解題「完全犯罪」NEMURENU50th
ムラサキです。最近すっかり影が薄くなりまして(わたしの)。外出も減り会話も減り、休日は主にじっとしています。息を潜めて暮らしています。
そのように世間様に目をつぶっているものですから、多少の時代錯誤があっても御容赦を。
「眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー」
この界隈ではネムキリスペクトのハッシュタグの方が通りが良いようですが、この度企画は第50回を迎えました。大変お目出度い事ですが、私がこのように低調子でございますので、お祝いも程々に。通常通りのロウテンションでお送り致します。
わたし「第50回、おめでとうございます」
わたし「ありがとうございます」
わたし「よくこんなに長く続きましたね」
わたし「ムラサキは30人くらいおりますので、1人あたりの担当回数はそんなに多くないんですよ」
わたし「これまでの企画の中で記憶に残る思い出はありますか?」
わたし「そうですねえ、ウスバカゲロウの如き零細企画ではございますが、何処で見つけて来られるのか、新しい参加者様が現れてレギュラー化し、他のメンバーと仲良くされているのを見るのは楽しいですねえ。」
わたし「その交流に参加はしないんですか?」
わたし「インドア派ですから」
わたし「最後に、企画が長く続く秘訣を教えて下さい」
わたし「神頼み、ですかね……」
わたし「企画主宰のムラサキさんでした」
わたし「ムラサキ12号でした」
わたしによる50回記念の特別インタビューも終わったところで当月の解題開始でございます。当月の企画テーマは「完全犯罪」。
メンバーの皆様があらゆる完全犯罪に挑戦致しました。
犯罪に手を染める、甘い誘惑は蜜のよう。この陶酔を分かち合いたい。交歓したい。殺す者と殺される者、二者が揃って初めて芸術は生まれるんだぜ。
NEMURENU50th
完全犯罪
開幕でございます。
目次
01 小説「黄泉平坂墓地太郎事件簿 髪切り鬼」 ムラサキ
02 漫画「90年代ミステリ漫画講座」 根本尚
03 小説「第十位」 武川蔓緒
04 小説「予行演習(美大生に明日はない♯27)」 怜久井絵夢
05 小説「くすぐったい光」 千本松由季/小説家/YouTuber
06 小説「その男、悪戯好きにつき」 ぽこまる
07 小説「[ししょうせつ] 完全犯罪」 としべえ
08 コラム「戦後最大のミステリー『奇子』と『下山事件』国鉄初代総裁失踪の謎!手塚治虫が描きたかったこととは?」 手塚治虫全巻チャンネル【某】
09 小説「完全犯罪って、ありますよね」 くにん
10 コラム「犯人や関係者らしき書き込みが5ch(2ch)に多くあったのに、語られることの少ない新宿歌舞伎町ディスコナンパ殺傷事件とかいう未解決事件…」 黄昏ちゃんねる note出張所
11 音楽『ツエコチ』(埋め込みが上手く出来なくて上げ直しました) あじつ
12 小説「恋愛犯罪」 孤月
13 小説「ひとを呪わば」 闇夜のカラス
14 エッセイ「わかっていても、とめられない」 常世田美穂
15 小説「マリー・セレスト号のしつらえ」 海亀湾館長
16 小説「肉芽」朝見水葉
解題
01 小説「黄泉平坂墓地太郎事件簿 髪切り鬼」 ムラサキ
冒頭からわたし。見切り発車で書き始めるので収拾つかない。3万1000文字。校正しようとして読み始めると疲れて途中で寝ちゃう。
黄泉比良坂墓地太郎シリーズの第四作目にあたります。
シリーズ第一作はこちら。
黄泉比良坂墓地太郎事件簿「かごめ」
02 漫画「90年代ミステリ漫画講座」 根本尚
少年チャンピオンなどで連載を持っていたプロ漫画家根本尚さんの、「ミステリ漫画」の解説。
沢山の有名漫画が登場します。この時代はミステリ漫画の黄金期だったんですね。
それぞれの漫画の考察が鋭いです。さすが漫画家さんです。読み応えがあって面白いですよ。
「ミステリ漫画は文字数が多い」とは途中に出てくる指摘ですが、実際に多いですよね。長い説明を読むうちに疲れて途中で寝てしまいます。
