時間
時間というものが強い意味を持つことくらい知っている。それを否定するつもりもないし、僕自身、そう考えている。
長らく温めた思いは強くなっていくし、愛着だって芽生えていく。信用とか信頼だとか、そういったものは時間を費やしてでしか築いていくことができないのかもしれない。
ゆっくり、ゆっくりと過ぎていく時間のなかでしか、その流れに乗っかってでしか、僕らは真に理解し影響し合うことが適わないのだ。
本質とはそういったところに存在し、それをそれを積み重ねることでようやく、自分という姿が他者の心に写し出されるものなのだから。もしも時間が存在しなければ、僕は何物とも繋がり合えないし、誰とも理解し合うことができない。真面目さ、誠実さとは、その長きに堪える忍耐力をいうのである。
そんなことを考えていると、途端にやりきれない想いが僕の胸を満たした。
ずっと宝物のように温めてきた想いは、僕の内側で膨れ上がり、やがて腐敗して溶けていった。かわりに、ひょいと現れた誰かに掬われて、簡単に持っていかれてしまう。
──直感を信じました。
──運命だと思いました。
──電撃が走って、それで……。
臆病になっていたわけではない。失うことに比べたら、怖いものなど何もない。だからこそ僕は、独占的な思考を捨てたのだ。永遠を見つめるために、ずっと想いを馳せられるように──。
時間というものの重みを僕は知っている。どんなに寄せ集めたって消えていくだけなのに、それがなければどこへだって動き出すことができなくなってしまう。
キミを失って僕は、もう誰の目にも届かなくなってしまうんだろう。だって僕には『時間』がないのだから。
もうあとわずかしか、積み重ねることができないのだから。余命幾許もないこの躯体が朽ちるまで、ただ過去を思うしかないのだから。