キノコはマテリアル
野生キノコが話題に上ると高い確率で「そのキノコ食べれるの?」という質問が帰ってくる。どうもニンゲンはキノコを「食べ物」として捉えている様子。
しかし食べ物としてのキノコ以外の用途があることはあまり知られていない。
一番身近なのが「薬用」
古くから漢方薬や民間薬の原料として欠かせない存在だった。
そして最近では「マテリアル」としてその価値を探究されている。
マイコレザー(菌の革)
たとえば「マイコレザー」
古くから伝統的にキノコをフェルトのように利用する国もあったようで、ある硬いキノコを煮たり叩いたりして伸ばし、帽子にしたりしてきた。あの有名なアメリカの菌学者ポール・スタメッツさんがかぶっているハットもキノコでできている。
最近ではキノコの革としての利用はどんどん進んでいるようで、世界中のハイブランドがマイコレザーを使い始めており、長野県にも海外のマイコレザーメーカーが進出してきたり、アメリカに最先端のマイコレザー工場が建設されたりと、話題が絶えない。
何がそんなにマイコレザーを惹きつけるのか
その魅力は「サステナブル」と「ヴィーガン」にあると思う。
その素材自体が容易に分解可能であり、また動物を殺さなくても手に入る。さらにこれから地球全体で人口の増加が見込まれ、食料が不足する事態が予想される世の中で、牛などの家畜を飼う際にかかる餌(カロリー)が問題になっている。
マイコレザーは生育に時間がかからず、生産にあたって牛ほど消費しないという見解。
※でも地球上で牛を飼う限り、副産物として皮が発生しつづけるので、それを利用するのは理にかなっていると思う
さてマイコレザーは、どうやって作るのか?
それが意外とシンプルで、キノコを平らに厚みを持って培養し、それを圧縮(プレス)し加熱、さらに鞣し加工によってしなやかさを得ているようだ。
以前、試しにヒイロタケの培養菌糸でレザーができないかとやってみたことがある。シャーレに1cm弱くらいの厚みに育った赤い菌糸を培地ごと煮沸し、寒天を除去した後アイロンでプレスしてみた。結果、できたのは非常に薄いペラペラのフィルム状のもので、革には程遠い気がしたが、意外に丈夫で破れにくかった。
革のような厚みをだすにはさらに厚い菌糸マットを作る必要がありそうだ。
どうも革の構造と菌糸マットの構造はよく似ているらしい。
革は繊維状の組織をコラーゲンで固めたような構造。一方の菌糸マットも繊維状の菌糸が立体的に絡み合ったフェルト状の構造をしている。
菌糸マットを革のような風合いを持たせるためには「鞣し」加工にも鍵がある気がする。
マイコ・ブロック(菌糸ブロック)
マイコ・ブロックは、好みの「型」にオガクズなどの培地とキノコの種菌を入れて培養し、菌糸体が十分に蔓延したら型から取り出し、オーブンのようなもので焼成して作る。おそらく使用するキノコの種類と培地の素材によって性質は様々。
ものによってはコンクリート並みかそれ以上の強度も発揮するらしい。
キノコでできた家、ぜひつくってみたい。一体成型されたされた型に菌糸を「接種」して野外で培養し、2年後に完成する菌糸の家とか素敵すぎる(妄想)
また、マイコブロックはレンガのようなものを作って建築材料として使用したり、ワラのような柔らかい素材とキノコを組み合わせて商品を輸送する際に使用する緩衝用の型(名前がわからない)として利用したりと面白い。
サステナブルな素材として注目されているが、雨や雪に対する耐久性はどの程度なのか、ぜひ作って試してみたい。
あとカビ対策として、湿気にあった際にカビが生えたりしにくいよう、おそらく培地の栄養分が極力少ないこと(培養終了時に0になるような設計)が必要なのではないかと想像してみたり。
ブロックなどの固いものとして作る場合、培地の均質性も大事なポイントになると思う。不均一な粒度や不均一な部位(樹皮の混入)は不均一なブロックに直結するだろう。
この菌糸ブロックの発想を使って、製品を作る。
いま構想しているのは「クライミングホールド」を菌糸ブロックで作ること。
・様々な形に成型できること
・強度を出せること
・脱プラに貢献できること
・ほとんど屋内使用が前提であること(一部野外)
これらは菌糸ブロックを用いた製品づくりにぴったりな条件だと思う。
とりあえず作ってみるのだ。
まずやってみる。
マイコレザーやマイコブロックを知ってから、意識が変わった。
とくに硬いキノコを見る目が変わった。
硬いキノコといえば食べられない。
薬用になるものが多いが、苦い。
しかしマテリアルとしてみた場合、どうしたものか、魅力があふれてくる。
「これはいい感じのしなやかさ」とか
「これは質感がいい感じ」だとか
「この菌は針葉樹もたべれるの?すごい!」だとか。
視点が変わるだけでおもしろくなる。
クリーンベンチなどの培養設備=菌を捕まえるモンスターボール を持った今
マテリアルになりそうなキノコの分離培養も積極的におこなっている。
硬くて切り出すのにもひと苦労だけど存分に面白みがある。
安定性
食用のキノコの場合、当然だけど最終目標の生産物はキノコということになる。
なので菌糸培養の後に水や温度で発生操作があり、やっと発生したら今度は形や大きさをそろえるのにひと苦労する。菌にとってキノコが正円になるかどうかはさして重要事項ではないため、どうしても形は揃わない。規格外もできるし、廃棄もある。
一方でマイコレザーや菌糸ブロックは最終生産物が菌糸そのものなので、不確定要素が少ない。
菌糸が育つ温度があればいい。培養する部屋があればよく、発生のための部屋は必要ない。
食用キノコに比べてロスも少なそうだ。家などの建材なんかだったら注文を受けてからの受注生産も可能かもしれない。ロスがないことは経営上とてもいいように働くだろう。この安定性はとても魅力がある。
展望
まだまだ素材としてのキノコの遺伝資源探索はこれからじゃないかなと思う。
未知の性能(たとえば防弾性能のある菌糸とか)を有した魅惑のキノコをぜひゲットしたい。