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【短編小説】メンヘラな彼女

寒い冬の夜、部屋で肩を並べながら
サキと一緒にテレビを見ていた。
「わたしのこと好き?」とサキが聞いた。
「好きだよ」
「サキ、好きだよと言って」
「名前を呼ばれたいの?」
「もっと、イチャイチャしたいの」

サキは僕に初めて出来た彼女だ。        
愛情深いと思っていたが、つきあうと
どこかメンヘラっぽいところがあった。
何度も好きかと聞くので面倒くさくなっていた。
それで僕が適当にサキの話を聞いていると
「いま、ほかの女のことを考えていたでしょ」とサキが怒る。
「はー、誰だよ、そんな女はいねーよ」
「あの女はゴミ、やめたほうがいい」
「お前さー、なんか、勘違いしてない」
「誤魔化してもだめ、弘人のことは何でも分かるの」
「お前、おかしいよ、そういうのは妄想と言うんだよ」

サキにはうんざりしていて、ガールズバーの女に僕は夢中になっていた。
キャストと客の関係で店以外で会ったことはない。推し活のようなものだ。
頭の中はその女のことでいっぱいだった。
「あの女のことは考えないで」とサキが強い口調で言う。
「だからー、あの女って、いったい誰だよ」
「弘人、お気に入りのガールズバーの女」
「お前、なんで知ってるの、怖すぎだよ」
「あの女は弘人をお金としか思ってないよ」
「そんなことは分かってる」
「わたしは弘人を心の底から愛してる」
「いい加減にしろ、お前は重すぎるんだよ」
「弘人もわたしを好きだと何度も言ったでしょ」
「もう無理かもな、限界。俺たち終わりにしようか」
「お願い、わたしを見捨てないで」
「……」
最後は甘えるような声で言っていたが、
僕はそれを無視して眠りについた。zuzuzu


 
翌朝、サキの泣き叫ぶ声で僕は目を覚ました。
ベットの床にはナイフが転がっていた。
「もう死にたい、もう死にたい」泣きながら繰りかえす。
「落ち着け、ちゃんと話を聞くよ」僕はどうにか声をかけた。
「お願い、見捨てないで」泣きながら懇願する。
「分かった。見捨てない。大丈夫」安心させるために言った。
「もう無理、限界、心がこわれるよ」
「サキは悪くない。きっと心の病気なんだ」

その時、部屋のドアが開いた。
「朝から一人でどうしたの」と母が心配そうな顔をして聞く。
「サキが死ぬと言って大変なんだ」と僕は答える。
「サキって一体誰のこと」
「そばにいる僕の彼女だよ」
「本気なの。それは大変」
「どうしたらいいかな」
「また、幻覚が始まったのね。薬はちゃんと飲んだ。
 もし、症状が酷かったら、一緒に病院に行こうね」

(おわり)

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