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ドル円は「150円」割れ、トランプラリー・円安神話は”終了”か

ドル円は150円割れで週末を迎える

今週のドル円は節目とされる150円を割り込み、149.2で終わりました。ドル円が150円を下回る水準で週末を迎えるのは昨年11月29日以来となります。

昨年11月末から12月初旬にかけて、ドル円は150円を挟んでのもみ合いを数日続けていました。が、12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)を前に上昇基調となり、今年1月10日には160円手前まで上昇しました。

1月10日の高値(158.9)から考えると、ドル円は1カ月とちょっと(約40日)の間に10円近く下げたことになります。

ドル円が10円近く下げた背景

ドル円が40日間で10円近く下げた背景には以下3点があったと考えています。

◆日銀の利上げ期待
◆FRBの利下げ観測
◆トランプラリーの終焉

以下では、それぞれについて簡単に説明いたします。

日銀の利上げ期待

日本銀行は1月23、24日に開催された金融政策決定会合で政策金利(無担保コール翌日物金利)の誘導目標を0.25%ポイント引き上げ、0.50%程度にすることを決めました。政策金利が0.50%となるのは、2008年10月以来です。

じつは昨年末から年初にかけて、市場では日銀が利上げに慎重であるとの見方も一部にありました。

しかし日銀・植田総裁や氷見野副総裁は、今年に入ると講演などで利上げを議論する可能性を示唆し、市場は徐々に利上げを織り込む展開となりました。

1月の日銀会合後も、日銀は利上げを続けるとの見方が続いています。

昨日(2月21日)朝に発表された1月の日本の消費者物価指数(CPI)は、総合が前年比+4.0%と2023年1月以来の4%台となり、コア(生鮮食品を除く総合)も前年比+3.2%と前月(+3.0%)から加速しました。コアCPIを構成する522品目中、398品目が上昇し、4%以上上昇する品目のシェアが増加するなど、日本のインフレ圧力が高まっていることが明確となりました。

一方で、日銀は日本で賃上げの動きが強まっていると判断しているようです。1月9日に開催された日銀・支店長会議では、

・構造的な人手不足を背景に、2025年春闘での賃上げ継続が必要との認識が幅広い業種の企業に浸透している。
・「人材確保を経営の最重要課題と捉え、25年度も前年並みの賃上げを行う」という声が聞かれた。
・中期経営計画に持続的な賃上げを織り込む企業も出てきている。

という報告がなされました。

また、神山・大阪支店長は「相応の数の企業が賃上げに前向きな姿勢を打ち出している」と述べ、2025年度の賃上げ率が「しっかりとしたものになる」との見通しを示すほか、堂野・名古屋支店長は「一部の企業で、昨年並みあるいはそれ以上の賃上げを行うとの話も聞かれる」と報告しました。

日本の景気が安定していることも日銀による利上げ観測を後押しているように思えます。

2月17日に発表された昨年10-12月期の日本の実質GDP成長率は、前期比(年率)+2.8%と3四半期連続でのプラス成長となりました。24年通年でみた名目成長率は前年比+2.9%、実額で609.3兆円と過去最高となり、通年で初めて600兆円を超えています。

輸出がインバウンドを中心に増加が続いているほか、個人消費や設備投資もプラスとなり、日本景気が緩やかな回復基調にあることが示されました。

FRBの利下げ観測

2月中旬から米連邦準備制度理事会(FRB)は(やはり)利下げをするだろうとの見方が強まっています。

2月14日に発表された1月の米小売売上高は総合が前月比0.9%減、コアが同0.4%減と、いずれも市場予想を下回りました。

2月20日に公表された米小売り大手ウォルマートの決算では、2025年度第4四半期(2024年11月~2025年1月)の結果は堅調だったものの、2026年度(2025年2月~2025年1月)見通しが市場予想を下回り、米消費の先行き期待が後退しています。

昨夜(2月21日夜)に発表された米経済指標も軒並み悪く、FRBの早期利下げ観測を高めたように思えます。

2月の米総合PMI(速報値)は50.4と、前月(52.7)から低下し、2023年9月以来の低水準となりました。製造業は51.6と前月からやや上昇しましたが、サービス業が49.7と前月(52.9)や市場予想(53.0)だけでなく、好不況の分岐点とされる50を約2年ぶりに下回りました。

