妊娠中の風疹抗体価上昇について
妊娠中の風疹罹患および先天性風疹症候群の児の出生についてを書きます.妊婦さんが風疹にかかると胎児に異常を生じることは広く知られるようになったので,妊娠中に妊婦さんの風疹抗体価を調べることがよくおこなわれています.しかし無症状のひとにスクリーニングとして検査をおこなえば,しばしば害だけがおきてくるのは,福島甲状腺調査やコロナPCRなどとまったくおなじです.医療における診断や検査の限界や問題を理解していただくために,妊婦さんの風疹抗体価スクリーニングを例にとりあげます.
妊娠中に風疹にかかると赤ちゃんに先天的な異常をおこすのはよく知ら得ています.風疹には流行には大きな波があって,数年おきに大流行がおきてきます.先天性風疹症候群(CRS)の発生は流行年でも全国で10-20例程度です.しかし驚くべきことに,風疹の流行にあわせてその年の人工妊娠中絶数が急増するのです.これは実際に発生するCRSの赤ちゃんの数百倍にものぼる無辜の胎児が,先天性風疹症候群となったのではという不安と恐怖から中絶されていることを意味します.
4~5年おきの流行年には多数の妊婦さんから風疹罹患の相談を受けるのですが,なんとかして無意味な中絶を防ごうということで全国的な取り組みがなされています.以下は厚労省のホームページに公開されているもので,一般病院で妊婦さんから相談をうけて対応がむずかしいときのための二次相談施設です.
いまは妊娠初期に風疹抗体のスクリーニングをしている施設が多く,紹介は多数にのぼります.抗体価やIgG, IgM, avidityなどの検査をおこないますが,妊娠中に感染があったことの判定が非常にむずかしい.最終的に羊水PCRをおこなっても,感度特異度の限界によりそれで意思決定をおこなうのは困難です.
しかし経験を積みかさねて検討してわかってきたのは,妊娠中に発熱や発疹,あるいは風疹罹患者との接触歴があるかどうか,をていねいに問診をとることの重要性です.もしあるときは抗体価の上昇にはきわめて意味がありますが,まったくないときはほとんどが偽陽性です.すなわち事前確率の評価ですね.
そういった既往がないときは,ブースターによる一過性の上昇だったりIgMの持続高値などで,CRS発症のリスクはまずありません.一般の妊婦に風疹抗体価スクリーニングをおこなうことは,多数の偽陽性者をだすだけで,妊婦の風疹抗体の有無をみることをのぞけば,CRSを防ぐ意味はほとんどありません.
症状や接触歴がなく事前確率の低いひとに,スクリーニングで検査をおこなうことに医学的意味が低いのは,風疹も新型コロナもまったくおなじ構造です.逆に症状や接触歴のあるひとに適切な検査による陽性には重要な意味があります.スクリーニングは,無意味な中絶や無意味な隔離を生みだすだけなのです.
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