見出し画像

“文化・芸術を通して余裕を持てる社会に“ー100周年記念事業“能楽公演“を振り返ってー

みなさん、こんにちは! 学生広報チームの金川、丸山です。今回は武蔵野大学創立100周年記念事業プロジェクトの一つ「文化、芸術、研究成果の発信(以下:プロジェクト9)」のプロジェクトリーダーである上岡学先生にインタビューをしました。「プロジェクト9」についてのお話に加え、上岡先生の文化・芸術の捉え方や学生へ向けたメッセージもいただいたので、ご紹介します!


プロフィール

上岡 学(うえおか まなぶ)先生
武蔵野大学 教育学部 教育学科 教授/副学長

私立桐朋学園小学校に21年間勤務したのち、2008年武蔵野大学に着任。
趣味:バドミントン、ドライブ、旅行

上岡先生自身、何かを追求することが好きで、追求することを続けられる仕事、かつ身に付けた知識を共有できる仕事は何かと考えたときに、教員を目指そうと思ったそうです。また、高校生時代の数学の先生にも影響を受けたといいます。分かりにくい内容を生徒が理解しやすいよう面白く教えてくれるような先生で、知識を教えることとは別に、“人を面白がらせる“といったことも教育の一つなのだと感じたそうです。勉強嫌いな子を好きにさせることが教師の仕事だという点に魅力を感じたと話していました。

そもそも「プロジェクト9」とは?

プロジェクト9は、学校法人武蔵野大学の創立100周年を記念し、本学の伝統的な「文化・芸術・研究成果」を発信・形にしていくプロジェクトです。プロジェクト9の最終的な成果は2024年6月29日に築地本願寺で行われた能楽公演です。本学の文学部日本文学科(現在の日本文学文化学科)の初代主任教授である土岐 善麿(とき ぜんまろ)先生が創作した新作能「親鸞」と舞囃子「羽衣」と狂言「悪太郎」を築地本願寺で上演いたしました。

築地本願寺の能楽公演「親鸞―夢と教えー」のフライヤー
能楽公演の様子(新作能「親鸞」後シテ:親鸞聖人 佐々木多門 撮影:山本治道)

上岡先生は、能楽公演のプロジェクトリーダーとして活動されました。
プロジェクトの企画にあたって、西本学長から「文化や芸術の分野で100周年にふさわしく武蔵野大学の特色を生かした企画」を依頼された上岡先生は、本学にある「能楽資料センター」に着目しました。能楽資料センターは1972年に開設された能楽に関する研究機関で、能楽に関する貴重な資料が蓄積されています。これは本学の大きな特色だということで「能楽」を軸にしたプロジェクトを企画することに決めたそうです。

武蔵野大学と築地本願寺 2つの記念のコラボ

上岡先生とプロジェクト委員会では「能楽公演」と「武蔵野大学創立100周年」をどのようにリンクさせようかと考えた際、本学の特色の一つである“浄土真宗の教え”を背景にして、能楽公演を実施しようと思い至りました。そこから土岐善麿先生が浄土真宗の開祖である親鸞聖人を描いた新作能「親鸞」の公演を開催したいと考えたそうです。さらに築地本願寺を開催場所にしたことにも深い理由があるそうです。

「100周年記念と能楽をどのように関連させるか、ふさわしい形とはどのような形かをいろいろと考えました。プロジェクトのメンバーで話し合った結果、浄土真宗が背景にあること、そこから土岐善麿先生が新作能「親鸞」を制作したことに着目し、「親鸞」を公演しようとメンバー間で考えが一致しました。
次に重要なのが、公演を開催する場所です。いつも通りイベントを開催するならば武蔵野キャンパスにある雪頂講堂ですが、今回は本大学と浄土真宗とのご縁で強く結びついている築地本願寺で実施できないかという話になりました。しかも、ちょうど同時期に親鸞聖人の生誕850年、浄土真宗の立教から800年という記念でもあったのです。これほどふさわしいコラボレーションはないのではないかと思いました。そこで築地本願寺様に相談したところ、ご快諾いただけ全面的な協力を得ることができました。
実際に公演を鑑賞させていただいたのですが、想像以上にその空間が荘厳で魅力的でした。舞台の背景には老松が描かれているのですが、今回は築地本願寺のお堂で能楽が演じられ、背景に仏様の存在があり、壮麗で荘厳な空間が自然に演出され、100周年にふさわしい素晴らしい空間となりました。」

