「これからの切迫早産管理-長期安静・持続点滴はやめよう」序文
3月5日に中外医学社より上記タイトルの本をだすことになりました(2,860円).その「序文」を紹介がわりに以下に引用させていただきます.
この本は,国内で一般的におこなわれてきた切迫早産治療,すなわち入院安静臥床とリトドリン塩酸塩の長期持続投与を批判することを主旨とするものです.切迫早産の適切な治療を考えるためにこれまで報告されてきたエビデンスをとにかく第一にして論じています.
エビデンス,ないしはエビデンスをもとにした医療(evidence-based medicine; EBM)という考えかたが日本に導入されてすでに30年以上がたちます.もはやこれらの概念を理解していない医療者はほとんどいないと思われますが,しかし実際にEBMは臨床現場にどれだけ根づいているでしょうか?
もちろんEBMは臨床現場における問題解決の一手法であり,その本質は患者さんによりよい医療を提供しようとする基本的姿勢です.エビデンスは医療者が使うためのものですが,もっと正確にいえば個々の患者さんのために利用されるべきものです.多くの医療者に使われて患者さんの利益になったとき,はじめてEBMが医療に根づいたといえるでしょう.
たとえばある治療法がもっとも患者さんの利益になるのは,治療効果が最大で,かつその副作用が最小のときです.そしてメリットが最大でリスクが最小ということだけでなく,患者さんの価値観,人生観といった要素を考慮したとき,患者さんの満足度はもっとも高くなることがしばしばです.
切迫早産妊婦にたいする長期安静および長期持続点滴治療の可否が問題となる場合,医療者側のエビデンスの議論に加えて,「患者参加の医療」を積極的に進めることが望まれるのではないでしょうか.患者参加の医療にEBMをはめこむというのは,知りえたエビデンスをもとに妊婦さん自身に望ましい治療を選択してもらうということです.
インターネットによる高度情報化社会では,専門家であろうと一般市民であろうと,産科医療もEBMもそれなりに習得可能かもしれません.ある程度の科学的なものの考えかたを教育で身につけていれば,自分が治療を受ける側であることや,インターネットを介して専門的な知識をひきだす方法も心得ていることでしょう.
この本は,従来の切迫早産治療に疑問をもっているかもしれない若手産科医とか看護師助産師といった医療者を対象にして書かれました.しかしそれ以上に,いま,現在,切迫早産で治療をうけている妊婦さんにも読んでもらえるように,本の記述は可能なかぎり平易となるように心がけました.従来の旧弊な医療をかえていくのは医療関係者のみならず,妊婦さんご自身ではないかと期待しています.