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小林清志主演のアニメ「ルパン三世 次元大介の墓標(2014年)」レビュー「『ハードボイルド』ってのは皆が思っている程カッコ良くねえし…『ハードボイルドな生き様』を貫くと『本当のファン』から石を投げられるのだ…」

長らく東西に分断されている欧州の某国で東西統一の架け橋となるべく
コンサートを開かんと画策する歌姫クイン・マルタ(皆瀬まりか)
直々の依頼で彼女のボディーガードとなった次元大介(小林清志)であったが…
コンサートの最中にクイン・マルタは何者かに狙撃され…
次元の眼前で絶命する…眼前の命を守れなかった悔恨と…
その「誰か」の超一級の狙撃術に闘志が湧いて来る…。

その「誰か」が今度は次元を狙撃する…。
何故オレを…クイン・マルタ同様に
眉間を撃ち抜いて一発で殺さなかったのか…。
次元の脳裏にある殺し屋の噂が甦る…。
賽の目で標的を殺すのに必要な弾数を決め…
御丁寧にこれから殺す相手の墓を作る殺し屋…。
ヤエル奥崎(広瀬彰勇)のコトを…。

果たして墓場には「次元大介ここに冥る(ねむる)」と
刻印された墓標が作られていた…。

次元は…ルパン三世(栗田貫一)の加勢を拒み…
「狙われてるのは…このオレだ…」
「その証拠に…テメエの墓は作られてねえ…」
「テメエは…たまたま一緒に仕事するコトが多いだけで…仲間じゃねえ…」
と突っぱねる。

とは言え…ルパンもヤエルに脚を狙撃され…
「もう他人事じゃねえ」
のである…。
「ルパン」という人間は…
「やられたら必ずやり返す」んだよ…。

ソレに…賽の目で標的を殺す弾数を決めるって言う…
ヤエルのスタイルはルパンに言わせりゃあ大甘で…
1発で標的を仕留めないと…
必ずや標的からの反撃を受けるワケで…
「ヤエルくん」に…オレを1発で仕留めなかったコトが…
どれだけ大変な愚行なのかを是が非でも教育してやらねばならぬ…

ルパンの心中に「昏い感情」が広がって行く…。
そんな中…ヤエルの弾丸が次元の眉間を貫き…
次元はヤエルが予告した弾数…4発目で絶命して果てるのだった…。

次元は…このままヤエルの用意した
墓に埋められて「終わる」のだろうか…。

テレビアニメの2本分の尺…25分×2を前後編として分け…
前編の最後で次元が眉間にヘッドショットされて死ぬという衝撃的な展開。
最早「ルパン」で人は殺せないだろうと言う下馬評に蹴りを入れている…。

「ハードボイルド」と言うのは…本来は「堅ゆで卵」という意味だが…
転じて「あらゆる情実に左右されない冷酷非情で強靭な精神」を
指す様になった…。

モンキー・パンチ先生の漫画「ルパン三世」は…ハードボイルドを指向し…
第1期のアニメ化の第10話「7番目の橋が落ちるとき」までは
ハードボイルドの意思を貫いたが…それ以降は…おふざけが増えていった…。

第2期のアニメ化では新聞に
「ルパンが人を殺すなんて!」との投書が掲載された…。
曰く…ルパンは(ねずみ小僧の様な)義賊であり…
弱きを助け強きを挫き…
決して無益な殺生はしないのだと言う…。

「ルパン三世」というコンテンツが長命化するに従って…
「ルパン」からハードボイルド要素が失われ…
困っている女性…小山田真希(島本須美)とかクラリス(島本須美)を
何ら見返りなく助け…何処かに去って行く気のいい連中…として
ルパンや次元,五エ門,不二子…が描かれる様になって行った…。

ソレは…必要とあらば呼吸する様に人を殺した…
「ルパン」の…
「ハードボイルド」のあり方と逆行するものだ…。

そんな「流れ」に逆らい「ハードボイルドへの回帰」を目指したのが
「ルパン三世 ルパンvs複製人間(クローン)」(1978年)であり…
その翌年に作られた「カリオストロの城」(1979年)では…
「冷酷非情」という要素はグッと薄まっていったと思う…。

「カリオストロの城」は…
映画として大傑作であるし…
アニメとして大傑作であるし…
活劇として大傑作であるし…
ジブリ映画の嚆矢としても申し分ないとは思うが…
「ルパン三世」としては落第点であり…
「ハードボイルド」としては退学処分なのだ…。

ソコで…「ルパンの原点回帰」を指向する
「次元大介の墓標」のスタッフは…
ルパンの原点とは…「ハードボイルド」だとして…
「複製人間」を…回帰すべき「ハードボイルドの原点」と設定し…
「複製人間」を「手本」としてアニメを構築し始めた…。

本作に於ける峰不二子(沢城みゆき)のキャラクターデザインに
「手本度」は顕著であり…不二子を「魔性」として描き…
彼女が服を着てない場面の方が多く…「魔性」に着衣は不要であり…
バイクを運転するときは…素っ裸の上からライダースーツを着用し…
コレは勿論「複製人間」の踏襲となっている…。

ただし…本作に於ける不二子からは
「セックス」の要素が徹底的に排除され…
ルパンが不二子の裸を見ても欲情するコトは全くない…。
沢城みゆきさんの演じられる峰不二子は…
子供…ガキンチョに見え…
色気を感じないのである…。

「オンナ」と言うのは…
コドモに見える程幼く見えれば見える程魅力的…
というロリコン的発想が見え隠れしてる…。

しっかりしなさい…ソレは「カリオストロ」の発想でしょ…。
アナタはいま…「複製人間」を「手本」にするんでしょ…?