取材の様子

単なる“100周年記念“ではない、これまでの繋がり

そんな想いをもって開催された創立100周年記念事業能楽公演「親鸞聖人―夢と教え―」。この開催にあたって、様々な方の協力を得たそうです。特に、能楽資料センター長/文学部教授の三浦 裕子(みうら ひろこ)先生や文学部の先生方には大きく力を貸していただいたといいます。そこで上岡先生は、「100周年」という記念はもちろん、それ以外のこれまでの伝統的な繋がりなども感じたそうです。

「三浦先生をはじめ、文学部の先生方には大変感謝しています。三浦先生のお知恵をお借りし、新作能「親鸞」以外に行う演目は何がふさわしいのかご相談させていただき、舞囃子「羽衣」、狂言「悪太郎」の演目を決めることができました。また文学部の先生方も、築地本願寺との連携や関係者の方との繋がりが広く、おかげさまで能楽公演を成功させることが出来ました。
“100周年記念”という名目だけではなく、能楽資料センターや文学部をはじめとした本学の伝統的な繋がり、積み重ねがあったからこそ、開催できたことは本学の歴史の厚みと底力をあらためて感じられました。」

能楽公演の様子(新作能「親鸞」前シテ:恵信尼 佐々木多門 撮影:尾形美砂子)

「プロジェクト9」と「特別活動」の密接な関係

上岡先生の専門分野は教育学であるため、プロジェクトリーダー着任前は『プロジェクト9』に直接的に関連する研究はしていなかったと語っていました。しかし、教育の中で文化や芸術を教えることがあり、教育学においても重要なテーマの1つであると考えるようになったと言います。
特に、上岡先生が長年研究されている「特別活動」と、「プロジェクト9」には密接な関係があるということも語っていました。

「『特別活動』というのは学校で教える勉強以外の学校行事などのことです。例えば、学級活動、生徒会活動、クラブ活動、学校行事などを指します。その特別活動が大事なのです。なぜかというと、学校行事をしないと体験格差が広がり、それが学力にも影響を及ぼすだろうと考えられているからです。具体的には、経済的に恵まれている家庭は旅行や文化・芸術などの多様な体験が出来る。対して経済的に厳しい家庭は、旅行に行けなかったり文化・芸術に府触れられなかったりします。つまり、豊かな体験に差が生まれるのです。それが体験格差であり、そのままでは広がったままです。それは学力にも影響します。国語や算数で文章問題を考える際にも、体験が多い子どもは『あの時とあの状況だ!』と、自身の体験と照らし合わせて取り組むことができ、解答までのプロセスが容易になる可能性が高いのです。そうではない子は、問題を解くための材料が少なく、イメージが浮かびにくく解答までの難易度が上がります。この体験格差をできるだけ埋めるために重要な教育が学校における「特別活動」なのです。経済格差のある子ども達が一緒に校外学習や修学旅行に行くことや文化・芸術に触れることで、皆が同じ体験を通して同じ学びと知識を得ることができます。だから特別活動は重要なのです。
『プロジェクト9』の芸術・文化の先にはまさにその要素があります。芸術に触れる機会が少ない子は、先ほどの例のように様々な授業の理解の中で差が出てしまう可能性があります。こういった体験格差を広めない、できるだけ多くの人に知ってもらうという意味でも、能楽公演は大きな意味があります。今回の100周年の能楽公演をそのような文脈で考えるとこれからの日本の教育においてあらためて日本の文化・芸術を届ける必要を感じ、そのためには大学は何ができるのかあらためて考えさせられました。」

