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【あ~あ 残念なピアノ弾き ―  agitato の罠】

「アジ演説」という言葉、今どきはあまり使わないのか、それは何とも分かりかねますが、この「アジ」は煽動すること・興奮させることを意味する agitation から来ているのは、周知の事実です。これと語源を同じくするのが、イタリア語の agitato 、知ってますよ、それぐらい! ― という声が聞こえてきそうです。

音楽事典の類には、「興奮して」とか「激して」とか書かれているわけですが、要するに動きが激しく動揺しているような状態を指すようであります。

実際、 agitato の指示は結構いろいろなところで出てきますが、動きのある部分ですし、ときに「掻き乱される」ような箇所で出てきますから、どうしても呼吸が荒くなりがちです。曲によっては、聴いている人が苦しくなるぐらいに追い立てられるような表現が求められたりしますね。

そして事件は起こります。

agitato を表現しようとして、本当に息が上がってしまって弾けなくなって撃沈! あ~あ! チーン! お仏壇のお鈴の音が聞こえそうです。

ピアニストたるもの、究極の agitato を究極のコントロールのもと弾かなくちゃいけないのであります。

弾き手の息が上がってしまうようでは、これダメなのでしょうね。息が上がってほしいのはお客さまであって、ピアニストではない。そうは言っても実際心拍数は上がっているのでしょうが。

ところで。

この agitato ですが、どうも死とともに語られることが多いように感じます。

例えば、葬送ソナタとしてお馴染みのショパンのソナタ第2番第1楽章。 ← 普段ショパン弾かないのになぜか語っているがな~。

いきなり Grave で始まること自体、精神的にも極めて深刻で危機的な状況ですが、すぐに Doppio Movimento に移行し疾走。そこに表れる切迫したテーマには、しっかり agitato の指示がありますね。ショパン先生、結構指示細かいらしいから。無視したら化けて出ておいでになるかも。

そうそう。ある方から、もうお亡くなりになられた大ピアニストのコメントとしてうかがったのは ― 「死神が馬車で駆けてくる」 ― ということだそうで…。

言い得て妙! まさにそれ! 迫りくる死神! 必死の遁走! 抗うような叫び!

なお、 agitato の指示のある箇所、いきなり相当な音量で弾き始めるのは逆効果と感じます。揺さぶるように迫りくる死神~。最初はひたひた。だから、やがて爆発的に絶叫すると、効果抜群ってことで。

ま、やっぱり、基本メメント・モリの人たちなんですかね。

とにかくその迫りくるものを表現しないとダメなのでしょう、おそらく。

でもどうでしょう?

単なるやかましい練習曲になってますがな~ ― 嗚呼残念至極! 

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