見出し画像

赤いレインコート

私が小学生の頃の話です

うちの近くに整備されてない川(農業用水らしいが川幅はかなりある)がありました。勿論今は綺麗に整備され両側に遊歩道やサイクリングロードも作られていますが、昔の川沿いは草が生い茂り大人達は危険だから川に近付かないように。と強く注意されていました

その草むらを迂回するように通学路があり、幼馴染の友達と帰る時はなにも思わずきちんと通学路を通っていました

5年生の頃から、毎週金曜の放課後母が近所の人から紹介された学校の目の前の塾に無理矢理通うことになりました。その塾は個人営業のおじいさん先生が生徒5人位に教える、塾と言えないようなレベルのものでした

塾が終わると学校は閉まっていて、一緒に帰る同じ方向の塾友達もおらず私は1人で帰るのがとても嫌で仕方なかった。なんでつまらない塾に言ってぼっちで帰らなきゃなのか。と毎週金曜は憂鬱でした

そんな苛立ちから少しでも早く家に帰りたい気持ちで、私はその日入ってはいけないと言われている川沿いの草むらをショートカットして帰る事を思い付きました

草むらはススキやそれ以外も背丈が大きい草が多く、今思えばそんな道の悪いショートカットはかえって時間がかかると思うのですが、その時の私はちょっとやけっぱちだったのだと思います

草を踏み倒しながら目標とする家のすぐ近くの整形外科の建物を目指し必死に掻き分け進んでいると当たりは少しずつ暗くなっていました。ススキの穂を覚えているので秋~冬だったと思います。なかなか進まない自分の選択が間違っていたと気がついた時には行くも地獄退くも地獄。段々と暗くなる空に心細さと後悔でいっぱいになりながら必死に草むらを進みました

すると突然開けた場所に出ました。朧気な記憶でも家1部屋二つ分以上はあるかと思うそこは何故か背の高い草が無く、一息つくにはもってこいの場所でした。私は体に着いた草を払い、開けた場所から川が見えないか(川だけは近付かないようにしていたので)心配で周りを見回しました

少し離れた所の街頭はまだ点いていない事に安堵し、私は目標の方角を確認してまた歩き始めました。

と、その開けた場所から赤い人影が目に入りました

目標コースよりちょっとズレているものの、自分と同じ人がいる事に嬉しくなり私はその赤い人影を追いました。少し草を掻き分けるとおかっぱ頭に赤いレインコートを着た自分より背の低そうな女の子の後ろ姿が見え、その子が進んだ道を辿るように進みました

それから暫くして、目の前に居たはずの赤いレインコートが突然パッと消えました。しゃがんだのかな?草に隠れたのかな?と思った瞬間

私の耳に川の音が聞こえ、あと一歩踏み出せば川に滑り落ちるギリギリで立ち止まっていた事に気が付きました

それまではずっと赤いレインコートばかりを目で追っていましたが、草で見えなかったはずの目の前は突然開けて(川なので)辺りも真っ暗になっており。そのまま進んでいたら整備されていない川に飛び込んでいた…

そう気が付いてからはパニックになり無我夢中で家まで走りました。そこから家までの記憶は全く覚えていません。帰宅するとあまりに帰りが遅いと心配して探しに出る母が玄関にいました。気が付いたら30分掛からない通学路を1時間以上歩いていたらしく、母にこっぴどく叱られ川の草むらに入ったとはとても言えませんでした。それ以来私は草むらに入る事が怖くなり、ふざけて入ろうとする友達を必死で止める日々を過ごし、小学校を卒業しました

あの子はどこに消えたのか。そもそも少し高い位置にある橋から草むらを見下ろしても開けた場所なんて全くありませんでした

大人になり自分がやったショートカットがいかに恐ろしい事か、振り返るとゾッとしますがあの赤いレインコートのおかっぱ頭だけは今でも鮮明に覚えています

あの後ろ姿は川へ誘うモノなのか、危険を知らせるモノだったのか…何事も無かったので危険を知らせてくれたと思うようにしています

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?