ネットで根本尚さんの漫画を拝読しましたが、説明的な台詞も少なくとても読みやすかったです。ミステリの良い所を堪能できます。
これがオススメ。
ヤンキー探偵 六波羅探題。
ありそうで無かったヤンキー探偵です。ヤンキー漫画としても王道いってます。
03 小説「第十位」 武川蔓緒
質問者からの質問
「ザ・ベストテン」と「ザ・トップテン」の違いを教えてください。
回答
「ザ・ベストテン」は78~89年にTBSで放映された歌番組。
司会は黒柳徹子と久米宏。
「ザ・トップテン(86年4月に歌のトップテンに改題)」は81~90年に日本テレビで放映された歌番組。 司会は堺正章と榊原郁恵。
記憶に懐かしい黒いフラップ板がパタパタ回転して順位を発表する形式はザ・ベストテンです。
参考URL
そう。
武川さんの作品の、この形式を我々はよく知っています。いや知っているのは年嵩の多い人達だけなのですが。
いま思い返すと当時の歌番組って不思議な緊張感がありましたね。調べてみると生放送だったんですね。アア、ナルホドナア。今よりも失敗が許されない時代です。番組スタッフの緊張感が伝わっていたのかもしれません。
懐かしくて良い時代です。
武川さんの小説は往年の歌番組さながらに、趣は少し変わって、朗読アイドルの生朗読公開番組。文芸偏重の良い時代です。少女の語る一篇の物語。朗読であるはずが次第に少女と物語の境界線は曖昧になっていき、虚実不明の残酷さを抱えて終局を迎えます。
幻想の作品で、朗読が終わってみれば夢のよう。しかし、朗読を通じて何かが壊れた事だけは確か。少女が少女の皮膚を脱皮する。いや初めから少女など何処にもいなかったのか。不思議な作品です。
04 小説「予行演習(美大生に明日はない♯27)」 怜久井絵夢
絵夢さんの美大生シリーズ、第27回。
毎度、美大生絵夢君の周囲の不思議な出来事を紹介する「美大生に明日はない」。
最近美大漫画が流行して、改めて「美大」という治外法権国家について知見を得た所です。
普通の大学とはかなり異なる世界で、「変」が集まるのも不思議ではない。
さて、今回の「完全犯罪」は、絵夢君の行なう華麗な犯罪、いや犯罪では無いですね。友人なりの親切です。
日頃、周りの変人たちの中で絵夢君は常識と分別を持ち合わせ、変人たちを静かに見守る観察者のイメージがありますが、絵夢君も美大生。ひと癖もふた癖も持ち合わせております。奇抜の変人たちに囲まれて、微笑みながら見守るその感性。岩塊のような肝です。
それにしても何処までもお酒を呑めるって凄いですね。お酒の失敗のアレコレが無いという事ですものね。なんと羨ましい。お酒の失敗は怖いですものね。
私は以前、《 公務員をしていたけれど酔って電車内で全裸になってしまい、全てを失った人》と話をしたことがあります。全裸で警察に保護されて、公務員は懲戒免職。人生の破滅は一瞬。お酒は怖いです。
ということで、皆様のお酒の失敗談お聞かせください。他の方の回答は、回答を送信後に閲覧できます。
05 小説「くすぐったい光」 千本松由季/小説家/YouTuber
千本松さんの作品です。
最近作風が変わって物語に厚みが出てまいりました。
主人公はバイオリニストとピアニスト。もう若くはない二人は、若い頃からの知り合いでずっと一緒に音楽をやっている。音楽活動は共歩きしながらも、人生は別たれていた二人のお話です。
冒頭から中盤まで主人公である万里香は動物園の中で自分の半生を回顧しています。
動物園って良いですね。
わたしも先日、地元の小さな動物園に行きました。
かつてはゾウもキリンもペンギンもおりましたが、いまは動物が減って馬とか猿など数えるばかり。動物園の最奥には過去の動物たちの遺影が並んでいました。
キリン、キリン、ゾウ、ゾウ、ニホンザルたち。
ガラス越しに殆ど動かないカピバラを見て帰りました。
動物園、良いですねえ。誰しも動物園には郷愁があります。
そこは南国の鳥たちが鳴き喚く熱帯です。
決して若くないピアニストとバイオリニスト。二人の物語はどのように紡がれるものでしょうか?
