漢方のすすめ❗️風邪対策で持っておきたい漢方薬3選
院長note第2段は『漢方薬』についてです。私自身、漢方薬は好きで、体調がすぐれない時にはまず漢方薬を飲んでみます。外来においても、患者さんの要望が多くあり、西洋薬を主に使いながら、漢方薬も併用で処方したりしています。今号では漢方薬の概論や風邪症状に有効な漢方薬をお伝えしたいと思います。【時短】時間のない方は、目次から『風邪対策で持っておきたい漢方薬3選』と『使用例』のみ、ご覧下さい。
私の漢方の原点
日本の医学部では基本的に西洋医学、西洋薬を習います。最近は漢方や東洋医学も見直され、カリキュラムに入るようになっているようですが、当時私の出身の日本医科大学では基本的には習わなかったと思います。しかし、四年生の3学期に自主学習という研究室に配属される選択授業で、『東洋医学』を選択した事がきっかけでした。後に微生物免疫学教室の教授となられた高橋秀実先生の講義は大変面白く、グイグイ引き込まれていきました。先生はアメリカのNIHでAIDSの研究をされ、一流科学雑誌『Nature』や『Science』に論文が掲載され、飛ぶ鳥を落とす勢いがありました。選択授業の中でも人気が集中したため抽選となり、漏れてしまったため、潜り込んで受けた記憶があります。その授業が今まで受けた中で一番面白く、勉強になった授業のNo.1ですし、漢方の治療を行う上での基礎となっています。
西洋医学と東洋医学(漢方)
西洋医学は科学的な研究に基づいて病気の原因を突き止めて、それをピンポイントで狙って治す治療(投薬、手術など)です。細菌感染症に対する抗生物質の治療などは西洋医学が強い分野です。対して、東洋医学(漢方)は経験に基づいた体系的な理論を用いて、身体全体のバランスを整える治療(生薬、針灸など)です。約2000年以上前に中国で始まり、日本に持ち込まれて1500年以上の歴史がある経験的な医学です。現在日本でよく使われている漢方薬は傷寒論(しょうかんろん)といった中国医学の古典に載っている生薬の配合を踏襲しており、先人が積み重ねてきた経験が元になっています。
『漢方薬』について
漢方薬は数種類の生薬から構成されております。生薬は糖脂質、フラボノイド、サポニン、アルカロイドなどの有効成分を含み、単剤での作用や他剤との相互作用で効果を発揮します。
一方、西洋薬(合成薬)は単一成分からなり、基本的に1症状、1病態に対応するため効果は強いですが、複数の症状があると薬が複数に増えます。対して、漢方薬は複数の生薬からなるため、多成分です。そのため、身体全体のバランスを整えたり、いくつかの症状に対して効果があります。例を挙げますと、水の過不足を調整する漢方『五苓散』は、水の関係する多様な症状:頭痛、めまい、嘔吐、下痢、浮腫、二日酔い等に効果があります。また、腸を温めて調整する漢方『大建中湯』は便秘と下痢という真反対の症状を改善させます。詳細は次号以降で記したいと思います
『未病』について
約2千年前の中国最古の医学書『黄帝内経 素問』には、『病気になってから治療を始めるのではなく、未病(病気の前段階、あるいは軽症)のうちに予防や治療を開始するべきである』とする記載があります。
私も診療において、重視している考えです。怪我でも、同様で、一番は怪我をしにくい身体作り、基本のフォームを身につけ、予防することが大切です。怪我をしてしまった場合も初期の段階で適切な治療を施すことが大切で、無理をして慢性化した怪我は治すのにも時間がかかります。
風邪の引き始めも、未病と言えるでしょう。寒気がする、喉に違和感がある、身体が何となくだるいといった症状には次に挙げる漢方薬が有効です。
風邪対策で持っておきたい漢方薬 3選
風邪の初期症状や予防に効果のある代表的な漢方をご紹介します。それぞれの薬をイメージし易いように『漢方薬キャラクター図鑑』からのイラストと生薬の成分(ツムラHP)を載せました。
葛根湯
一番有名な漢方です。ツムラの製品番号No.1です。風邪・炎症性疾患(リンパ節炎など)、肩から上の痛み、肩こりに効果があります。ゾクゾクッと寒気がして、喉の違和感、頭痛などの風邪の初期症状に良く効きます。
