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インターンサポート②~ ミュージアムの人材採用~

ミュージアム(=広義の博物館)での活動を目指している方のために、ミュージアムの人材採用について整理をしてみました。
ミュージアム領域での「人材育成」と「人材採用」のズレと、利用論による見直しの必要性についても触れています。(2021.11.23)

①ミュージアムの仕事は学芸員だけではない?!

🌕〈S〉
ミュージアム(=広義の博物館)の仕事をしたい。
でも、
どんな仕事をどのようにやっていて、
どうしたらその仕事に就けるのか、
どうもよくわからない。
そんな声が多いようですね。

🌑〈AC〉
博物館学の多くが、
学芸員のやることしか扱わないこともあって、
「学芸員の仕事=博物館の仕事」
というイメージしか伝わっていないのかもしれません。

🌕〈S〉
たしかに!
博物館学の授業を受けていると、
学芸員は「何でもできるスーパーマン」みたいな感じに聞こえますよね!

🌑〈AC〉
かつて、組織体制の不十分なミュージアムでの学芸員の扱いを揶揄する表現として、「これでは、学芸員ではなく“雑芸員“だ」という言い方がありましたが、
何でも自分でやるしかないのが「雑芸員」。
何でもできるスーパーマンとは意味が違います!

🌕〈S〉
「雑芸員」?……、笑い話にもなってません!

🌑〈AC〉
ミュージアムは、博物館事業のための「事業体」ですから、「組織」として活動しています。
もちろん、学芸員だけで運営できるはずはありませんよね。
それでは、
 ◯運営組織のカタチ
 ◯ミュージアムの職制
 ◯採用の方法
 ◯募集情報の所在
 ◯人材育成と人材採用のズレ
 ◯選考での「優位性」
の順に考えていきましょう。

②運営組織のカタチ「△と▽」

🌕〈S〉
「△と▽」って何なんですか???

🌑〈AC〉
あまり、認識されていないことですが、
どのような事業の場合でも、
何を優先する組織なのか、それによって、その「事業の質」が決まります。

🌕〈S〉
「お客様の利益を優先する」とか、
「運営する自分たちの都合が一番大事」とかいうことですか?

🌑〈AC〉
せっかく採用されたとしても、どのような組織の中で活動することになるのか、仕事の意味合いが変わってしまいます。
まず、
運営組織のカタチ「△と▽」をしっかり意識することで、それぞれにとっての「いい仕事」につなげていきましょう。

🌕〈S〉
わかりました!
運営組織のカタチで、「事業の質」が変わるんですね。

🌑〈AC〉
下の図で説明します。
は、よくあるピラミッド型組織
が、逆ピラミッド型組織、利用論に基づいた考え方です。

🌕〈S〉
左の△ピラミッド型は、一番下に「利用者」がありますが、
右の▽逆ピラミッド型では、一番上に「利用者」がいますね。

🌑〈AC〉
両方とも、
「利用者」と直接接しているのは「アテンダント」です。案内や誘導、解説をしてくれる、利用者にとって一番身近なミュージアムスタッフのことです。

🌕〈S〉
△の図は、「アテンダント」を使って「利用者」を管理しているように見えますし、
▽の図は、「利用者」をサポートする「アテンダント」を組織が支えているように見えますね。

🌑〈AC〉
実際の組織図を描くと、ほとんどの組織はピラミッド型になりますが、視点と認識を変えた瞬間に、組織の性格は一変することがあります。
「利用論」の視点は、「運営組織の性格づけ」を強く意識したものだと言えます。

③ミュージアムの職制

🌑〈AC〉
ミュージアムの中には、
国立(独立行政法人)、自治体直営(都道府県、市区町村)、自治体指定管理(民間の指定管理者)、民間事業者という設置運営方式の違いがありますが、「ミュージアム事業の本質」には変わりがないので、全体として捉えてお話をします。
さて、
ミュージアムでの一般的な職制を示すと、以下のようなものになります。
 ①運営責任者
 ②学芸職
 ③事務職
 ④総務職
 ⑤アテンダント
 ⑥設備
 ⑦警備
 ⑧清掃

