電子音楽、現音からポピュラー音楽へ
「電子音楽」というのは、元々は「現代音楽」のうちのサブジャンルでした。
現代音楽の定義:20世紀における「(ポピュラー・民謡・商業音楽を除く)現代の音楽」。狭義では1920年代から1970年代までのものを指す(諸説あり)。
現代音楽とは、通称「ゲンオン」。実験的要素の強い前衛音楽。
どちらかというと、「音楽家の為の音楽」というかマニア向けというかまるでB to Bというか・・・言うなれば「玄人受けしそうな」「敷居が高そうな」要素の強い作品が多いという印象があります。
ざっとですが、「現代音楽の一部であった電子音楽がポピュラー音楽となった」経緯を辿ってみます。
◆1940〜50年代
1940〜50年代にかけ、現代音楽の作曲家がテープや電子楽器を使って様々な新しい音を作り始めました。
この時代に存在した電子楽器(弦や管ではなく電気信号により音を発生させるもの)と言えば、1920年代に発明されたテルミンとオンド・マルトノです。
電子オルガンのルーツと言えるテルハーモニウムという楽器もありましたが、巨大で持ち運び不可なうえ数も限られていました。
この時代の電子音楽をいくつか挙げてみます。
シュトックハウゼンやピエール・シェフェールのミュージック・コンクレート(テープを切り貼りして音を作る。今で言うサンプリング音楽)。
他にもピエール・アンリとかリゲティとか。
日本人作曲家も数多おられました。武満徹さんと黛敏郎さんがまず浮かびます。
◆1960年代
そして1960年代に入り、モーグ博士によりアナログシンセサイザーが登場、日本では冨田勲氏が69年にこれを取り入れた音を作り始めました。海外ではウェンディ・カルロスが有名です。
のちに「4人目のYMO」と言われる松武秀樹氏は冨田勲に「弟子入り」し、Moogシンセを自費で購入しスタジオを立ち上げるに至ります。
テレビCMからもシンセサイザーの音を頻繁に耳にするようになりました。
◆1970年代
1960年代末から70年代初頭は「現代音楽としての電子音楽」から「ポピュラー音楽としての電子音楽」の狭間な時代、楽器は高くて誰でも所持できないのでNHK電子音楽スタジオなど限られたスタジオや研究室にしか無く、まだまだ実験的要素の強いものでした。
そのうちのひとつ、1970年に設立された東京藝術大学の音響研究室。2008年に、保管されているアナログシンセが一般公開されたイベントに行きました。
そして70年代の終わり、当時東京藝大大学院生だった若き坂本龍一氏は音響研究室で電子音楽や民族音楽に没頭し、アルバム『千のナイフ』を作りました。
全てシンセサイザーで作られた音ながらオーケストラを聴いているような煌びやかで艶と色気のある音楽。やはり才能の塊だったのだなと思わずにはいられません。そしてYMOに参加、このグループによりシンセサイザーというものの存在をより一層世に知らしめ、そして完全に「現代音楽としての電子音楽」から「ポピュラー音楽としてのエレクトロ・ミュージック」へと発展しました。
◆1980年代
80年代に入り、YAMAHA DX7というデジタルシンセ及びフェアライトCMIというサンプリングシンセが登場。
日本で最初にフェアライトCMIを導入したのが、1980年代前半に活動していたキーボードグループ『TPO』。
メンバーは安西史孝、天野正道(この2人はアニメ『うる星やつら』の音楽担当した方)、岩崎工、福永柏の4人。
フェアライトCMIは当時の値段で1200万円ほどでした。
80年代はこれを使った「ジャン!」というオーケストラヒットの音をこれでもかと耳にしました。
ついでにこれも。フェアライト、オケヒットと言えば、アート・オブ・ノイズ。
またカセットMTRが安価になり、ちょっとお金に余裕のある一般音楽愛好家はDX7とMTRを購入し自宅でオリジナル曲を多重録音するようになりました。
◆1990年代以降
そして90年代以降、サンプリングもシンセサイザーもすっかり珍しいものでは無くなり、シンセサイザーとサンプリングのみで作られた音楽は「エレクトロニカ」(通称:ニカ)とか「エレクトロ」とか呼ばれるようになりました。
※テクノやトランスなど電子音楽全般をこう呼ぶ場合と、「テクノとニカは違うのだ」と区別している場合とあるようですがこの際その問題は置いておきます。
「エレクトロニカ」で検索かけたらこれでもかとヒットしますので、とりあえず自分が大好きなニカの音を置いておきます。
レイ・ハラカミ『にじぞう』
エレクトロニカとジャズの相性は良く、近年こういう音を作る人たちが増えました。
50年前にロックとジャズが組み合わさってジャズロックと呼ばれ、その後クロスオーバー→フュージョン→スムースジャズへと発展したように、ニカとジャズの組み合わせも進化を遂げているようです。
大好きなグループThe Juju Exchangeは、ジャズとエレクトロの融合が見事です。
追記:
電子音楽について深掘りしたい方へのお勧め本を紹介いたします。
ゲンオン側から攻めてみたい方向け・・・川崎弘二著・日本の電子音楽
エレクトロニカ・テクノ側から攻めてみたい方向け・・・田中雄二著・電子音楽 in JAPAN