"The Hole" 1/8
東京は狭く、広い。特に行き先もなく自転車を走らせながら、通り過ぎていく建物に記された町の名前が移り変わっていくのをリョーマは視野の端でとらえる。街というものは自分が移動するにつれて徐々に道を広げ、開かれたスペースの合間に自然を迎え入れる。故郷である兵庫県の三田市から上京するまで、彼はそんなふうに考えていた。
けれども今、休日の昼下がりにちょっとした遠足を試みながら、どこまでも途絶えることのない街に自分が暮らしているという事実を彼は体感していた。
もちろん終わりはある。どこかの地点まで行けば空間は少しずつ広がりを見せ、都会と呼ばれることのない場所へと繋がっていくのだろう。その先には彼の気に入っている森があり、山があり、海がある。彼の中にあったのは、そういった場所が時に途方もなく遠くへ感じられるような、うまく言葉にはできない感覚だった。
彼は東京という街も好きだけれど、より大きな自然を求めるそのような感覚を見過ごさないようにしている。それは都市で暮らすほとんどの人々が、忙しさやら何やらを原因に心のどこかへしまい込んでいる欲求の一つだ。
そこにある蓋のようなものを少しだけ開き、自然との繋がりを思い出すこと。そのような体験を共にした仲間と語り合い、いつでも帰って来られるコミュニティの一員になること。リョーマは「mui」という名の活動を通じてそういった機会を届けていた。彼の蒔く種を受け容れる土壌を持った、未来の同志たちに向けて。
日帰りで訪れられる近場の自然に触れるプログラムもあれば、対話しながら夜を明かせるような一日で終わらない場もあった。発起人である彼は、参加した人たちの関係性が蔦のように絡み合っていくのを見るのが好きだった。
また彼自身がそんなふうに楽しんでいるからこそ、その想いに共鳴する何かを持った誰かが、新しいメンバーとして加わり続けていくのだった。
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