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石川県、大聖寺にてクラゲの妖怪と混沌の歴史と遭遇す

↑の画像は石川県加賀市大聖寺にある全昌寺、曹洞宗の寺院です。そして表紙に設定した画像は大聖寺川。

当地ではこのお寺の周辺で起こったとある妖怪現象の伝説が伝えられています。「海月(くらげ)の火の玉」などの名称で呼ばれる伝説です。概略は以下の通り↓

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その昔、大聖寺藩の小原長八という侍が夜中に道を歩いていました。そんな彼が全昌寺の裏手にさしかかったところでにわかに生ぬるい風が抜き抜けたかと思うと前方から火の玉が揺らめきながら飛んでいるのが視界に入ってきました。その火の玉はとても明るく、視界も満足に開けぬ夜の闇を明るく照らし出しています。

そのまま火の玉が自分のもとへと近づいてきたため、長八は腰の刀を引き抜くなり一気に斬りかかりました。その一撃はまるで空を切ったように何の手応えを得られなかったものの、その火の玉は2つに分裂し、彼の顔にひりついてしまいました。まるで糊がくっついたような感じで彼は慌てて引き剥がそうとするもののネバネバするばかりでうまくいかない。その触った感触はまるで松脂のようでもありました。

そのうちに火の玉の明かりが消えて周囲は再び真っ暗になり、それから異様な出来事が起こることはありませんでしたが、怖くなった長八は近所の人たちを叩き起こすと明かりを用意してもらい、顔にひっついたものを確認してみました。明かりの下で見ても相変わらずネバネバしているそれがいったい何なのかさっぱりわかりません。そのネバネバしたものは翌日いっぱいまで彼の顔に張り付き、不快な思いをもたらし続けたのでした。

後日、長八が古老にこの機会な火の玉と出来事について訪ねてみると、古老はこう答えたのでした。

「海にいるクラゲがときどき風に乗って空を飛び回ることもあるんじゃ。そのときには火の玉にように見えるらしいから、そなたが遭遇したのもその類であろうな」

これを聞いた長八は古老の豊かな知識に感服しつつなるほど、と納得。言われてみればあの時にちょっと生臭い感じがしたよな、と記憶を思い起こしたのでした。

おしまい

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空飛ぶクラゲ! 

じつはこの妖怪、かのマエストロ、水木しげる先生も取り上げていまして、その筋(?)ではけっこう有名だと思います。↓はその先生によるイラスト。「水木しげる日本妖怪大全」より

なお、これまでに世界各地で撮影されたUFOの中にはクラゲ型をしたものもあります。もしかしたらこの妖怪もその一種なのかもしれませんね。

↓はクラゲ型UFOの中でもとくに有名な一枚。1975年、デンマークのヴィボー(Viborg)という場所でラウェルセンさんという方によって撮影されたもの。

妖怪伝説に出てくる「明るい光を放つ火の玉」を彷彿させる姿!これをみても「この妖怪=UFO説」はかなり信憑性が高いと言えるのではなかろうか?🤣
ちなみにこの写真がどれぐらい有名かというと、同じく石川県でUFOで町おこしをしている能登の羽咋市にあるコスモアイル羽咋で紹介されているくらい(笑)

まさに未知との遭遇。石川県は「そういうところ」なんでしょうか?

クラゲの英語は「ジェリーフィッシュ(jellyfish)」ですから、この妖怪を名付けるなら「Unidentified Flying Jellyfish」略してUFJ!…ってマズいか。

で、↓はお寺の本堂と説明板

↓はこの妖怪伝説の舞台(?)となったお寺の裏手。

この全昌寺にはとても素敵な五百羅漢像もありまして、作られた年代、願主、制作者まですべてわかっているのは全国的にも珍しいらしい

こうしてみるとなかなかに壮観ですね。

Up the IRONS!🤘

五百羅漢像はユーモラスなものもよく見られますが、この全昌寺のものは比較的折り目正しいというか、基本に忠実な感じでしょうか。

松尾芭蕉と弟子の曽良が立ち寄った地とても知られ、境内にはこの二人の句碑なども建てられています。ほかにも本堂には松尾芭蕉の木造なんかもありました。

さて、このお寺がある大聖寺エリアとはもともと白山信仰の重要な拠点であった大聖寺というお寺があった場所なのですが、白山信仰の衰退や変化によってこのお寺はとうの昔に廃絶し(いつ廃絶したのかもよくわかっていないらしい)、地名だけが残っています。ただ江戸時代には加賀前田藩の支藩として大聖寺藩がこの地を支配しており、その影響もあって現在まで地名だけが残った形となっているようです。

白山信仰が衰退した後この地は一向宗の支配地になり、さらに越前の雄、朝倉氏の支配下に入ったかと思いきや朝倉氏滅亡後は織田信長の一向宗との戦いとの拠点となり、さらに信長の死後は秀吉の傘下の武将の支配地となります。そして天下分け目の関ケ原の合戦の際には西軍方についた当時の大聖寺城の城主山口宗永と東軍方についた前田家との間で戦いが繰り広げられて後者が圧勝、以後前田家の支配下に入る…という目まぐるしい展開となっております。

