志と算盤を揃える
大家業3.0は、不動産をホビーとして楽しむ大家さんが増えることにより魅力的な物件が増え、借主側の物件に求める水準が上がり、数字ばかり見て自分の利益しか考えられない大家さんがつくる魅力に欠けた物件では、借り手がつかなくなる世界です。
と言われるとなんとなく、楽しそうだしいいことな気がする!と思うものの、一方で数字じゃない、と言われると、どんなことを意識して物件をつくればいいのか不安になると思います。
そこで今回は、ホビーとして物件をつくる際のバランス感覚、という視点でお話しをさせていただければと思います。
見た目だけでなく、志で選ばれる時代
室内をカッコよくするリノベーションの概念が市民権を得た今の時代における物件づくりは、まちづくりやコミュニティづくりという、「暮らし」に対してもう一歩俯瞰した視点からも語られるようになってきたように思います。
中庭や大きなウッドデッキ、屋上や畑など、住人たちでスペースをシェアすることでコミュニティが生まれる仕掛けをした賃貸物件や、まかない付きシェアハウスやDIYを可能にしたアパートなど、テーマがはっきりとした賃貸物件など、様々な成功例が出てきています。
これらの共通点は、「賃貸だからこれくらいでいいだろう」という貸主と「賃貸だからこれくらいで我慢」という借主の、お互いがほどほどで諦め妥協する関係性ではなく、「もっと入居者さんに喜んでもらいたい」という貸主と「コンセプトに共感したのでここに入居したい」という借主の、共感にもとづく関係性になっていることです。
大家さんが持っておいた方がいい感覚は、デジタルに株価がアップダウンするだけの株式投資と違って、不動産賃貸業において毎月いただく賃料の向こうには、借主さんの暮らしやなりわいがあるという認識です。
すでに、志高く入居者の幸せを本気で考える大家さんが目に見えて増えている「大家業3.0」の世界では、人気のアイランドキッチンを入れたからいいだろうとか、アクセントクロスで差別化したから決まりやすいだろう、といった安易な考え方では通用しなくなっています。
賃料の先にある暮らしをもう一段階解像度を上げてイメージしながら、どんな価値を提供する物件をつくりたいのか?をしっかり考える「志」ある大家さんのもとに、「共感して入居する」借り手が集まるという時代がすでにやってきているのです。
志と算盤(そろばん)を揃える
では、志高く、盛りだくさんのコンセプトと入居者さんに喜んでもらうための数々の施策をすればそれでいいのか?といえば、そう単純なものでもありません。
高くて見た目のいい建材を多用したり、有名な設計者に依頼してカッコいい物件をつくることは、簡単とまでは言いませんが、予算を潤沢にかけていけばそれなりにできてしまうものです。
一方で、賃料には相場というものがあるので、高い予算でカッコいいものをつくったから、相場を逸脱して高く貸せるのか?といえば、大半のケースにおいて、そうではありません。
大家業=不動産賃貸業は立派な事業であり、事業であるからには経営的な視点が必須になります。
相場を踏まえた賃料収入から空室期間の損失を差し引いて、管理コストやローン返済を支払った後に、ちゃんと手元にキャッシュフローが残るのか?だったり、返済がカツカツになっていないか?安全な投資になっているか?などの分析作業は当然に行わないといけません。
いいものを提供したい!という志に偏りすぎて、算盤をはじくことをおざなりにして投資を進めた結果、不動産からの収益ではローンが払えず、給与の一部も支払いに充てるようでは本末転倒です。
給与からの支払いを前提とする住宅ローンと違い、不動産賃貸業のためのローンは原則として、借入をする対象の不動産の賃料収入から支払いをすることが前提になります。
すでに所有している不動産からの収益が安定しているので、この物件だけはリスク高めだけど面白そうだから攻める!みたいな判断はあり得ますが、いざとなったら給与から支払えばいいという考え方は基本的には危ないのでおすすめしません。
とはいえ、「不動産をホビーにする」世界は、やってみるとわかりますがメチャクチャ楽しいです。僕の身の回りの大家さんには、楽しすぎて寝ても覚めても不動産のことを考えている方がたくさんいます。
自分が思い入れをもってつくりあげた不動産に、入居者さんが共感してくれて喜んで入ってくれるという経験を一度味わってしまうと、楽しすぎて早く次のホビーに取りかかりたくなると思います。
ちゃんと算盤を弾いて、失敗して死なない投資にするだけでなく、そこで得た利益が次の物件を購入するための自己資金になる好循環をつくることを最初からしっかり意識しておくと、ネバーテンディングホビー不動産のループが作れるかと思います。
ホビーのパターンはいろいろ
ちなみに不動産をホビーにするにもいろんなパターンがあります。
たとえば自らの住むエリア内に投資を集中させることで、まちの雰囲気をじわじわといいものに変えていくパターン。共感してくれる住人の方や、エリア内ではたらく、商いをする方を迎え入れるイメージで、いい方が入ってきてくれるごとにテンションが上がる「自分ごと感」の高さがクセになりそうです。
あるいは築古のボロボロ物件や、ときには再建築不可物件や借地物件など、ローンを組むのが難しい物件を激安な価格で購入して、一つ一つの規模は小さいながら速いペースで買い進めていくパターン。銀行からみた物件の評価が低いため短いローンに限定される分、返済が早めに終わって無借金経営になるのも早いメリットがあったりします。
古家でもマンションでも、とにかく自分自身が手を動かしてリノベーションしたい、というまさにプラモデル的なホビーとして楽しむパターンも。内見に立ち会って、心から共感してくれた入居者さんから申し込みをもらう際の喜びは間違いなくやみつきになるでしょう。
不動産をホビーにするのは必ずしも、物件を複数買い増していくことを前提にはしていませんが、少なくとも本業の収入を取り崩していくものではなく楽しみながら収益を上げる前提であるべきなので、最初から「志と算盤を揃える=ちゃんと利益を出す」ことにもこだわっておくことをおすすめします。
不動産の楽しみ方には正解はありません。自分にとって危険でなくて、楽しみながら取り組める形を一緒に探していきましょう!