その手指の痛み ― ミス・マッピングが一因かもしれません
数年前から、私は断続的に親指の腱鞘炎と疑われる症状に悩まされてきました。「疑われる」という表現を用いたのは、スポーツや音楽分野における故障の専門医(整形外科)の先生から、「現時点では最も疑われるのは腱鞘炎でおそらく初期症状である」という診断ではあったものの、同時に「スポーツの場合の診断は一瞬で出来るが、音楽家の場合は、実は診断が難しく、何度かやっていくうちに段々問題を突き止めることになるケースも多いので」というコメントをいただいたことを踏まえています。
私の場合は、故障が発生しやすい条件が揃いすぎるほど揃っていました。
・手根管症候群の好発年齢・性別である
・防音室を作ったことにより練習時間が増えた
前者は、いわゆる「更年期の女性」ということですね。更年期については、私についても、現在どっぷりその期間中であると考えられることから、ホルモンバランスの乱れ等が、手指の痛みに何らかの影響を与えている可能性は否定できません。更年期については、個人差もあるようですが、私の場合は、寝込むほどの症状はないものの、幾つか気になることもなきにしもあらず、といったところです。幸いなことに、先ごろ更年期に関する女性医療のご専門の方から、とても有益なお話をうかがったということもあり、自分の身体とどう折り合いをつけていくか、いろいろと考えるきっかけをいただきました。そのとき教えていただいたのが、日本女性医学学会のホームページ。参考になる動画も複数紹介されています。
ただ、私の場合は、やはり練習時間が増えたことも大きかったと思われます。長年弾けない理由を「練習不足」に求めて自分を納得させていたところがあり、防音室が出来たこと自体は喜ばしいことであったものの、「練習不足」という言い訳が通用しなくなって、自分を追い込んでしまったところもあったように思います。「練習不足は怠惰なだけ」という、一種の強迫観念のようなものですね。急に練習時間が増えると故障のリスクが高まるのは言うまでもないことです。
そうは言っても、完全に弾くのを止めてしまうと、弾けなくなってしまいますから、練習を続けながら痛みとつきあうにはどうすればよいか、ということを模索しているうちに、自分の中にある手指の構造や機能について、あやふやで誤った認識が問題なのかもしれない、と思うようになりました。
そこで参考になったのがボディ・マッピングの考え方でした。このボディ・マッピング、最近では音楽大学の講義でもとり上げられるようになっているようです。先般、私が京都市立芸術大学で音楽生理学の単位を履修したときも、ボディ・マッピングについて講義中にいろいろ言及がありました。
もっとも、私たちの世代で、特に個人レッスンを主体に学んできた人の多くは、ボディ・マッピングの考え方について今まで詳しく知ることなく過ごしてきた方も多いのではないでしょうか。残念ながら、私も、故障するまで、知らず知らずのうちにミス・マッピングしたまま、練習を続けていたようなのです。
私の場合は、親指の付け根と手首との関係が正確に認識されていなかったこと、即ち、親指の中手骨と大菱形骨(手根骨の一つ)と橈骨のあたりの位置関係が正確に頭に入っていなかったことが、不適切な手の使い方につながった可能性があるのです。
適切にボディ・マッピングするためには、自分で骨格の図を書いてみるとよい、という話を聞きましたので、筆写してみたのがこちらの手書きの図です。
これは、あくまでも個人の感覚ですが、こうした骨の図をしげしげ眺めるようになってから、格段に手の調子が良くなりました。ボディ・マッピングは、その気になれば修正できる、ということのようです。
最近では、こちらの書籍とDVDをよく参照しております。見るたびにいろいろな気づきがあり、自分の身体を見直すいいきっかけになっています。
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