3200円に化けてたメタモン
依存について
僕はゲームセンターに一切の興味がない。
というよりは、持たないようにしている。
なぜならば、僕には「依存しやすい」傾向がある。
ハマりたくない
昔から何かにハマるとすべてを犠牲にして、それに熱中する。
「すべて」とは、金銭や睡眠時間を指す。
別にこれは、天才性の類ではない。よく"天才"が言う「すべてを投げうって没頭する」こととは別だ。
何が別なのか。
「この行為は無駄(もしくは、自分にとってマイナス)である」という自覚を持ちながら、すべてを犠牲にするのが僕である。実にアンビバレンス。
むしろ自分にとって善いものは、計画性を持って進めることができる。最大限のパフォーマンスを発揮できるように、テクニカルな時間の使い方ができる。
しかし、「無駄ではあるが、無思考の快楽に身をゆだねること」に僕はめっぽう弱い。最大限のコストを払ってしまいがちである。
だから、たばこもギャンブルもしないし、Tiktokも入れない。恋愛で依存することもないし、アイドルなどのファンでもない。
もし一度ハマれば、抜け出せないのが目に見えている。人生が詰む。
だから、それらの趣味と適度な距離で付き合えている人がいるのはすごいと思う。僕にはできない。
ゲームセンターとは、僕にとって、つまりそうい対象なのである。
現在、札幌よしもとの事務所および楽屋は、サッポロファクトリーの3階にあり、その真下にゲームセンターがある。
ゲームセンター自体に魅力を感じたことはないが、今日は違った。
彼がいた。
メタモン。
僕の依存先
かわいすぎる。
僕は、心のよりどころをこうしたふわふわしたかわいいものに置いている。
気持ち悪がられることも多いが、これはしょうがない。おそらく幼少期からつらいときはぬいぐるみと一緒にいることで解決したせいである。
この権謀術数とはかけ離れた無垢な笑顔。かわいい。
僕は、「かわいいだろ?」というかわいさは好まない。
裏のマーケティングが見えないキャラが好きなのだ。メッセージ性が少なく、シンプルで、ふわふわしたもの。これが性癖である。
そしてこれらかわいいものは、僕に唯一、負のフィードバック「無駄ではある」という感情を抱かせないまま、僕を夢中にさせることができる。だから、依存先なのだ。
UFOキャッチャーの概要
このメタモンと目が合った時に、僕は思った。
「君に決めた!」
俺は、キタクタウンのムサシ!
そうして、「メタモンを取るだけ」という縛りの下で、UFOキャッチャーをスタートした。
UFOキャッチャーの仕組みはこんな感じ。(乗ってるのはメタモンじゃないが)
二つの棒のあいだに挟まったメタモンをアームで押し込むという一回100円の力業キャッチャー。いや、キャッチャーじゃない。プッシャー(PUSHER)である。
二つの棒の上に、天地無用の振る舞いで乗るメタモン、しかもその形は、おおよそ三角錐であるから、上から下に向けて広がっていく形状である。いくら柔らかいとはいえ、押し込むには不向きな様相である。
メタモン獲得プロセス
使用金額0~500円のフェーズ
全く持って訳が分からない。
どこを押せばいいのか、どこにひっかければいいのか、そもそもアームで押し込むことなんてできるのか。
UFOキャッチャー初心者というのもあるが、解像度が低すぎるがゆえに、冷静な判断ができない。ExperimentとReflectionを重ねることができないまま、なんとなく500円を使ってしまった。メタモンはまったく押し込まれている様子はない。
使用金額600~1300円のフェーズ
小銭がなくなって、千円札を両替に行こうかという矢先に、とある天啓を得た。
【本当にとれるのか?】
非常にラジカルな投げかけである。
ゲームセンターにあまり造詣が深くない僕は、まだゲームセンターを信用できていなかった。これは、もう取れない設定になっていて、ただお金を巻き上げられるだけなんじゃないか。
やめるなら、常に今このとき(Just Now)が最善なのである。
こう思いながら、両替機の前に立ち尽くした僕は、両替機のある表示を見つけた。
「新千円札は対応していません。」
なるほど。
