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「愛について語るときにイケダの語ること」をみて,「ことば」が原因の医師と患者のコミュニケーションの齟齬を考えた

「愛について語るときにイケダの語ること」.かなり強烈な映画なので安易にひとに勧められませんが,「障害者の性」という予想していた月並みなテーマをはるか突きぬけて,ひとの生と性の本質をイケダは自ら実践し記録として残しました.随所に18禁のシーンがでてきます(笑)
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以下はまったくの蛇足です.解説にある「四肢軟骨無形成症」という病名は実は正確ではありません.比較的頻度の高い「軟骨無形成症」のことかと思って映画をみていました.しかし主人公イケダの身体や体形からはなんとなく違和感があったので,知人の専門家に聞いたところ,おそらく「偽性軟骨無形成症」ではないかとのことでした.

一般のひとにはどうでもいい話です.また「偽性」ということばはなんとなく病気がにせものという印象をあたえそうですが,医学的にはそうではなく,典型的な「軟骨無形成症」に一見に似ているがまったく別なめずらしい病気という意味になります.しかし映画では誤解をさけたかったのかもしれません.

われわれ医者は医学用語の正確さには徹底してこだわります.病名を違えればそれは誤診になるわけですね.しかし一般的にはことばの定義ではなく,語感,ニュアンスが当事者につよく影響をあたえることが多くあります.そこまでをしっかり認識して診療にあたらなければならないことはときどき実感します.

むかしの経験ですが,耐性菌による感染症で術後管理にとても苦労したことがありました.2週間以上の集中治療でようやく病態がうわむいてきたころ,再び首の腫脹と高熱を繰りかえすようになりました.病理的に「壊死性リンパ節炎」と判明,良性のものでいずれ軽快するとわかりわれわれはホッとしました.

この場合の「壊死」は,感染治癒の免疫反応で組織の一部が死んでこわれることを意味します.しかし本人は,説明された病名のなかに「死」という漢字があったので,自分の死を告知されたと思い覚悟したとのことでした.このときほど医者と患者のコミュニケーションの齟齬が大きかったときはありません.

「偽性軟骨無形成症」を「四肢軟骨無形成症」にいいかえたのは,だれかの単純な勘ちがいにすぎなかったかもしれません.しかし専門家はそれが気になってしかたなかった.一般人と専門家のことばへの感覚のちがいはしばしばコミュニケーションの齟齬をきたします.コロナのときにもそれを強く感じました.

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