第54回「県民健康調査」健康委員会をめぐって
第54回「県民健康調査」検討委員会が2月5日に開催されました.これまで何回か投稿しましたが,まだよくご存じのないかたのため,あらためて議論の経緯を説明させていただきます.この検討委員会は福島原発事故を受け,住民の健康影響と健康管理をおこなう目的で設置されました.
健康調査に,事故後に妊娠出産された母子の健康調査があったため,日産婦の推薦委員としてわたしがはいりました.妊産婦と出生児にたいする調査は2020年までで終了し,現在はそのフォローアップ調査がつづいていますが,原発事故は生まれてくる子どもになんらの影響も及ぼさなかったと証明されています.
この検討委員会の最大の焦点は甲状腺調査になっています.チェルノブイリ原発事故後に小児甲状腺がんが増加したことから,福島の原発事故後にもおなじようにおそれがあるという不安が広くありました.そのため事故当時18歳以下の県内のすべてのこどもを対象に,甲状腺がんの超音波検査がはじまりました.
チェルノブイリの知見では,被曝により甲状腺がんが発生する場合,5~10年程度の潜伏期間が必要でした.ところが2011年10月からはじまった第一巡目の検査で,驚くべきことに予想以上の数のがんが見つかったのです.30万人中がんの疑いが109人,その中で手術を受けてがんが確認された子どもは84人でした.
2巡目以降の検査でも引きつづき悪性疑いがみつかってきて,とくにマスコミの報道が過熱し,反原発派も批判を強めることになりました(実際に集団訴訟もおこっています).こうした結果から,事故被曝により小児の甲状腺がんが増加したとの社会の不安が出てきたのは,ある意味当然だったかもしれません.
甲状腺がんの多発(多発見)について,原発批判派は被曝によるとするわけですが,福島県と福島医大の当事者はスクリーニング効果,すなわち10年後,20年後に顕在化するがんを先どりして見つけているためと主張しています.しかし甲状腺検査も7回目にはいろうとしていますが,発見率は一向に減りません.
そこでわれわれが主張するのが「過剰診断」説です.多くのひとはもともと小さな甲状腺がんをもっていて,ほとんどが生涯症状を示さない.これをラテントがんといいます.スクリーニングによりわざわざそれを見つけて,本来ならば不要な手術がおこなわれるため,むしろ害をおこしているという考え方です.
死後の解剖で無症状の小さな甲状腺がんは10~20%のひとから見つかります.また2000年代にはじまった韓国での大規模な甲状腺がん検診では,それまでの15倍の数のがんが見つかり治療されながら,その死亡率にはまったく変わらなかったという事実もあります.甲状腺のラテントがんはめずらしくないのです.
過剰診断論では,甲状腺検診は不要,というよりも害があるためにやってはいけないことになります.これには原発反対派はもちろん,甲状腺検査の継続を望む県と福医大も猛反発しています.みなさんに「過剰診断」論を押しつけるつもりは毛頭ありませんが,関心をもって注視いただければと願っています.