紫の発見 4/5
私とあのデザイナーの女性は、不思議な縁で一緒に仕事をすることになった。彼女とは、知り合いが経営していた銀座のバーで初めて顔を合わせた。会社の帰りに一人で寄った時、当時仕事で関わっていたコピーライターの男性が偶然その場にいて、彼女はその隣に座っていたのだった。
声をかけると、彼は女性のことをフリーのデザイナーだと紹介してくれた。二人で話したそうな雰囲気を彼から感じとったので仲間に加わりはしなかったけれど、「何か仕事があったら連絡してあげて」と言われたのでとりあえず名刺だけ交換しておいた。
その数日後、午前中に半休をとっていた私はオフィスへ出勤するために最寄り駅のホームへ向かって階段を下りていた。ふと、すれ違った人の顔に見覚えがあるように思えて振り返ると、その女性も階段の上から私を見つめていた。驚いたことに、それはバーで出会ったデザイナーの彼女だった。
挨拶をして、どうしてここにいるのかと尋ねたら、仕事の予定でたまたまその駅に降りたのだと彼女は言った。通勤途中だったのでゆっくり話をする時間はなかったけれど、「なんだか不思議ですね」と二人で味わいながら短い会話を交わした。電車に乗って職場へ近づくにつれて、私の意識は少しずつ仕事に関することへ向いていった。
それでも駅での再会が気にかかり、ポートフォリオを見せてもらうために後日会社に来てもらえないかとメールした。
数ヶ月後、担当している商品のパッケージをリニューアルすることになり、デザインコンペを行う流れになった。私が参加を持ちかけると、彼女は快く引き受けてくれた。
彼女のデザインとそのプレゼンテーションが素晴らしく、満場一致で採用される結果になった時、私はとても嬉しかった。ススキの一件は、このパッケージの印刷へ向かう道すがらの出来事だった。
引き続き会社から彼女にデザインを依頼する機会があり、ほどなくプライベートでも会うようになって、私は時折奇妙な縁を感じるようになった。
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あの日、「ススキがきれい」と私が呟いた時。「そんなこと言う人なんだ」と返事をした記憶は、彼女の中に残っていないかもしれない。私はそれを聞いて、何も思わなかった。その瞬間はただ、ススキという存在につながっていただけだった。それ以外のこと、まわりに起きていたことは一切関心を引かなかったのだ。
後になって彼女の発言を考察してみると、私がこぼした言葉に意外な印象を覚えたのかもしれないという気がした。その頃にはまだ一緒に仕事をするだけの仲だったし、あんなことを口にするような場面は彼女にとって新鮮な一面だったのだろう。私自身も、彼女がその後二十年以上続く友人になるとは思いもしなかった。
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