06 小説「その男、悪戯好きにつき」 ぽこまる
初めて参加されるぽこまるさん。
今回集まった作品の中でもっともテーマに沿った作品かもしれません。「完全犯罪」というテーマを考えた時に、犯罪を犯すこと、その罪から免れること。これが基本となりますが、もうひとつ忘れてはいけないのが、犯罪が周知されて犯人の暗い承認欲求が満たされること。これが大切です。
日本では年間8万人が行方不明になるそうです。行方不明となった原因は、届出する近親者には推察されるようですが、それでも理解しえない突発的な、原因不明の行方不明者は全体の15~20%いる。年間約1万5000人ですね。何らかの事故犯罪に巻き込まれた可能性は高いのではないでしょうか。
誰も知らないうちに犯人が、被害者を××して××する。そして誰も知らないまま行方不明として処理される。
このような××も完全犯罪ではありますが、今回のテーマの「完全犯罪」つまり「ミステリ」的な意味合いでの完全犯罪からは遠ざかる気も致します。ミステリ的な意味での完全犯罪は、謎の提起、つまりは挑戦があってこそ。
被害者が殺された事は吹聴したい、だが、自分が官憲に捕まる事は避けたい。矛盾していますが、生命の身内に漲る衝動とはそのようなものでしょう。この矛盾の成立が完全犯罪。
ぽこまるさんの作品は犯人の挙動が実に完全犯罪的でした。
(矛盾を抱える完全犯罪主義者たち「金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿」)
07 小説「[ししょうせつ] 完全犯罪」 としべえ
としべえさん、こんにちは。いまはどちらの国家にいらっしゃるでしょうか。
としべえさんの作品には「私小説」ならぬ「詩小説」のジャンルが冠されます。詩とは情動。としべえさんの緩やかに流れる漂泊の心情が、川面に浮かぶ落ち葉のように語られます。
が、今回は「ししょうせつ」。「私」であり、「詩」でもある「し」が何の「し」であるか皆様の目でご確認ください。
一休さんのお話にありましたね。
大きな紙に有難い言葉を書くよう頼まれた一休さんが書いたものは「し」。
図書館に寄せられた質問に対する答えって、詳細を極めていて凄絶です。どうしたらこんなに詳細に調べられるのでしょう?
Yahoo知恵袋より面白い、世界知の集大成。レファレンス共同データベースはこちら。
08 コラム「戦後最大のミステリー『奇子』と『下山事件』国鉄初代総裁失踪の謎!手塚治虫が描きたかったこととは?」 手塚治虫全巻チャンネル【某】
昭和の代表的な未解決事件「下山事件」に巨匠がメスを入れる。
下山事件は本記事に詳解されるように、時の国鉄総裁が謎の死を遂げた事件。当初は自殺とされたものが、不可解の証拠が数多く上がり、他殺、そして何らかの組織による謀殺ではないかと言われております。
当時の日本はGHQの統治下にあり、世界は米ソの冷戦前夜。
労働者革命によって国家解体を目指す社会主義者たちの叛乱阻止に戦前の日本皇国も、戦後のGHQも苦慮しておりました。戦前の日本であれば、社会主義は思想犯罪。特別高等警察により社会主義者を拷問、獄殺という超法規的対応をしてきたところ、戦後のGHQは思想の自由を保障しているので表立って社会主義者を弾圧できません。しかしソ連中国の社会主義思想は着実に日本国民に浸透していきます。
GHQの財務政策のひとつに公務員削減がありました。その政策に則り日本国有鉄道、即ち国鉄は全国で10万人の国鉄職員の人員整理を発表していました。それに対して労働者たちは社会主義勢力と手を組み一致団結して不当解雇の撤回を求め、国鉄の労使関係は一触即発の緊張の中にありました。
その不穏の中で国鉄総裁が謀殺。
これは一見すれば、国鉄の人員整理に反対する社会主義の過激派が報復のために国鉄総裁を襲撃し、拷問の末に残虐死させた、と推察できます。
しかし。世間の多くがそのように考える中で、全く逆の推理をする者もありました。
この事件を契機に反共政策はより強化され、GHQ政策は国民の支持を受けました。結果として最も得をしたのは日本の反共化に成功したGHQ。
つまり、社会主義者が狂気の集団である事を印象付けて、国民の反共精神を促進させようとGHQが企んだ謀殺だったのでは、と陰謀論的推理も登場しました。
事実は現在においても分かっておりません。
これが事件のあらまし。
犯人グループは完全犯罪に成功したと言えましょう。
時として完全犯罪の犯人は、国家である事も有り得るのです。
ご興味持たれた方は是非本記事を。手塚治虫作品・奇子の紹介と共に下山事件に関係する写真や、謀殺を裏付ける数々の不審な証拠など、充実の情報で読み応えのある内容になっています。
09 小説「完全犯罪って、ありますよね」 くにん
くにんさんの持っている探偵シリーズです。
長くこの企画に参加していると、作品と作品が繋がりシリーズ化することがあります。探偵ものは作者の愛着が湧くのでシリーズ化されやすいかもしれません。どうですか?皆様もオリジナル探偵を作ってみては?