 ⑨その他
どれも大切な役割を果たすものばかりなのですが、ここでは①から⑤に絞って解説していきます。

①運営責任者
館長、副館長、ゼネラルマネージャーなど
ここにどのような認識の人がいるかで、運営組織のカタチが変わってしまいます。
②学芸職
いわゆる学芸員ですが、正規職員と非正規職員があり、注意が必要です。
③事務職
いわゆる事務員さんではありません。
ミュージアムの運営はどうあるべきかという「見識」が必要な仕事です。
学芸分野以外のすべてが「事務」という言葉に含まれていて、運営の中心的な役割を果たします。業務内容が広範囲にわたるため、募集時には「職員」とだけ表記されることが多い職種です。規模が大きくなると役割分担が明確になり、「事業担当」や「広報担当」と明記した募集もありますが、経験と能力をより強く求められますし、業務内容が広範囲であることには変わりありません。
④総務職
経理事務、人事事務、庶務事務を担当する専門色の強い職種ですが、事務職のカバーをする役割も担っています。逆に小規模な所では、事務職が兼ねさせられる場合もあるので要注意です。
⑤アテンダント
案内、発券、誘導、解説、販売など、利用者と直接接することの多い職種です。

🌕〈S〉
学芸職以外でも、応募要件に「学芸員資格あればなお可」とある場合もあるようですが、何故なんですか?

🌑〈AC〉
募集する側の認識はさまざまだと思いますが、「学芸員資格がある」=「最低限の博物館理解がある人」という目安にしているのだと思います。

④採用の方法

🌑〈AC〉
採用の方法が決められているわけではありませんが、ここでは、「A.公募」「B.推薦」「C.要請」の三つに分けて考えてみましょう。

「A.公募」は、
募集情報を公開し、応募者の中から選考により採用予定者を決める方法。
「B.推薦」は、
信頼のおける関係者の紹介により採用するケース。
「C.要請」は、
適切な人材を探し、依頼により職に就いてもらう方法。

つぎに、「A.公募」の場合の「募集情報」について考えます。

⑤募集情報の所在

🌑〈AC〉
基本的に、募集情報は、
募集する事業体の公式サイトで情報公開しているはずです。

🌕〈S〉
でも、いつ出るかわからない「募集情報」を、それぞれの公式サイトで見つけるのは大変ですよね~!

🌑〈AC〉
はい、
そこで「募集情報サイト」が役立ちます。
ミュージアム関連の募集情報サイトで信頼のできるものが2つありますのでご紹介します。
この2つを見ていれば、募集情報の半分はわかるのではないでしょうか。

ネットTAM キャリアバンク

学芸員就職課 学芸員募集の掲示板

⑥人材育成と人材採用のズレ

🌕〈S〉
両方とも見てみましたが、
自分が応募できそうな募集情報がなかなか見つかりません!

🌑〈AC〉
情報がありそうで、見つからないのは、条件がいくつもあるからです。
◯所在地
◯専門分野
◯職制
これらの条件が、自分の持っている条件と一致しなければならないからです。

学芸員資格取得者の数は、毎年、約一万人います。そのうち、一応ミュージアムの職員等になれるのは2~3%とも言われています。
学芸員として採用されるには、ミュージアムの学術専門分野(考古、歴史、民俗、自然、美術史など)と自分の学術専門分野が一致していなければなりません。
例えば、社会学部などで学芸員資格を取得しても、社会学領域のミュージアムはほとんどないでしょうから、そもそも学芸員になれる可能性はほとんどないということになってしまいます。

🌕〈S〉
それでは、どうしたらいいんですか?

🌑〈AC〉
学芸員資格を持っているということは、
少なくとも、ミュージアムに関心があり、基礎的なミュージアム理解があるということです。
逆に言うと、ほとんどの学芸員有資格者が、ミュージアム以外の仕事に就いて多様なスキルをそれぞれに経験しているはずです。

つまり、ミュージアムに適性のある多様な人材群が存在しても、ミュージアムの人材採用の仕組みが、それを生かせないというのが現在の社会状況だと言えます。
学芸職に専門性を求めるだけでなく、
事務職に専門性を付加し、「ミュージアムに適性のある人材を生かしていこう」というのが、「Museumソムリエ」プロジェクトのねらいの一つでもあり、「利用論」が引き起こすミュージアムの変化の一つでもあります。

⑦選考での「優位性」

🌑〈AC〉
話を「A.公募」に戻します。

選考においては、
「選ぶ側」が「選ばれる側(応募者)」に対して圧倒的優位に立っています。「選ぶ権利」を持っているからです。
でも、
考えてみてくたさい。
選考に至る前に、応募者はたくさんある募集情報の中から、その募集を「選んで」いるはずです。最初に選んでいるのは自分なのです。

「自分の力量」が上がる(=レベルが上がり、範囲が広がる)につれて、「選ぶ権利」は「選ぶ側」から「選ばれる側」に移動していきます。
ですから、
「自分の力量」を高めることが、選考における「優位性を高める」ことにつながっていきます。

その結果として、
「A.公募」ではなく、「B.推薦」や「C.要請」により、仕事に就くこともあるかもしれません。

🌕〈S〉
う~ん。
何を頑張ったらいいのか、少しだけわかったような気がします。

🌑〈AC〉
それでは、また別の回で。

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