財布の中身を確認すると、そこには、旧千円札が2枚、新千円札が3枚。
助かった。
いくらメタモンにお貢ぎするとしても、あと二千円が上限であることがわかったのだ。しかもそれは、恣意的な要因によるものではなく、あくまで構造上の要因であるから、後悔も少なくなる。
両替成功。
10枚の100円玉をもって、メタモンのところへ再度向かった。
そこから、800円。
メタモン、微動だにせず。
1400円における神の一手
あと2枚100円玉を使えば、最後の旧札を両替することになる僕は、焦っていた。1300円使って、メタモンが最初と同じ位置で僕に微笑みを投げかけているからだ。本当にこの笑顔は無垢なのだろうか。
こうして、1400円目となる100円玉を入れて、アームを動かした。
そして、下がったアームは、メタモンを押し込むことなく、むしろ、持ち上げ、落とした。その際に、メタモンは、上下が逆さの逆三角錐の形で、二本の棒のあいだにひっかかった。
大チャンス到来である。というか、おそらくこれが本来の攻略法なのであろう。
なんなら、もう顔の半分は棒より下に出ている。
滞っていた事案が、何かのきっかけにより、ぐんぐんと進んでいく感覚。
青色LEDの開発者も同じ気持ち、いやもっと遡れば、蒸気機関が生まれた産業革命期のイギリスの気持ち、更に立ち返れば、活版印刷術により聖書が一挙に拡散された西欧、それに並ぶほどのインパクトであった。
使用金額1500~2000円のフェーズ
その後すぐに、1500円目は使ってしまい、最後の旧札を両替した。
ここで、両替を渋ることはなかった。なぜなら、神の一手により副腎の髄質から分泌されたアドレナリンによる交感神経の高まりによって、僕の精神はゲームセンターの空気と調和していたからである。全能感というやつだ。
もういける気しかしなかった。
そして、そこから6回、600円分、つまり累計2000円分のチャレンジをしたが、まったく押し込めなかった。いくらアームで押しても、メタモンがこれ以上下がらないのである。歯がゆい。
一旦期待させられたのに、何だこの仕打ちは。
グーテンベルク気分を返せ。
今頃、宗教改革が起きているはずであったのに。
非常に落胆し、焦燥感に襲われた僕は、近くにいた店員さんに声をかけた。
「これってどうやってとるんですかね。。」
精いっぱいの一言である。
24歳の男が昼の16時にゲームセンターでメタモンを取るために、(おそらく)バイトの大学生に教えを媚びたのだ。
もちろん、年齢や性別は一切関係ないが、元来僕は、人に頼るという行為が非常に苦手な性格のため、とても丁寧に言葉を紡いだ。
その店員さんは女性であったが、非常に柔和で丁寧に押し込み方を教えてくださった。「はじっこを押してみるといいですよ。」「棒とメタモンの間に差し込むような形でアームを先をねじこみ、隙間を作るといいですよ」
ありがとう。光明がはっきりと見えた。
最初からこうすべきだったのだ。
僕はグーテンベルクなんかではなかった、彼女こそがメシア。すべてを救う。活版印刷どころの騒ぎではない。
僕のあの神の一手すら彼女にとっては、当たり前の範疇。世界の創造主と同じ視座にいるのが彼女である。
こうなるともはや彼女は同列の存在ではなく、形而上的な畏怖の存在と化す。
使用金額2100~2500円のフェーズ
100円玉があと5枚まで迫っている。
そして、コツも教えてもらった。
あとは、実践のみである。
2100円目。
左側を少し押し込めたような気がした。
2200円目。
同じく、左側を押し込めたような。。。
2300円目。
これ押し込めてるの?
2400円目。
動いてねえだろこれ
2500円目。
ふつうにアームの位置ミスって空振り
(((((In Despair)))))
おわった。
僕とメタモンの邂逅は、環境と知識はあれど、旧札が足りないという非常にしょうがない理由によって、終焉を迎えた、
と思った。
先ほどのメシアがやってきた。
「あれ、お兄さん、まだとれなさそうですか?ちょっと待ってくださいね。よいしょ。」
ゲームセンターの扉を開けて、手動でメタモンをギリギリまで押し込んだ。
「はい、続きどうぞ。」
メシア!!!!!!!