また1月の米景気先行指数は前月比-0.3%と市場予想を下回り、1月の中古住宅販売戸数は408万戸(前月比4.9%減)と4カ月ぶりの減少となっています。

これまで安心感があったとされる米景気に変調の兆しがみられたことに市場は注目したようです。

トランプラリーの終焉

ドル高・株高を促した(いわゆる)「トランプラリー」が終わりを迎えつつあるという気がしています。

2024年11月の選挙勝利後、トランプ氏は「就任初日に大胆な行動」を約束し、具体的には「25%以上の関税」「減税」「規制緩和」「エネルギー自給」を掲げました。これがトランプラリーの原動力になったと思われます。

トランプ大統領は、就任前の勝利ラリー(Capital One Arena)で「国境安全保障」「エネルギー政策」「DEI廃止」*などの就任後すぐに署名すると発言し、発言通り署名をしました。

※DEI廃止
多様性(Diversity)、公平性(Equity)、包摂性(Inclusion)を推進する施策や取り組みを修了させること。

しかし関税については、メキシコとカナダの関税引き上げを30日延期することを決め、他政策においても法案提出や実行スケジュールが明確化されておらず、トランプ大統領に対する期待が後退しているように見えます。

そもそも関税発動には議会の承認や通商法の手続きが必要で、共和党内部でも財政赤字拡大や企業負担への懸念から抵抗が予想されます。大統領就任後の議会公聴会では関税発動の具体化の遅れが明らかとなり、早くて4月2日発動が現実的なスケジュールになっています。

財政やエネルギーに関する政策でも当初の期待が後退したように思えます。

トランプ大統領は、大規模減税とインフラ投資(1兆ドル規模)を公約しましたが、共和党内部では財政赤字懸念を背景に減税規模が当初の3兆ドルから1.5兆ドルに縮小する案が浮上しています。インフラ計画も予算折衝で進展が停滞気味です。

エネルギー自給政策に関しては、米国でのシェールオイル増産で原油価格が下落する(ドル高要因)と見られていましたが、2月初旬のOPEC+会合で減産継続が決定され、原油価格が80ドル台で高止まりしたままです。

チャートは下落トレンドを示唆

ドル円の日足チャートは、ドル円の下落トレンドを分かりやすく示しています。

ドル円は全体のトレンドを判断する際に使われる200日移動平均水準を6日連続で下回っています。また昨日(2月21日)のドル円は、5日移動平均で上値がしっかりと抑えられており、1月10日と1月24日の高値を結んだ下落直線に沿う動きが続いています。

昨日は149.2付近で終わりました。この水準は、昨年9月16日の安値(139.6)から今年1月10日の高値(158.9)への上昇局面の半値戻しの水準にあたります。またドル円が150円割れでもみ合った時期(昨年12月2~3日)の安値水準です。

週明けの24日以降、この水準でドル円が踏みとどまれるのか、それともこの水準(149.2)を割り込むのかが注目されます。

ここを割り込むと、昨年9月16日の安値(139.6)から今年1月10日の高値(158.9)への上昇局面の61.8%戻し水準(147ちょうど近辺)が次のターゲットとなります。

来週以降もドル円下落トレンドは続く見込み

国会答弁の様子を見た上での印象でしかありませんが、日銀・植田総裁は利上げ継続に少しずつ自信を深めているように思えます。タカ派とされている日銀の田村審議委員や高田審議委員の講演も、追加利上げに向けた地均し(じならし)とする見方も出てきています。

春先に向けて日本景気に大きな変調の兆しが見られないのであれば、日銀は4月にも追加利上げに向けて動くのではないかと感じます。

米FRBによる追加利下げも、以前に比べれば可能性が高まっているように思えます。

多くの方は、1月のFOMC議事要旨でメンバーの多くは追加利下げに慎重との見方を抱いているようです。しかし、以下記事で指摘したように私はむしろ、状況さえ許せば(言い訳ができるのであれば)FOMCメンバーは追加利下げにすぐに着手すると見ています。

「本音は利下げ」を示したFOMC議事要旨、騙されてはいけないFRBの”二枚舌”戦略
https://note.com/muratamasashi/n/nef03d4102a2d

トランプラリーの終焉は、ある意味、自然なことかと思います。人々の熱狂は短期的には強まるかもしれませんが、何カ月も続くものではありません。むしろトランプ氏に対する熱狂が、昨年11月の米大統領選以降、ここまで(3カ月間)続いたことに感嘆しています。

市場は常に移り気なものです。日本の個人投資家の多くは、ドル高・円安の動きを熱狂的にとらえていたように思えます。しかし、トランプラリーと同じように、ドル高・円安「熱狂」もいつまでも続くものではありません。我々はそろそろ次の熱狂を探す時期に来ているのかもしれません。

村田雅志(むらた・まさし)

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村田雅志(むらた・まさし)
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