質について話す小林さん

さまざまな虫に対応できるように設置したライトトラップ。集まってくる昆虫の種類は時間がたつごとにもどんどん変わっていきます。朝方までライトアップを続けるとそれがよくわかるそうですが、この日のワークショップで予定されていたのは18時〜20時。この時間帯は、虫たちが集まる第一回目のピークだそう。

小林さんは「小型の甲虫が多く、おそらくアオドウガネがたくさん来るんじゃないでしょうか」と予想します。子どもたちに人気のクワガタについては、「まだ飛び始めるくらいの時間帯。まずは樹液を吸いにいって、そこから移動するから、もうすこし遅い時間になると思います」。

次に、時間のほかに天気、季節、場所によっても集まってくる虫たちの種類が異なるという話へ。
「では、どの天気が一番多く集まってくるのでしょうか。じつは晴れも正解だし、大雨も正解。すべての天気が、それぞれの種類にとって正解なんです」

「なんで?」と驚く子どもたちに、小林さんはこう説明します。
「たとえば、クワガタやカブトムシなど甲虫の仲間は晴れの日に来やすい。逆に、大雨が降ったときは、ふだんは来ない蛾の仲間が大量に飛んでくることがあります。飛ぶ能力が低い虫や木の中に隠れている虫は、雨によって刺激されることによって飛ぶことがあるからなんです。
そして、霧の日。ライトというのは霧のなかで点けると拡散するため、ものすごく遠くにいても光が見えるんです。霧の日にライトトラップをやってみると、この白布が真っ黒になってしまうくらいの蛾がとんでくることもありますよ」

条件を変えてみると、見られる昆虫の種類の確率がぐんと上がるのも昆虫観察の醍醐味です。

子どものころから昆虫が好きで、早くから発電機と水銀燈を使ってライトトラップをやっていたという小林さんは、「東南アジアで3年間、ほぼ同じ場所で毎日やったこともある」と言い、「3年やっても同じ日はありませんでした。ある程度の種は同じでも、1日4〜5種類はまた新しいのが来るんです」と話してくれました。

いよいよ昆虫探索へ

レクチャーが終わり、小林さんが灯りをつけると「クワガタくるかな?」「虫、まだこないかな」と、子どもたちから期待の声が上がります。

トラップに虫がくるのを待っている間は、それぞれ自前のライトを片手に、周りの木や土の中を探しにいきました。

さっそく、「クワガタ、いたー!」という声に皆が集まり、興味津々。小林さんは「ノコギリクワガタだね。まずは色を見るのが一番簡単に見分けられるよ。ノコギリはすこし赤みがあります」と解説します。
クワガタのハサミに指を挟んでみる子どもたちは、「あれ、痛くない」と不思議がります。それも、実際にやってみて気がつくこと。小林さんは「指が小さいからぎりぎり大丈夫。僕たち大人がやったら、場所によってはやはり痛いですよ」と微笑みます。
別の場所では、小指ほどの小さい甲虫の仲間を発見してきた子どもが、手に乗せたその虫を養老先生に見せていました。「これはゴミムシダマシだね」と養老先生。
木を照らす小林さんと子どもたち。なにやら「クワガタがいるらしい」と、ほかの参加者も集まってきました
一方、「木と光で、カブトムシをおびきよせるの! 木の家みたいにして」と、ミニライトトラップづくりに挑戦していたグループも。「こんな葉っぱはどうかな?」「上に木をたくさん重ねよう」と工夫を凝らしていました。
ほかにもカマキリやカナブンなど、辺りから次々と昆虫を発見。そんななか、ライトトラップのほうにもだんだんと虫が集まってきました。
ライトトラップにいた「ハンミョウ」を捕まえた子は、「ハンミョウはめっちゃすばしっこいよ。顎と足がちょっと早い」と言いながら、逃げないように手をこっそり開いて見せてくれました。
小林さんが予想していた「アオドウガネ」もやってきました。捕まえた子どもは、両手で優しく支えながら観察していました。
カゴのなかも覗いてよく観察します。
下に敷いた白い布にも小さい昆虫がたくさん集まっていました。


だんだん集まってくる虫も増え、始めたばかりのころに来ていた虫とはまた違う種類の虫も見えてきたところで、あっという間に終わりの時間に。
「もうちょっとやりたい!」という子どもたちに、「ライトトラップはまだこれからいろんな虫がきて面白くなるけど、今日はここでおしまいです。また機会をつくりますので、そのときはぜひ朝までやりましょう」と小林さん。

メイン講師の小林真大さん。蛾の専門家であり、じつはブレイクダンサーでもあります

同じに見える虫でも、よく見るとじつはいろんな違いがあり、この2時間の間にも、100種類ほどの虫が集まっていたようです。
知りたい、聞きたい、共有したい。そんな好奇心いっぱいの子どもたちの姿がみられたワークショップでした。

次回のレポートは、舘野鴻先生による「お絵描きワークショップ」編です。お楽しみに!

撮影:加藤 甫

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