あとちょっと早く来てくれれば!!!!!!
遅い!
もう僕の財布に野口英世はいない!!!!
いるのは北里柴三郎だけなんだ!!!!!
もう破傷風の研究しかできないんだ!!!!!
「震える舌」見て恐怖おびえて暮らします!!!!!
僕は正直に伝えた。
「もう新札しかなくて、両替できないので、あきらめます。。。すいません!!」
「新札も両替機できますよ、ついてきてください」
そこから記憶が飛び、気づいたら、100円玉10枚を獲得。
CONTINUE!!!!!!!!!
ゲームを続けるられる喜びと、ゲームをやめる言い訳できなくなった恐怖が、二律背反、心の中でうごめいていた。
2600円~3200円のフェーズ
その後、ずっとメシアが僕の後ろで、僕のアーム捌きを見守っていてくれた。一回失敗するたびに、助言をくれた。しかも、上手なのが一切の否定がないという点だ。
例えば、端っこを押せと言われているのに、真ん中を押してしまった場合、「真ん中を押しこんで取る人もいるので大丈夫ですよ!確実に下に押し込まれています!」と言ってくれる。
「仕事中なのに見てもらってすいません!」と伝えると、「全然大丈夫ですよ!これも仕事ですから!」と言ってくれる。
メタモンじゃなくて、メシアのために頑張りたくなってきたのがこのフェーズである。善人過ぎる。メタモンのために使ったお金は彼女にすべて還元されてほしい。少し良いランチビュッフェは食べられるはずだ。
2600円目。失敗。
2700円目。失敗。
2800円目。失敗。
2900円目。失敗。
3000円目。失敗。
メシアが後ろで焦っているのがわかる。
「この人は私のアドバイスが活かせていない!きまずい!」
そんな心の声が聞こえる。
一方で僕も、冷や汗が止まらない。
「こんなによくしてもらっているのに、一切結果が出ない!」
2800円目で、アームの位置をミスって、空振りしてしまったときは、逆に爆笑しそうになった。気まずすぎて。
そんな空気に耐えかねた、メシアが
「ちょっともう一回人形の位置調整しますね」と言って、ケースのカギを開け、人形をさらに押し込んでくれた。ありがたすぎる。
3100円目。
僕がアームを移動させ始めた瞬間に、人形が勝手に落ちた。
メシアが僕のためを思ってギリギリまで押し込んでくれたおかげで、自重で落っこちた。ポロン。メタモンポロン。コテッ。
これはさすがに受け取れない。情けなさ過ぎる。
3100円使って、最終的に、自重で落ちたメタモンを受け取ってしまったら、自我が崩壊して、天地と一体化し、コスモとなってしまう。
「お姉さん、もう一度、自重で落ちるギリギリ直前のところでセットしてください。自分の力で取ります!」
勇気を出してそう伝えた。
3200円目
メシアがメタモンをギリギリの状態でセットした瞬間に、僕は100円玉を入れて、アームを急いで動かす。
早く動かさないと、またいつ自重でポロンするかわからない。
やばい!メタモンがずり落ちていっている!
なんとか自分で落としたことにしたい!
いそげ!もうどこでもいいから押し込め!
やばい!ポロンする!
よし!アームいけ!いそげ!急いで押し込め!!!
よし!!!押し込んだ!落ちた!!!!!!!!
メタモンGETだぜ!!!!!!!!!!!!!!!
メシア拍手!僕も拍手!
ゲームセンターで自然落下の手助けをした僕は、3200円に化けていたメタモンを獲得した。
絶妙な達成感!!!決して、僕の力だけではない!
メシアと重力の支えがあってこその勝利であった。
最後、メシアに伝えた。
「ありがとうございました。近くでお笑いライブとかやってるので遊びに来てください。」
感激のあまり、我ながら訳の分からない、自分本位な告知をしてしまった、
しかしながら、もしこのnoteを読む機会があれば連絡ください。ご来場される日はメタモン漫才をやりますので。