【映画評論】ブルーピリオド
そうだ、映画を見に行こう。
「実写化映画」について
世間でいうお盆休みの初日、唐突に思い立った。最寄りの映画館でやっている映画を調べると「ブルーピリオド」の文字が目に留まった。山口つばさの漫画を原作とする実写化映画だ。
ときに、これをお読みの諸兄は「実写化映画」にどのような思いをお持ちだろうか。私は正直、「ギャンブル」だと思っている。2Dの世界を無理やり3Dに当てはめようとしてキャラクターや世界の雰囲気が崩壊したり、尺や興行の都合上、深堀りができずに表面をなぞっておしまい、となったりするものも珍しくない印象だ。
逆に、原作を実写にうまく落とし込んで、実写ならではの良さを表現することに成功している例もあるだろう。そしてそれは、原作の良し悪しには依存しない。
だから、私は「実写化映画」は「ギャンブル」だと考えている。映画代と2時間そこそこの時間を費やして得られる体験としていいものかどうか、と考えたときに、手が伸びにくい。
しかし今回は何を思ったか、そこに飛び込んでみることにした。
以下、覚えているうちに簡単なレポを残しておきたい。なお、筆者は年間劇場では3本観ればいい方、という「映画にわか」であるため、そのあたりはご容赦願いたい。
以下、映画及び原作の「ブルーピリオド」のネタバレが多少含まれる。なるべく配慮して書くつもりではいるが。
「ブルーピリオド」映画評
キャラクター
実写化映画最大の炎上要素であるキャラクターだが、とてもよかった。原作気読者としては、「キャラがそこに出てきている!」という感覚を覚えた。眞栄田郷敦演じる主人公、矢口八虎はじめ、キャラクターのビジュアル、声、話し方に至るまで、違和感らしい違和感は見られなかった。(八虎については原作より暗めな印象だったが、演出の範囲だと思う)
特に、「ユカちゃん」こと鮎川龍二を演じる高橋文哉は原作さながらにきわめてかわいいし、何かに目覚めそうになった。また、予備校の講師、大葉先生が出てきたときには、そのまますぎて笑いそうになった。
総じて、原作のイメージを損なわないような、しかしコスプレ感や取って付けた印象が出ないようなキャラ付けがされており、原作既読者にも未読者にも受け入れられやすい、魅力的なキャラクターに仕上がっていたと思う。
脚本
かなり駆け足な印象。八虎の藝大合格までを2時間の尺に収めようと思うと仕方ないのかもしれないが、キャラクターの苦悩や背景が削られてややライトになってしまったイメージ。特に、ライバルである高橋世田介の背景描写が削られたことで、ひねくれ具合や嫌味具合が目立った印象だった。それでも、「単に嫌な奴」で終わることなく、かわいげを感じられる構成になっていたのはよかったと思う。
反面、作品のメインだと思われる、八虎の努力や自己表現についてはかなりの尺が割かれており、中途半端にならず描きたいものが一貫した脚本であったように感じた。
演出
キャラクターも脚本もほめてきたが、正直、演出が一番よかった。物語のキーになる「青い渋谷」をどのように表現するのか気になっていたが、カメラワークをうまく活用して八虎の目覚めや高揚感を鮮烈に演出していた。また、八虎がバスの中で絵のテーマの解釈を再構築するシーンも、CGを駆使し、漫画では難しい表現を実現していた。
また、映画の終盤で八虎の努力の跡を唐突に突きつけられる演出は、駆け足気味だった脚本と相まって、不覚ながら泣きそうにもなった。
これらの演出がみられてだけでも、「見にきてよかった」と思える映画だった。
総評
総じて、満足感のとても高い映画であった。特に演出面には「実写化する意味」をこれでもか、というほどに感じ、ただただ原作をなぞっただけのものではなかった。
映画に精通していない素人の意見ではあるが、迷っている人には強く見に行くことをお勧めできる、いい映画だった。
今日はこの後、原作を読み返そうと思う。