ひいじいさん

私はいまだに父の誕生日が言えない。3つあるとはぐらかされてきた。1つは祖母が言う産んだ日。もうひとつは出生届を出した曾祖父がこの日で書いたと言った日。最後は実際の戸籍に記載された日。勿論祖母が産んだと言った日が正しいはずだが、一番間違っている日が戸籍に登録されてしまっているらしい。

曾祖父は、初孫誕生が余程うれしかったのか、産まれたと聞いた途端に役所に向かって走りだしたそうだ。すぐに戻って来て

「で、男か?女か?」

と聞いたとか。再び慌てて走りだし、結局出生日を間違える。いったん落ち着こうと言ってやる人はいなかったのか‥。

曾祖父のおっちょこちょいぶりは、勿論我が子の時にも遺憾なく発揮された。出生日も勿論間違えたが、それだけではすまなかった。

祖父は「喜」の字を名前にもらったのだが、真ん中の点がひとつ足りないまま出生届が受理されてしまった。年金や敬老会などの役所から送られてくる書類の宛名の一部だけいつも手書きだったのは、この間違いのせいだ。ワープロにもパソコンにも、そんな漢字は存在しないもの。

まだ間違いはあった。それが発覚したのは祖父の葬式の夜だった。仏壇の前で皆で祖父の思い出話をしていたら、葬式の事務処理をしていた父がきて、面白い物を見せてやろうと言った。

祖父の出生から死亡までが記載されたその一枚の紙には、やはり手書きの「喜」の字が2つ。

「喜」が出生したことを「喜」が届ける

え?本人届け出たの?

葬式の夜に一同大爆笑。ひいじいさん、ありがとう。おかげで湿っぽい夜にならなかったよ。

こんなにおっちょこちょいでよく日露戦争から帰ってこれたね。おかげさまで私は今この世にいます。





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