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激しい運動後の内臓疲労は栄養で解決できるのか?
私たちの腸は食事から摂取した栄養素を吸収するはたらきがあります。
ただ、なんでもかんでも吸収するわけではありません。有害な物質は体内に取り入れないように、腸にはバリア機能が備わっているのです。
しかし、激しいトレーニング中は血流が筋肉に集中します。すると腸への酸素の提供が少なくなり、腸の細胞が損傷し、バリア機能が損なわれてしまうのです。
その他にも、体温が上がると腸のバリア機能が損なわれるという説もあります。具体的には体温が38.6~39.0℃くらいまで上がると、お腹のダメージは増えるそう。
このように「酸素の不足」と「体温上昇」の2つのメカニズムから、激しいトレーニングはお腹の不調を招くと言われています。
そこで今回は、運動が原因で生じるお腹の不調を解決できる可能性のある栄養素をいくつかご紹介します。
1.グルタミン・シスチン
グルタミンもシスチンもアミノ酸の1種。
グルタミンはアスリートの中では比較的有名な成分かと思います。主に運動後の免疫低下(オープンウィンド)の対策として用いられますね。
シスチンは鶏肉に豊富に含まれています。
グルタミンとシスチンはそれぞれ単独で摂取しても腸のダメージを抑える可能性が示唆されているのですが、味の素がグルタミンとシスチンの併用の有用性を確かめています。
健康な成人男性に1日3回グルタミンとシスチンの混合物1.23gを摂取してもらったところ、60分間のランニング後の腸の粘膜の低下が抑えられたとのこと。
グルタミンとシスチンの混合物は、研究で用いられた用量で製品化されているので、是非お試しください。
2.プロバイオティクス
プロバイオティクスは腸内環境を整えるはたらきがある微生物のことです。乳酸菌やビフィズス菌などが該当します。
プロバイオティクスを摂って普段から腸の状態を整えておけば、運動後の腸機能の低下も防げるのでは?と考えられているのです。
ただ、どんな菌株が有用で、どれくらいの量が必要で、どのくらいの期間摂ればいいか、といった点についてはまだまだ明らかになっていません。
現時点ではサプリメントで個別の菌株を摂ることはせずに、ヨーグルトやキムチなどを普段の食生活に取り入れるくらいの意識でよいでしょう。
3.ダークチョコレート
ダークチョコレートにはカカオポリフェノールが豊富。ポリフェノールは腸に存在する病原菌のはたらきを阻害し、腸内環境を良好に保ってくれる可能性があります。
エリートサッカー選手24名を対象に、ダークチョコレート(カカオ含有率85%以上)40gを30日間摂取してもらった研究では、30日後チョコレートを摂取した群で腸が病原菌などを通しにくい状態になっていたことが示されています。
一般的なダークチョコレートは1枚5gなので、毎日8枚食べれば研究と同等の量になるでしょう。
4.クルクミン
クルクミンはウコンやカレー粉などに含まれポリフェノールの1種です。ウコンやカレー粉の黄色の基となってる成分ですね。
高い抗酸化作用や抗炎症作用を有することから、筋肉痛からの回復などを目的によく用いられています。
腸のダメージ軽減という観点からは、3日間500mgのクルクミンを摂取することで、暑い環境でのランニング後の腸の細胞の損傷を軽減することが示されています。
3日間という短期間で変化が確認されているのは注目に値しますね。これから夏が始まりますので、激しいトレーニングをされる方は試されるのもよいでしょう。
5.シトルリン
シトルリンはスイカに含まれるアミノ酸の1種。アルギニンとともに尿素回路を回し、一酸化窒素を増やす作用があります。
一酸化窒素は血管を広げて、血流を良くする体内物質。つまりシトルリンを摂って血流がよくなれば、運動中も内臓への血流がある程度担保されるのでは?と考えられているわけです。
実際に60分間の自転車運動の前に10gのシトルリンを摂取することで、運動後の腸のダメージが軽減する可能性が示唆されています。
しかし、同じく一酸化窒素を増やすはたらきがあるアルギニンや硝酸塩では、腸を保護する効果は確認されていないため、血流改善系のサプリメントが本当に効果があるか?については今後の研究に期待です。