東北大学は『新型コロナウイルス感染症の急性期症状緩和、重症化抑制に漢方薬(葛根湯+小柴胡湯加桔梗石膏)が有効であった』とする研究結果を報告しています。
小青竜湯
鼻風邪や花粉症によく効く漢方です。鼻水や咳の症状の風邪の引き始めで、寒気がする時に飲むと効果があります。抗アレルギー効果もあり、アレルギー性鼻炎・結膜炎、喘息にも有効です。西洋薬では抗ヒスタミン剤がよく使われますが、眠くなる副作用がよく出ます。『小青竜湯』は眠くなりません。ちなみに、名前は中国の神話に登場する四神(青竜、白虎、朱雀、玄武)に由来するそうです。かっこいい名前ですね。
補中益気湯
身体や心が疲れている時に、胃腸を整えて、元気を出す漢方です。補中益気湯に含まれる生薬の「人参」と「黄耆」には免疫を高めたり、気を補う作用があります。だるい、疲れやすいといった『未病』の症状には、ファーストチョイスです。風邪の予防や風邪などの病後の体力回復に効果があります。
帝京大学の新見正則先生は
『2009年インフルエンザ流行時の感染予防に補中益気湯の服用が有効であった』(リンク:QLife漢方)と報告しております。
『実証』と『虚証』について
漢方では人の体質を体力、抵抗力、体格などから判断して、『実証』と『虚証』(、間の中間証)に分けて考えます。体力や抵抗力が充実している人を「実証」、体力がなく、弱々しい感じの人を「虚証」と言います(下記のイラスト参照)。薬も証との相性があります。葛根湯、小青竜湯は、実証〜中間証向け、補中益気湯は虚証向けの漢方です。
中間証〜虚証の使用例(自験例)
我々の生活圏にはウィルスや細菌がたくさんおり、日々喉の粘膜などに付着しては免疫力により、撃退しています。疲労や不摂生などにより、免疫力が落ちてしまったり、大量のウィルスを吸い込んでしまうと免疫が負けて感染してしまいます。未病のうちに、上記漢方薬を上手く使うと、発症せずにやり過ごせます。だるいなぁ、疲れたなぁという時には補中益気湯を使い、免疫力をサポートします。喉の違和感や頭痛があり、寒気がする時は葛根湯を飲んで、暖かくして沢山寝ます。鼻水が出る時は小青竜湯を飲みます。寒気を伴う時は風邪でしょうし、そうでないときはアレルギー性鼻炎でしょうが、どちらにも効果があります。1回で治る時もあれば、数回飲む時もあります。葛根湯、小青竜湯は胃が弱い人(虚証)には胃薬を合わせて飲むことをオススメします。または、夜葛根湯を飲んで、朝少し胃もたれを感じたら、補中益気湯で胃を整えて、免疫力をアップさせます。こんな感じで体調を整えています。人それぞれ証も異なり、引きやすい風邪の性質、症状もありますので、色々な漢方を試して、自分なりの3選を探ってみると良いです。
風邪の予防
漢方薬を使わなくても、免疫力を高めておくことで風邪は予防できます。
一般的ですが、①睡眠を充分取る(7時間がベストと言われています)
②適度な運動(過度な運動は免疫力を下げます)
③疲れやストレスを溜めない(頑張りすぎない、気分転換、息抜きも大切です)
④身体を冷やさない(夏の冷房や冷たいものの取り過ぎも注意)
⑤バランスの良い食事、腸活(免疫機能の70%は消化管に。発酵食品や食物線維、オリゴ糖で腸内フローラを健やかに)
最後に
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。漢方薬は素晴らしい薬です。漢方は『ゆっくりしか効かない』とか『あまり効果がない』といったネガティブなイメージを持たれている方がいますが、即効性のある漢方もたくさんありますし、体質に合っていれば驚くほどの効果を発揮します。ウィルスが引き起こす風邪に関しては西洋薬よりも効果があります。次号以降でまた漢方薬の魅力をお伝えしていきたいと思います。右下の♡(スキ)やフォロー、シェアで応援頂けますと、励みになります。よろしくお願いします。
【現在、発熱・風邪症状のある方へ】
武蔵浦和整形外科内科クリニックには整形外科の患者様が多く、その中でも感染リスクが高いご高齢の方が多く通院されております。コロナ禍において、現在発熱・風邪症状のある方の対面診療をお断りしております。オンライン・電話診察が可能ですので、ご相談下さい。通常の外来で、前もって上記3選を処方することは可能です。ご理解ご協力の程、よろしくお願いいたします。