「さんさ踊り」の話
今年の盛岡さんさ踊りは8月1~4日まであったようです.いまはとても有名で多くの観光客を呼ぶようになりましたが,18歳まで盛岡にいたわたしは,実はさんさ踊りなどまったく知りませんでした.
当時,仙台七夕,秋田竿灯,青森ねぶたが東北三大祭りとして有名で全国から観光客がきましたが,みんな盛岡は素通りしていくわけです.地元商工会とか青年会議所などがくやしがって,なんとか目玉となるイベントをとやっきになっていろいろ企画しましたが,すべて空振りに終わっていました.
その後某広告代理店に大金をつんで,盛岡の夏の祭りをつくりあげたらしいと風のうわさに聞いていましたが,それがどうも「さんさ踊り」らしいのです.さんさ踊りなど聞いたこともみたこともないわたしは,なんだかあやしい祭りだなあと思っていました.
ところが山本嘉次郎の映画「馬」をみていたら,そのさんさ踊りがでてきたのです.この映画は1941年公開のモノクロ映画で,当時売れっ子監督だった山本が不在がちで,実質は助監督だった黒澤明が脚本から監督までをこなしており,黒澤の監督映画第一号といってもいい作品です.
村からいちばん近い駅が田沢湖線の大釜とでてきますので,小岩井農場にやや近い,滝沢よりの山あいが舞台となっています.夏祭りの盆踊りがまさにさんさ踊りそのものだったのです.だから某広告代理店も祭りをゼロからでっちあげたわけではなく,盛岡近郊の山の部落の盆踊りをもってきて,「さんさ踊り」として売りだしたのでしょう.
この「馬」はさすがのちの黒澤明の片鱗が随所にみられてとてもいい映画になっています.主演の高峰秀子がまだ18歳でとても可憐なのが印象的です.有名なエピソードとして,黒澤明と高峰秀子が恋仲になって盛岡で映画館デートをするのですが,そのときみた映画があのリーフェンシュタールの「民族の祭典」でした.
天才子役で人気が高かったデコちゃんもまだ数えで18でしたから,この恋はさすがに実りませんでした.ふたりは周囲から引き離されてしまいます.その後,黒澤明の映画に出演することは一度もありませんでした.黒澤は女優矢口陽子と,高峰は映画監督松山善三とのちに結ばれることになります.
さんさ踊りとパリオリンピックがいま話題なので,なんとなく思いだした話です.
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