現代詩「どぜうと宿酔」

宿酔の折
会社に行こうと
家を出たものの
眩暈で動けなくなり
途次に落ち着く処を見つけて
昼まで寝た
仕事はさておき滔々と眠った
これでは不可ないと
会社に向かったけれど
やっぱり
嘔気で動けなくなって
再び寝た
その間
とにかく水を飲んだ
そうして
夢を見た

初夏の夕方に僕は縁側に腰掛けて桶の中のどじょうを見ていた。
其処に姐さんがやって来て、このどじょうはちょっと長過ぎるようだから切ろうと言った。成程、見れば確かに長過ぎる。姐さんは鋏を入れてぱちぱちとどじょうを切った。
切られたどじょうは3匹に増えて水の中を泳いだ。長さは良くなったが、どじょうたちは髭やら鰭やら無くしてしまったので上手に泳げない。桶の底に口吻を刺して水流に身を任せて揺れている。どじょうの白い腹が見えて、僕は浴衣から覗いた姐さんの太腿を思い出した。
翌朝になって。
何ンにもない田舎の畦道を歩くと土手の上を汽車が走った。汽車の乗客たちが手を振った。僕も帽子を振って応えた。

起きた
宿酔は快復したが
僕は尊い勤労が
宿酔によって投擲された事に
嫌気がさして
昏い怒りも湧いて
不貞寝をした

仕事に行くのも嫌
家に帰るのも嫌
繁華街に向かうのも嫌

この街の漁港
水族館
干物工場

何もかもが嫌
ただ
空だけが

(現代詩「どぜうと宿酔」村崎懐炉)

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