PdM講座5-3 ビジネスモデルの『成長エンジン』
はじめに
初めまして!現在、株式会社contento というコンサルティング会社で代表を務めている小川正樹と申します。
noteでは、これまで私が複数の会社で働き、そこで得てきた経験について会社ごとに紹介しながら、プロダクトマネージャーとして学んできたことや日々の持論について書いていきます。
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今回はPdM講座第5回「ビジネス開発基礎④」の「顧客ファクトリーの設計図」についてです!
第5回は3編構成で書いていきます。
今回はその第3編目で、テーマは「ビジネスモデルの『成長エンジン』」となっています。
幸せな顧客のループ
前回の記事でお伝えした顧客ファクトリーの流れを図にして表すと、
次の通りになります。
ご覧の通り、アクティベーションによって顧客が幸せになる瞬間
=価値創造の瞬間から出ていく線が一番多いです。
つまり、顧客が幸せになる瞬間が、設計図の起点になっているのです。
そのため、顧客を幸せにすることで、
提供した製品・サービスで多くの時間を使ってくれる(=3.定着)
金銭的な価値を生み出してくれる(=4. 収益)
製品・サービスの評判を広めてくれる(=5.紹介)
といった流れが生まれるため、まずは顧客を幸せにする=価値提供することに最優先に取り組む必要があります。
それができず、逆に顧客を不幸にしてしまうと・・
製品を使ってくれなくなる
返金を求めてくる
否定的なレビューを残す
となってしまうわけです。
成長エンジン
ここからは、顧客ファクトリーに人が集まった後、何をすれば良いのかについて確認していきましょう。
ここで重要になる概念が『成長エンジン』です。
成長エンジンとは、顧客ファクトリーに人が集まった後に、顧客スループットを増加させるための施策のことです。
この成長エンジンは、価値創造の瞬間から出ている3つの線(定着・収益・紹介)ごとに定義されます。
定着型成長エンジン(別名:ウィルス型)
課金型成長エンジン(別名:支出型)
紹介型成長エンジン(別名:粘着型)
どのエンジンを選ぶかは、アクティベーションによって価値提供をした後、定着・収益・紹介のどれに最も比重を置くのかによって変わってきます。
それぞれについて詳しく確認していきましょう。
1. 定着型成長エンジン
定着を重視する場合の施策が『定着型成長エンジン(ウィルス型)』です。
定着型成長エンジンとは、「3.定着」トリガーを利用して、顧客ファクトリーの中心にいるユーザを長期的に保持することを目的とするモデルです。
このモデルでは、顧客の製品・サービス利用時間が長くなるほど、価値提供できる機会が増えていき、
また、定着すればするほど提供価値が増えるため、利用が長くなるほど回収できる金銭的価値も増えていきます。
そのため、最近流行りの月額課金サービスのような、
利用時間の長い製品・サービスや、何度も何度も使用してもらえるようなプロダクトの場合には、『定着型成長エンジン』が最も適しています。
そして、定着してもらうための手段としては、以下の2つがあります。
オーガニック
:製品・サービスによる課題解決が終わるまで、自然に定着することロックイン
:契約で縛ること(定期購読など)
また、このモデルが持続可能な条件は、『顧客スループット > 解約』となっている状態の時です。
つまり、新規顧客の獲得速度が解約速度を上回っていれば、継続的に成長できるモデルとなっています。
2. 課金型成長エンジン
続いて、収益をあげることに最も比重を置く場合に適しているのが
『課金型成長エンジン』です。
課金型成長エンジンでは、「1.獲得」トリガーを利用して、訪問者を顧客ファクトリーに誘導し、価値提供して「4.収益」トリガーへ誘導することを目的としています。
ここではもちろん、顧客ファクトリーに見込み客を入れて、収益トリガーへ誘導するために、営業マンや広告出稿が必要になるため、お金を使う必要があります。
そのため、『課金型成長エンジン』と呼ばれているのです。
このモデルの持続可能条件は、『LTV > CAC』となっている時です。
要するに、顧客から回収する金銭的価値(LTV)が、顧客獲得コスト(CAC)を上回っている状態でなければいけません。
お金をかけている分、顧客獲得に使ったコストを顧客から回収できる価値で賄えなければやせ細ってしまいますからね。
さらに具体的には、『LTV = CAC×3倍』の状態になっているのが好ましいです。
3. 紹介型成長エンジン
続いて、お客さんの数を増やしたい場合に適しているモデルが
『紹介型成長エンジン』です。
紹介型成長エンジンでは、「5.紹介」トリガーを利用して、
幸せな顧客に新規訪問者を紹介してもらい、新規顧客を獲得するモデルです。