オリジナル探偵小説を書く時は、奇々怪々のテーマで(半ば義務化して)小説が書ける「眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー」がオススメですよ。
くにんさんの「魔法探偵シリーズ」
完全犯罪はあるのかないのか。
ヨシ、ヤルカ!
となったら人は誰しも完全犯罪を目指すもの。
しかし、完全犯罪は夢の産物。容易く行えるものではございません。
魔法探偵の事務所に現れた美女の「完全犯罪って、ありますよね?」との問いかけに名探偵は何と答えるでしょうか。
小説の中に入った小説を読まないと、本作品は理解できない構成になっています。マトリョーシカみたいですね?
マトリョーシカの第二の匣が完成したということは?第三第四の匣が今後続く事もあるかもしれない。
連続小説を書く時は、毎回奇々怪々のテーマで小説を書かされる「眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー」が……(割愛)
10 コラム「犯人や関係者らしき書き込みが5ch(2ch)に多くあったのに、語られることの少ない新宿歌舞伎町ディスコナンパ殺傷事件とかいう未解決事件…」 黄昏ちゃんねる note出張所
世の中の事件って深入りすると怖いですよね。人倫に悖る人間の狂気が宿っています。そのような狂気には触れたくないものですねえ。
黄昏ちゃんねるさんは、そのような狂気と不気味を発信するメディアです。
note出張所とあるように本体メディアもございます。
記事を紹介するのにコメントを入れてもご迷惑かと思って無断でリンクを貼っておりますが、「好き返」を頂きました。ありがとうございます。
黄昏ちゃんねるさんの中には怖い話が沢山ありますが、この度「完全犯罪」で拝借するのはこの話。
殺人事件の解決が困難を極めるのは殺された人が証言出来なくなるなるため。悲しい事に死人に口なしです。しかし、この事件は被害者のひとりが生きています。そして、犯人と特定される容疑者もいたようなのですが、事件が何故か解決しない。
恐ろしい。
世の中滅べば良いのに。人間社会の闇を見ると陰鬱と致しますねえ。
11 音楽「ツエコチ」 あじつ
人間社会の濃厚な闇を垣間見ながら、すっかり陰鬱としたところに、こんな音楽はいかがでしょう?
陰鬱の気分に更に輪をかける、宵闇のデスロック。
今まで読まれた闇深い記事の数々が沁々と刻印される事でしょう。
短い音楽ですが、冗長に語り過ぎない。衝動を語るのなら端的に。人間が死ぬ時は一瞬あれば足りるように、本曲の短さもまた残酷的です。
12 小説「恋愛犯罪」 孤月
孤月さんも初めての参加です。
今回のアンソロジーはカラスさんや常世田さん、千本松さんが紹介してくれていたので、初参加の方が集まりました。ご参加ありがとうございます。そして、企画をご紹介下さったカラスさん、常世田さん、千本松さんありがとうございました。
孤月さんが描かれたのは青春群像のメッカ、学校です。学校ってなんだっけ?子供たちを集めて一日じっとさせているところ?日本には村の子供たちを一箇所に閉じ込めるそんな奇妙な風習があったように思います。
その学校の中では日夜、恋愛という名の闘争が繰り広げられていたように思います。報復に次ぐ報復。復讐の血の惨劇。もし私が人類を支配する巨大なキノコになったら男女の恋愛は禁止します。人類は目隠しして生きるべきです。リア充は××しろ!