「ルパン三世」の一番初期のパイロットフィルムを見ると…
「峰不二子は…オンナである…」
と解説されていて…「幼く見える」とは…
設定書の何処にも書かれてないのだ…。

「複製人間」に於ける不二子は…
コレはもうハッキリとルパンのセックスの対象として描かれ…
決して勃起出来ない…
「おじいちゃん」のマモーとの対比となっているのだ…。

セックスアピールのない「魔性」とはコレ如何に…。

そして…本作を観ていて「苦しい」最大の理由は…
生涯現役を貫かんとする声優・小林清志さんの
ハードボイルドな生き様そのものなのだ…。

本作が作られたとき小林清志さんは御年81。
妖怪人間ベムを演じ…
アームストロング・オズマを演じ…
ジェームズ・コバーンを演じ…
勿論次元大介を演じ…

その輝かんばかりのキャリアの晩年は…
「声」が加齢されてかつての張りを失い…
「声」がしわがれ…しゃがれ…
本当にね…「僕の次元大介像を壊さないでくれ」
「これ以上晩節を汚さないでくれ」
「後進に道を譲ってくれ」
「もう…いい加減引退してくれッ」
と希う日々であり…要するに…
「オイボレは…この世から消えてなくなれッ」
という願いなのです…。

「次元大介の墓標」を見るのに10年もかかったのは…
ただひとえに…
「小林清志さんが老醜を晒す姿を見たくないッ」
との思いがあったのです…。

「生涯現役」って言葉は美しいし…
声優には定年がなく…本人がもう止めるって言うか…
亡くなるまで続く残酷さがあり…実に実に実に冷酷非情な仕事なのです…。

つまり小林清志さんの…あくまでも生涯現役に拘られ…
「次元大介」を演じるコトに拘られる姿勢こそが…
「オイボレは…この世から消え失せろッ」って罵倒に対し…
「ウルセエよ…」と言い返すのが…
「ハードボイルド」なんですよ…。

「ハードボイルド」は…決してカッコイイばかりではなく…
人から「もう辞めちまえオイボレ!」と罵られ…石を投げられても…
生涯現役を貫く姿は「無様」であって…。

アニメスタッフが…僕達が…
「ハードボイルドへの回帰」を指向するのは…
「昔のままが一番いい」と願うのは…
どれだけ声優が加齢し…オイボレても…
ルパン三世は未来永劫…山田康雄さん以外有り得ない…
次元大介は未来永劫…小林清志さん以外有り得ない…
五エ門は未来永劫…大塚周夫さん以外有り得ない…
不二子は未来永劫…二階堂有希子さん以外有り得ない…
とファンが希う(こいねがう)のは…
「残酷」以外の何物でもないのですよ…。

本作のラスボスは…ヤエルの依頼主は…
本作の「手本」が「複製人間」であるから…
当然世界の歴史に干渉し…好んで紛争を闘争を戦争を齎そうとする
あのヒトとなり…クローンを繰り返しながら生き続けようとする
あのヒトの姿は…「ルパン三世」に延命措置を繰り返して…
コンテンツを無限に生かそうとする「残酷さ」を良く表してます…

小林清志さんは…老醜を晒しながら「次元大介」に拘る小林清志さんは…
「永遠に生き続けようとする」行為の実態と…その醜さを示し…
あのヒト…マモーに対抗しようとしている様に思われるのです。

これこそ…まさに…「ハードボイルド」な生き様と言えるでしょう…。
冷酷非情で…無様で…醜く…オイボレて…
なれど…途方もなくカッコイイよ…次元…。

何てこった…
たったこれだけのコトを言うのに…
10年もかかっちまった…。
「加齢」と言うのは…
「老醜」と言うのは…
「他人」であっても「自分」であっても…
斯くも受け入れ難いのだ…。

次元「オメエ(ヤエル)の使う銃はオレから言わせれば…」
「ロマンに欠けている…」

「ハードボイルド」をロマン(夢)たっぷりに描くのが本作の特徴であり…
そもそも次元が歌姫の依頼を受けたのも「ロマンがあるから」。
「ハードボイルド」を「紅の豚」のポルコ・ロッソの様に…
「カッコイイこと」と…
きっと若いアニメスタッフは思ってるんだろうなあ…。
「ロマン」(夢)と
「ハードボイルド」(一切の情実を排した超現実主義)は…
極めて相性が悪いのにね…。

「複製人間」でマモーも言ってるじゃん…
「(極めて常識的な発想をする合理主義者の)ルパンは夢を見ない」って…。
そんなルパンだからこそ「ハードボイルド」がよく似合うんだよ…。

小林清志さんの…壮絶な吹替を聴いて…
壮絶で無様な生き様を見て…
「ロマン」なんて…
「ハードボイルド」の前にあっては…
塵芥(ちりあくた)に過ぎないと…
気付いてくれるコトを祈るものである…。

本作の国内盤は6,980円。
海外盤は4,980円。
海外盤の言語をJapanese/字幕をNo subutitle(なし)に設定すれば…
要するに国内盤となるのですから…
海外から円盤を取り寄せて視聴するコトとなります…。

コレ…おかしいでしょ…日本のアニメを円盤で観るのに…
海外盤を取り寄せた方がいいって…。

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