全昌寺の境内にはそんな前田利家に敗れて切腹した山口宗永(玄蕃)の墓と首塚もあります

すぐとなりには大聖寺藩四代藩主前田利章の娘を供養するための如意輪観音像も

はてなブログの方で以前にかつて如意輪観音が女性を守護する役割を担っている仏さまとして信仰を集めていたことについて触れたことがあります。↓のリンク。かなり長文ですが、ご一読いただければ嬉しいです。

ともかく、この「如意輪観音=女性を守る仏さま」という構図がこの娘の菩提を祈るために作った如意輪観音像からもうかがえるみたいですね。

そして江戸初期に加賀藩3代目の藩主であった前田利常が三男の利治に支藩として大聖寺藩を設立、その後は加賀藩の影響下にありつつも独立した藩としての歴史を重ねていくことになりました。

この大聖寺藩というのがかなりクセモノのようでして、その歴史の過程でさまざまな事件を引き起こしています。↓は大聖寺藩二代藩主、利明の四男であった利昌が着用していた甲冑。これも全昌寺所蔵です。

が説明。彼はもともと兄にして三代藩主だった利直から1万石を与えられて藩主の座についたのですが、この事件で切腹、藩も早々に消滅することになります。それにしても将軍の葬儀の際にキレて相手を刺殺、かなりキてますねぇ。
↓は大聖寺藩についてのWikiページ

ここに書かれているようにもともとも7万石として立藩したものが19世紀に入ってから10万石に増加しているのですが、実体が伴わない形での加増だったようです。

そしてこの大聖寺藩にはお城がありませんでした。↓は藩邸跡地で撮影したものです。

現在当地に錦城小学校になっています。

本家たる加賀藩は江戸時代の「一国一城」の原則下において例外的に2つの城(金沢城と小松城)を持っていました。大聖寺藩の歴代藩主はこの本家と自分たちとの落差に対してコンプレックスか何かでも抱いていたようにも思えます。それで必死になって背伸びをしようとしたのではないか?

その結果加賀藩に対抗するかのように長流亭(藩主の休息所)のような風流を楽しむための施設を作る一方で領民に対してかなり過酷な取り立てを行っていたようです。この長流亭が建てられたのが1709年、まさにこの年に先述した前田利昌の乱行(刺殺)事件が起こっているほか、3年後には「正徳の大一揆」と呼ばれる江戸時代における北陸エリア最大の一揆が勃発しています。

これらを見るとこの藩がいかにメチャクチャな状況下にあったかがうかがえるようですね。

大聖寺エリアがある加賀市のすぐお隣、小松市にはこの地域を代表する観光スポット、那谷寺がありますが、美しい景観で知られるこの素敵な寺院も正徳の大一揆の舞台になっていたりもします。

お化けが「ガッハッハ!」と笑っているように見える…かな?

↑は那谷寺の代表的な景観、「奇岩遊仙境」。一揆の際には農民たちがこのお寺に滞在していた大聖寺藩の役人を取り囲んで見事年貢の六割減免を勝ち取った、とのこと。しかしリーダーほか実行者数人が処刑されてしまいます。それからここも松尾芭蕉が立ち寄ったゆかりの地であったりもします。

加賀藩に関しても兼六園に代表される「武士と貴族の文化が融合した」とも言われる雅やかな文化を維持するために領民にかなり厳しくあたった面があったようで、歴史の「表と裏」の顔といったところでしょうか。

妖怪とはしばしば人々の心の合わせ鏡、みたいな面も持っています。昔の人たちの信仰や考え方、生活環境が反映するような形で妖怪の奇怪な姿形や物語が生み出される。なので妖怪を研究することで昔の人たちの生活や価値観に触れることもできる。

となると、こうした大聖寺藩の圧政による人々の無念や怨嗟が冒頭のクラゲ型妖怪を生み出す素地となっていたのか?とも思いたくもなりますが…クラゲと人々の信仰や価値観がどう結びつくのかさっぱりわからん。やっぱりUFOなのかな?😆

この全昌寺の近くには加賀神明宮なる神社もありまして、ここはかつて白山信仰の拠点だったと考えられていることから「白山五院 白山宮」なる小さな社が境内にあります。

↑の怪談を登った先に↓の社があります。

なお、先週、11月前半に当地を赴いたのですが、例年ならすでに冠雪している白山にまだ雪が見られませんでした。↓は大聖寺エリアから撮影した白山。

ひと目見て「え?まだ白山になってないの?」とつぶやいてしまいました。今年(2024年)は富士山の冠雪が観測史上もっとも遅くなったそうですが、白山でも似たような状況になっているようです。

地球温暖化、気候変動が自然だけでなく信仰の世界にも影響を及ぼしている!

われわれは恐ろしい時代に生きているのかもしれません。

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睦夢夕
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