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ブスに彼氏が居ちゃダメですかepisode3

見世物小屋

私は彼氏がいることを秘密にしていたかった。
彼氏は彼女がいる事をみんなに知ってほしかった。

そこからズレてた。私たち。


彼氏は爆発的に人気者になった。
目は切れ長の一重だけど小さくは無い。鼻筋も通ってるし、輪郭もシュッとしてる。髭も濃くないし、体毛も薄い。
ガリガリでもないしムキムキでもない、丁度いい筋肉のついた体格。中学時代は野球部でピッチャーとキャプテンをしていた。
身長はそんなに高くはなかったけど、ギリ170はあったのかな。
明るい性格で、束縛しいで、そんでもって女好き。
そんな人だった。

入学して間もない頃から、彼氏はいろんなクラスメイトに話し掛け輪を広げていった。そんな彼氏の周りに人が集まってくる。女子の目にも留まるようになる。
話すと楽しい。好きになる。
こうして彼氏は、クラスだけではなく学年の中でも目立つ存在になっていた。

そんな彼氏は、同じ学校に彼女がいる事を話したくて仕方なかった。
彼女がいることで優位に立てるとでも思ったのか。
自分は特別な存在とでも思われたかったのか。

彼氏は口にしてしまった。


「俺の彼女、この学校に居るよ。」

男子からは、興奮し高ぶった声が上がり、女子からは悲鳴にも似た怒りのような感情が入り交じった声があちらこちらから上がった。
彼女の存在が明らかになって、次に起こる行動は詮索。
彼女の存在を明らかにした彼氏は、注目されることの気持ちよさに酔いしれながら、聞かれた質問には何でも答えてしまった。

その結果…。

私が居る3組の教室は『動物園』と化した。

授業の終わりを告げるチャイムが鳴り終わった数分後。

ビタビタと廊下をいくつもの便所サンダルの音が響き渡り、こちらの方向に近づいてくるのが分かった。

私は、廊下に背を向けて友達の席でお喋りをしていた。
すると、友達が私の背後へと視線を移し、あごでクイッと扉の方を見ろと知らせてくれた。

振り返った先には数人の生徒がいて、教室の扉や廊下側に設置された窓から私へと送られる痛いほどの視線があった。そのほとんどが女子で、背の高い男子が女子の後ろから顔を出しているのが見えた。
私は、何が起きているのか理解出来なかった。

それは、好意的な優しさでも憧れでもなく、敵意を含んだ嫉妬や蔑みの視線だという事にすぐに気づいた。

さながら動物園だと思ったけど、動物園にいる動物に向けられる視線はこんなに冷たく痛いものじゃない。
見世物小屋か、と思った。
痛い視線と共に私に聞こえるくらいの声で見物客が言った。

「ブスじゃね」





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