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"The Hole" 7/8

 東京に戻って仕事に追われながらも、母親のことはいつも頭の片隅にあった。数年前には大切な祖父母を亡くし、家族の死を少しずつ乗り越えようとしてきた矢先、母親に対する余命の宣告がなされたのだ。

 彼はそのような運命に対して、悪魔の存在を感じずにはいられなかった。愛する二人の命を奪い、母だけは助けたかと思いきや、再び底の無い闇へ突き落とす。一度回復してから再発すると異常な早さで進行する癌という病も、悪魔の化身であるかのように感じられた。

 すべてが奪われてしまう。何もかも、失われていってしまう。代わりなんてどこにもいないのに。


 夜、部屋に帰って一人になると、行き場のない思いや感情が浮かんできた。どうして僕の家族なのか、どうしてこんなことになってしまったのか。答えの出ない問いに苛まれて、眠りにつけない日もあった。

できることを、精一杯しよう。それ以外にやれることなんて、何一つ思い浮かばなかった。

・ ・ ・ ・ ・

 葬式の日、リョーマは久しぶりに兄と二人きりで話をした。そして改めて母の死に向き合った時、自分よりも兄のほうが心に悔いを抱いていることに気づいた。

 人生の節目や、残された最期の時間を通じて母親にできる限りの言葉を伝えてきた自分に対して、そのような表現を思うようにできなかった兄のもどかしさを知ったのだった。

 母の遺影に対峙したその日、リョーマは自分で思っていたよりも清々しい気持ちが湧いていることに少し驚いた。全部を伝えられたわけではないし、後悔も嘆きもあるけれど、少なくとも彼は前を向いていた。

 だからこそ、兄の抱えていた両親に対する想いも理解できたのだ。兄は兄で、彼なりの悩みや葛藤を抱いていたことに耳を傾けながら、うまく言い表せない感情に胸を打たれもした。

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