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「地域遺伝カウンセリング」とはなにか

地域遺伝カウンセリングというのは,遺伝に関するよりよいケアのために遺伝専門医やカウンセラーが地域保健活動と連携しておこなう活動です.遺伝医療の高度化により専門機関に集中しがちですが,こういった時代だからこそ,先端医療と住民の生活の乖離をうめる地域遺伝カウンセリングの意義があります.

「地域遺伝相談」は70年代に活動がはじまりました.人類遺伝学会からはなれた医科歯科大の大倉興司先生が,専門知識をもつ医師や看護師・保健師の育成に尽力され,日本各地でおこなわれる活動のネットワークをつくりあげました.当時の厚生省も健康相談の一環としての遺伝相談を各自治体に推奨しました.

それまで国内では「遺伝」は一種タブー視されていました.そういったなかで近親婚や色覚異常,精神疾患など身近な課題に地道にとりくみながら,遺伝への偏見をすこしずつとりのぞいていったのです.そこでは地域でのニーズをくみあげ,その後のフォローをする保健師さんの活動が非常に重要だったのです.

そういった地域遺伝カウンセリング活動は,2000年前後のヒトゲノム計画が転機になりました.ゲノム医療の意義が強調されるようになり,高度な遺伝子研究が可能な大学病院や高度専門センターに,通常の遺伝診療も集約されていきました.また臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーの養成が重視されました.

2000年ころに,地域住民の遺伝ニーズをすくいあげ医療につなげる役割をしていた保健師さんたといを「遺伝アソシエイツ」に認定する構想がありました.その後,遺伝診療部が大学病院に限定される流れにかわり,現在の「認定遺伝カウンセラー」制度にとってかわられました.わたしは残念に思っています.

「遺伝アソシエイト」の資格は,地域遺伝カウンセリング活動の核となる保健師さんの知識と実地経験を評価しようとした試みでしたが,学会中枢のアカデミア志向と一致せず,ついに実現せずに終わりました.修士課程で徹底的にトレーニングする認定遺伝カウンセラー養成がそれにとってかわったのです.

しかし地域での活動は重要性を失ってはいません.ゲノムが医療の中心となった今日,プライマリにおいても基本的な遺伝リテラシーが求められています.医療側の思慮深い洞察と患者の自由意思による決定が求められます.高度専門医療と患者のニーズとの乖離をうめるための活動はきわめて重要といえます.

こういった行政が主導し地域に密着した遺伝カウンセリング活動は欧米に例がないわけではありませんが,日本独特な形で発展定着し,80-90年代の遺伝医療に重要な役割を担いました.国民の伝統的な「遺伝」への蒙を啓き,地域にありがちだった差別や偏見を解消するのにおおきな貢献をはたしてきたのです.

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