紹介の手段としては、クチコミやアフィリエイト、インセンティブなど、様々な手段があります。
この成長エンジンの特徴としては、特定層をターゲットにした会員ビジネスなど、一人当たりの紹介に価値が大きいビジネスに向いているモデルであることです。
つまり、その製品を顧客が普通に使うだけで、人から人へと認知が広まる仕組みを有するビジネスである場合に、最も適していると言えます。
そして、このモデルの持続可能条件としては、『平均顧客紹介率 > 0』になっている状態であることです。
つまり、平均顧客紹介率(一定期間内に、紹介経由で増えた顧客数)が0を上回っていることが、継続的に成長するための条件となります。
顧客スループットとスループットの関係
ビジネスの最終目的とは
つまるところ、ビジネスの最終目標は「スループット(収益)を増加させること」にあります。
しかし、ここで注意しなければならないのが、必ずしも顧客スループットとスループットが比例するとは限らないことです。
なぜなら、
大量獲得した顧客が自分たちのビジネスに適した層ではない
各ステップごとの移行に時間がかかりすぎてしまっている
このような状況では、すぐに顧客が離れていってしまい、継続的に成長することができず、収益を増加させることができなくなってしまうためです。
そのため、成長エンジンの適用前にスループットに関するパラメータの最適化が必要になります。
具体的には以下の手順を踏んで、パラメータを最適化していきます。
顧客ファクトリーに受け入れるユーザーのセグメント(バッチサイズ)の最適化(無駄に大きいサイズは必要ない)
獲得・アクティベーション・定着・収益化・紹介の各フェーズのCVR目標の最適化
各ステップに進むまでに要する時間(サイクルタイム)の最適化
お金の取り方の最適化(価格設定や請求サイクル、割引価格や条件)
このようにしてパラメータを最適化することで、有効に機能するビジネスモデルを構築することができるのです。
論点整理
最後に、第5回で扱ってきた顧客ファクトリーの論点を整理しましょう。
5-1でもお話した通り、「トラクションモデリング」では対応の難しい『日々の判断』において、「顧客ファクトリー」は重宝されるものです。
それでは、日々の判断ではどのようなことを考えれば良いのかというと、
顧客ファクトリーにおける5ステップ+価値創造の瞬間のうち、どこに課題があるのかが、ここで考えるべき論点になります。
例えば、
最初の「獲得」ができていないのにもかかわらず、後のステップのことを考えても意味がありませんし、
逆に、獲得は十分にあって、定着が上手くできていないのであれば、定着させるための施策を考える必要がありますよね。
つまり、「スループット(収益)を増加させる」という最終目標に向けて、
顧客ファクトリーの設計図のどこにボトルネックがあるのかを見極め、
それを改善するための最適なアプローチ手法を考える必要があるということです。
より具体的には、5つのステップ+価値創造の瞬間のうちの課題だと感じる部分において、それぞれ以下のような論点を考える必要があります。
獲得
・訪問者をどうやって連れてくるか?
・獲得すべきユーザ識別子(性別、住所など)は?アクティベーション
・アクティベーションのイベントは?
・アハ体験は何か?定着
・定着する要素はあるか?
・定着を測る計測指標は何か?収益化
・どのような価格帯を設定するか?紹介
・どんな行動が紹介を産むのか?価値創造の瞬間
・望ましい顧客スループットは何か?
このようにして、顧客ファクトリーの課題を整理し、それに対しての適切な解決策を導き出すことで、最終目標の達成に近づくことができるのです。
最後に
今回は『成長エンジン』の重要性を中心に詳しく解説しました。
成長エンジンは、顧客ファクトリーに集まった顧客を、
どのように長期的に維持し、収益を上げ、さらに新しい顧客を紹介してもらうかを決定する非常に重要な概念です。
「定着型」「課金型」「紹介型」の各エンジンの特性を理解し、
自社のビジネスモデルや顧客層に最も適したエンジンを選択することが、
ビジネスの成功に直結します。
このように、顧客ファクトリーの設計図をしっかりと理解し、それに基づいた戦略を立てることで、ビジネスの成長を効果的に管理し、持続可能な成功を手に入れることができます。
ビジネスの最終目標であるスループット(収益)の増加を達成するために、この記事で学んだ知識をぜひ実践に活かしてみてください!
今回までの第5回で、『ビジネス開発基礎』に関する講座は終了となり、
次回からは、『考えるスキル』について詳しくお話していこうと思います。
次回の第6回では、『クリティカルシンキング』について詳しくお話しますので、興味のある方はぜひそちらもご覧ください!
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