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【あ~あ 残念なピアノ弾き それ歌ってるつもり?】

「もっとメロディを歌って!」 ― ピアノを習うと必ず注意されることです。

でも「ピアノで歌う」ってどういうことでしょうか?

おっと、例によって、歯に衣着せぬ物言いでおなじみの「嫌味婆K子さん」、またまた言いたいことがあるらしく、さっきから毒舌を吐いているようです。

ピアノの腕前を判定するのは、至極簡単なことよ!
メロディを歌う能力があるかどうか、ま、4小節聞けばわかるわね!
だいたい、歌う基礎力もないのに、難しい曲ばかり手を出しすぎ。
音を鳴らすことで精いっぱい、ちっとも歌うレベルにまで至らない。
それじゃ、いつまでたっても歌えるようにはならないわね~。
木琴とかをカンカン叩いているような弾き方にとどまっている。
でも、おめでたいことに、本人は歌っているつもりなのよね~、それでも。
それって、ただの勘違い。
それより、まずは基礎を徹底的に見直さない限り、歌う力はつかないと思うわ~。

あらあら、またまた容赦ないご意見ですね~。

でも、残念ながら「嫌味婆K子」さんには反論できないです、私も。

実は、「ピアノで歌う」ということは、誰でもすぐに実現できるほど簡単な話ではありません。

一つは、ピアノの構造的な特性によるところもあります。

ピアノは、鍵盤楽器に分類されますが、発音の原理という意味では、ハンマーが打弦する、即ち、打楽器の特性を持つ楽器です。

特に、ダンパーペダルを踏まない場合は、離鍵とともにダンパーと呼ばれる止音の仕組みが作動しますから、それこそ木琴をカンカン叩いているような音が鳴らされる楽器なのですね。

もちろん、ダンパーペダルを踏むことで、弦を開放して弦振動を長く保持することは可能ですが、そうは言っても、打楽器の特性を持つ以上、打弦の瞬間が最も音が大きくなり、あとは減衰する一方の楽器であることには変わりありません。もはや、減衰はピアノの宿命といっても過言ではありません。

ある高名なピアニストだったと記憶しておりますが、「打楽器であるがゆえに、どうしても上下動が支配的な未熟な演奏になってしまいがち」というようなことを仰った方がいらっしゃいます。

そう、まさに歌になっていないのですね~。

一方、「歌う」というからには、歌っているときの人間の声のあり方を想起してみると、基本的に発音原理は打楽器ではなく管楽器であることは誰の目にも明らかです。呼気を使いますから。ですから、打楽器のような打点の連続ではなく、呼気を送り声帯を振動させている限り、なめらかな旋律線を表現することが可能ですね。

しかも、声であれば、音量や音程をシームレスに変化させることができます。同じ音程の音であっても、小さく始めて crescendo することも可能ですし、いわゆるずり上げ・ずり下げといった portamento も可能ですよね。

なお、音量や音程をシームレスに変化させることが出来るという意味では、ヴァイオリン等の擦弦楽器でも可能ですね。ヴァイオリンの音は人間の声に近い、という話も聞きますが、そういう話を持ち出すと、チェリストあたりから「チェロの方が人間の声に近いですよ」という反論が返ってくることもあります。あるいは、オーボエやクラリネットも、人間の声に近い楽器である、という意見もあるのだとか…。

でも、確実に言えるのは、「人間の声に近い楽器」は何かという問いかけに対して、ピアノが一番に列挙されることはまずあり得ない、ということです。なぜなら、ピアノの場合、「固定された音程」と「打楽器」という構造上の大きな制約があるからです。つまり、歌うような滑らかな表現を実現するという意味では、圧倒的にピアノは不利な楽器と言っていいと思います。

そんなこと知ってますよ!

そうおっしゃる方多いでしょうね。

でも、実際には、多くの方が(相当難しい曲を弾かれている方であっても)、それこそ打楽器としての「上下動が支配的な演奏」 ― すなわちカンカンとした音ばかりが目立つなめらかさに欠けた演奏にとどまってしまっているのが現状ではないでしょうか。

では、ピアノで歌うために注意すべきことは何でしょうか。

私は、以下の3点が重要であると考えています。

特にレガートで連結される場合、減衰するピアノの音の響きを聞きながら、違和感なくつながって聞こえるように、次の音の打鍵時の音量・音色をコントールすること

出された一つ一つの音の輪郭を明確に意識しながら適切な離鍵を行うこと

メロディの音型・和声進行・その他作曲家の指示等に即した微妙な抑揚を実現すること

…と書くのはまだ簡単なのですが、要するに自在なタッチコントロールが出来るようになって、はじめて「歌う」ことが可能になる、という意味なのですね。実現への道のりは結構長いです~。

表現のための技術とは、なかなか奥深いものです。

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