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「お母さんを選ぶ赤ちゃん」というナラティブ

「お母さんを選ぶ赤ちゃん」という話があります。状況が出産を許さないなら、中絶の罪悪感に苦しむ必要はありません。妊娠は家を建てるようなもので、赤ちゃんはちょくちょく建築現場に顔をだします。しかし途中で建築を断念すれば、赤ちゃんは次もあなたを選んで来るね、と去っていくというわけです。

これはもちろんひとつのナラティブです。医学は妊娠分娩を生体のメカニズムととらえるため、われわれはそういった出産を意味をもつ秩序とする目的論的な視点を失っています。しかし現代医学は中絶を安全に施行できても、女性の苦悩を救うすべをもちません。女性を癒すのはある種のナラティブだけです。

お母さんを選ぶとか胎内記憶といった話を非科学的といって笑うことはたやすい。しかしわれわれはみななんらかのナラティブをいだいて生きており、それをつくり話と笑い合うことはできないでしょう。現代医学に手がとどかない領域で、ひとはみずからの生の目的をさだめ、幸福を求めて生きているのです。


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