"The Hole" 4/8
学芸会や発表会で注目を集めるような役に選ばれても、その姿がきちんとビデオに収められていることは少なかった。サッカークラブに車で送り迎えをしてくれる母が、友人の親のように子どもの練習風景を見学することもほとんど無かった。今思うと、家事や子育てだけでなく趣味にも時間を注いでいた母は、まわりにいる親たちに比べてかなり忙しかったのだろう。
何はともあれ、リョーマは中学生になった。家族とうまく繋がれない子どもの多くがそうなるように、彼はできるだけ自立するという道を選んだ。
どんなふうに学校生活を過ごすか、進学先はどこにするかなど、両親の介入が求められる場面でもあまり耳を貸さないようにした。そこには反抗期という側面もあっただろうが、その奥には満たされなかった何かがあったのかもしれない。
何かを望んでもそれが得られないと悟った時、人はその対象を切り離そうとする。そんなものは必要ないし、無くたって生きていけるのだと。
高校に入って足を踏み入れた軽音楽という世界は、彼が切り離そうとしていた存在をちょうどいい形でぼやけさせてくれた。両親からの愛情を思うように受け取れなかったさみしさのような感情は、軽快な音楽によってどこか遠くへ吹き飛ばされたかのようだった。
この「よくありそうな話」の主人公たちは往々にして、家族との繋がりそのものを忘れてしまったりする。一枚の写真として切り取られた、不完全にも繋がっていた時代のアルバムに興味を示さなくなるのだ。そんな記憶は自分という部屋のどこかで迷子になってしまって、何十年も経ってから見つかったりすることのほうが多いだろう。
そのような文脈の中で、リョーマは少し違うタイプの主人公だった。
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