突然ですが、リア充を××するかのように消える少年。
https://youtube.com/shorts/_k8Zn-yK8h4?feature=share
少年が消える完全犯罪。
リア充は××!
わたしの戯言はさておき。(あだしごとはさておき)
孤月さんの小説は揺れ動く男心を描いております。
人の心は移ろいやすいですからね。
揺れ動き惑う事もまた純真の証拠。しかしそのような純真が、操作されて誘導されたものかもしれない。怖いですね。人間は怖い。わたしが人類を支配する巨大キノコだったなら…(割愛)
13 小説「ひとを呪わば」 闇夜のカラス
闇夜のカラスさんの小説です。
先程の孤月さんの小説も男女の愛憎劇でございましたが、人間はいくつになっても同じことを繰り返すものでございます。
大人になった分だけ業が深いですね。人間怖いです。都会も怖い。お外怖い。
小説を書く時に、「反対」のイメージを持ち込むと話が面白い方に広がる、というテクニックがありまして。
レジャー
とは楽しい雰囲気の言葉ですが
レジャー +ホラー
と反対の言葉を重ねると
13日の金曜日
のような名ホラーが生まれる訳です。
レジャー +ホラー=JAWS
女子(ロリータ)+ホラー=エクソシスト
夢+ホラー=エルム街の悪夢
物語の発想を練る時は上記の「+」の部分を「なのに」と読み替えるともっと分かりやすくなります。
レジャーなのにホラー
女子なのにホラー
夢なのにホラー
これだけ聞いただけでも、ちょっと面白そうですものね。物語には意外性が必要だ、と言うことですね。ギャップ萌えです。
今回、闇夜のカラスさんが用いたトポスはオフィス。アイテムは藁人形。やはり意外な組み合わせが成立していて、
オフィスレディなのに藁人形。
グッとくる設定です。藁人形が赤い紐でボンテージ的に括られているのもまたポイントが高いですね。嗜虐心をそそります。
皆さんもギャップ萌え、探してみてください。
14 エッセイ「わかっていても、とめられない」 常世田美穂
常世田さん、今回はエッセイです。常世田さんが「エッセイ」と呼んでいたのでジャンルを「エッセイ」にしましたが、この情緒的な表現は詩としても完成しています。これは優れた詩だ、と私は思います。語感も律動も情緒も良いですしね。
文芸にそもそもジャンルなど存在しない。自然を言葉の力で再構築しようとした時に、海の模倣が小説で、河川の模倣が詩であった、とそんな程度の差しかない。(個人の意見です)
だからこれがエッセイだとか詩だとか語ることにはあまり意味がない、のですが、それはさておきこの文章には叙情があります。
私も詩人のフラグメント的な何かではございますが、私の中にはこのような情動がない。だから言葉が衒学になる。わたしにないものを見るのは眩しいですね。
15 小説「マリー・セレスト号のしつらえ」 海亀湾館長
完全犯罪、という言葉にはミステリアスで不気味な、怪奇的風情があります。ミステリーはこの怪奇志向を強めるために、事件に超常現象的な仕掛けを施すことが多い。
人間の仕業と思えない事は人間の仕業ではない。人間の所業でなく、神や悪魔の所作であれば、人間の立法では裁けない、と完全犯罪の成立です。
理解の枠外を超えるとそのような幻術が発生しますね。
マリーセレスト号の話も後世の脚色によって怪談に仕立てられてしまったお話のようで、話の中に付け加えられた目くらましがいくつも散りばめられているそうです。
人の話など脚色ありき、ということですね。
芥川龍之介の「藪の中」はそれぞれの登場人物が罪の告白を致しますが、それが相互に矛盾をして、結局真相が分からない。この矛盾はそれぞれの証言者の虚偽から生じるものではなく、それぞれの証言者の自己劇化すなわちヒロイズムから生じている。人間はみな自分劇場の登場人物です。
舞台が異なれば、演出も解釈も異なるので真実は分からない。
二人の霊能者は同じ幽霊を見るか。
私たちが見るリンゴは同じ色をしているか。
わたしが蝶の夢を見るのか、蝶の見る夢がわたしなのか。
探偵が探す真実など何処にも無いものかもしれません。
16 小説「肉芽」朝見水葉
