切迫早産の語り
X上には、切迫早産の妊婦さんの語りがたくさんなされています。その症状がどのようなものか、なぜそれが生じたのか、どんな治療を受けているのか、今後はどのようになるのか、といった現在、過去、未来について語られるのがふつうです。語ることによって切迫がよくなるわけではありません。
しかしこのような語りには、切迫早産によってこれまでどおりにいかなくなった自らの日常をあらたに再構築し、あたらしい妊娠生活を送みたいという一種の希望が認められます。だからこそ切迫早産を語り、おなじようなひとと交流し、自分たちの経験を共有することに意味を生みだそうとするのです。
入院安静にする、点滴を24時間を受けるといったことは、エビデンスのない日本独特の治療と批判するのはたやすい。しかしこういった苦労を妊婦さんが強調するのは、一度こわれた自己と社会の結びつきを語りによって取り戻そうとする試行錯誤です。だから頭ごなしに否定せずに傾聴することも必要です。
リトドリンの妊娠延長効果が48時間までというのは確立したエビデンスではあるけれど、それは多数のひとを調べた統計的な数字です。もしかすると長期投与が効いたひともいるかもしれないし、まったく効果のないひともいるかもしれない。そういった平均が48時間までということになるかもしれません。
しかし語りというのはひとりひとりのものです。多くのひとの平均の語りというものは存在しません。一度破綻した自らと社会の関係性を修復する試みは、それぞれのひとによって異なる体験です。だからこそ語りの傾聴は必要なのであり、平均人を対象としたエビデンスはここでは意味をもたないのでしょう。
先日出した「これからの切迫早産管理ー長期安静・持続点滴はやめよう」の後半では、そのようなことを主張したつもりです。いわゆるナラティブですね。