人生に潤いをもたらす文化や芸術

最後に「文化や芸術に興味のある学生に伝えたいメッセージはありますか?」という質問に対して、上岡先生は文化・芸術は人生に潤いをもたらすものとして非常に大切であると話し、本学のブランドステートメントである“世界の幸せをカタチにする。”といった意味でも、文化や芸術をこれからも大切にして世に広めて欲しいと語っていました。

「能楽に限らずですが、文化や芸術は、とても大切なものだと思います。これらは人生に潤いをもたらすものだからです。
重要なポイントとして、文化や芸術が栄えるための条件は何かというと、『平和で幸せであること』と、『時間に余裕がある』という2つのことです。反対にこの2つがなく、戦争などにより生活や資源に制限がかかってくると、最初に切り捨てられるものは何か。それは文化・芸術なのです。これは世界のこれまでの歴史が証明していることです。そう考えると、文化や芸術を大切にしていく、大切にできる社会を作らなければいけないし、そのための条件を整えなければなりません。
文化や芸術は豊かで幸せで、時間に余裕がないといけない。それを作り、広げることが大事で、それが本学の“世界の幸せをカタチにする。”と繋がってくると思います。だからこそ、文化や芸術を作り、世に広めていくことを大切にしてください。余裕を持って生きていくということは幸せになるには絶対に必要なことだと思います。」

また、上岡先生は「今の学生には、知的好奇心が必要」だと語ります。

「”知りたい”という気持ちが大切で、これがあれば、一生懸命調べたり聞いたりする。その気持ちが無いと調べようともしないし、友人と話していても、「ふうん。」で終わり興味すら持たない。これでは高まり合えません。お互いに知ることを面白がるとお互いが高まり合います。お互いが知ることを面白がると会話がどんどん広がるし、自分が相手に興味を持ちます。そして、コミュニケーションが高まり、相互に知識が深まり、議論も高まります。今回のプロジェクト9も同様で、能楽に興味を持って『面白そう、観てみたい』と思ってほしいです。
私自身も能楽に触れるにつれて、仏教、演劇、歴史、文化などどんどん気になることが多くなっていきました。今後のプロジェクトとしても、より能楽の魅力を伝えていきたいと思っています。」

最後に / 取材を終えて

上岡先生のプロジェクトに対する熱い気持ちと、改めて武蔵野大学が100周年を迎える意義というのを強く感じました。特に印象的だったのが、上岡先生の専門研究分野である「特別活動」と、能楽公演を開催することの関係性です。僕も、趣味としてアートに触れることが好きで、上岡先生の芸術に対する考え方には共感するものが多かったです。過去の取材で能楽に関わる機会が多く、その魅力を肌で感じた身としては、より多くの学生に触れてほしいと思いました。今後の「プロジェクト9」がより発展していって欲しいと思います。(金川)

今回、上岡先生に取材をさせていただいて文化・芸術についてもっと調べたいと感じました。私は能楽について、あまり知りませんでしたが、今回取材をして「能」の奥深さ、必要最低限の表現で観衆を魅了させる不思議さがあることを学びました。この不思議な感じを、より深く調べたい、体感したいと私自身の知的好奇心を掻き立たせ、そういった動機が今後の学力にも繋がっていくのだなと思いました。(丸山)

左から 丸山、上岡先生、金川

※肩書は取材当時(2024年11月)のものです

経営学部 2年生 金川 心
政治学科 1年生 丸山 大智

【学生広報チームについて】
学生広報チームは2023年9月に活動を開始しました。創立100周年事業プロジェクトの取材を行い、武蔵野大学だけでなく、学校法人武蔵野大学の中学校や高等学校の学生や地域の方々にも武蔵野大学や100周年事業の魅力を発信できるように今後も活動していきます。

いいなと思ったら応援しよう!