罪を犯しながら、その罪の責を問われない。その罰から免れる。これを完全犯罪と言うならば、そもそも生まれながらに人間は罪を犯して生きている。かといって生きることは刑法上罪を問われない。それなら我々はすべからく完全犯罪を目論む罪人かといえばそうでも無い。我々は正しく罪に対して贖罪している。
と、それに類する話がこの度のくにんさんの小説でも語られておりました。
不穏当に生きて業を深める人間ほど苦しんで生きる事になります。
周囲に馴染めず常に不愉快と共歩きせねばならなかったり、周囲から爪弾きされ孤独を余儀なくされたり。
苦しい生き方をする事になりますね。社会はよく出来たもので信賞必罰の自浄作用があります。
だから基本的に人間は平等な生き方をしており、不当に自分を蔑む必要はありません。
例えxxxxがいけ好かない下衆野郎だったとしても、xxxxは周囲から嫌われる事で既にその罪を贖い、赦されている。
などの話が決してこの話のテーマではないようにも思いますが、人間が生きながらに犯す罪とその贖罪、赦免について、朝見さんの人性の罪を罪に問わない優しい視点を感じました。
編集後記
編集後記です。
人世に疲れて遁世したい。何処か心安まる土地に行こう。そうだ田舎でスローライフだ。移住だ!
いざ行こう南馬宿村へ!
日本の何処かにあるという、日本一の完全犯罪村です。潜伏を検討されている方にはオススメです。
村人からの逆襲にはお気を付けください。
田舎は完全犯罪がよく似合います。
と、当月もお疲れ様でございます。
前回から企画が毎月締切だったものが隔月締切化しております。
しかし、私の場合。作品にかける時間は締切一週間前から!という持ち前のペースは崩れません。それまでの一ヶ月はじっとしていたり、手のひらを見ながら過ごしています。無為ですが平和です。
冒頭にも書きましたが、今回は参加作品が多く賑やかな回となりました。記念すべき50回が閑散とせずに良かったです。繰り返しとなりますが、企画を宣伝して下さる皆様、ありがとうございます。通りすがりの方も、馴染みの方も是非今後とも当企画をよろしくお願い致します。
当月もご参加の皆様、ご覧になった皆様、ありがとうございました。
山羊の郵便局
こちらはムラサキ8号(経理)が担当する山羊の郵便局です。
この度のアンソロジーに参加した作品にお手紙を書きませんか?
(山羊の郵便局参加方法)
この度のアンソロジーに参加した作品には「黒山羊派」「白山羊派」「青山羊派」といったハッシュタグが付いているものがあります。
山羊の郵便局は配達員の山羊が3匹おりまして、各作品のハッシュタグに従った配達員を選んでお手紙をご作成下さい。手紙は下記のフォームから作成できます。各ハッシュタグの特徴は下記をご参考ください。
黒山羊派…小説技術が向上したい方向けの郵便局。自分の作品に足りないものが見つかるかも!
青山羊派…常識には囚われないカルト作品を書きたい方のための郵便局。あなたの作品はもっと超越できる!
白山羊派…穏健派のあなたにオススメ。平和の象徴白山羊郵便局。小説を書く楽しみを味わいたい方はこちら!
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次回テーマのアンケート
NEMURENU51th「眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー(作品応募の締切は10月末日)」のテーマはアンケートで決定されます。アンケートの回答締切は9月15日18時まで。
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アンケートの結果、一位が複数ある場合は主宰ムラサキ1号の恣意で決定されます。
次々回テーマ候補も募集中
好きなテーマは何度でも!
眠れぬ夜の奇妙なアンソロジーのテーマ決定アンケートの候補は皆様からの公募で集めております。どなた様でもお気軽にご投稿ください。
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朝な夕な涼しくなりました。お風邪をひかれませんようご自愛ください。