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眠れぬ夜の奇妙なコメント師【うどん】

はじめに

NEMURENU41th【UDON】に寄せられたコメント集。
「眠れぬ夜の奇妙なコメント師」
まずは略儀ながら、コメント師の皆様に御礼を。
熱いコメント、いつも大変面白く拝読しております。
思いがつづられるって良いものですね。
本文に序文、末文を加えて本記事は完成いたしますが、そのような私の雑文は良いから早くコメントを読ませろ!との声が聞こえてきますので
雑文は後回しにして記事を公開しております。
コメント師の皆様による熱いコメントをお楽しみください。

熱湯に饂飩が茹だります。

それはそれとして。
うどんと云えば…

資さんうどんとspringinのコラボ企画。
「幸せとうどん」ゲームを作ろう!
Springinは小学生向けのゲームプログラミングアプリですが、難しいプログラム言語を知らずとも感覚的にゲームが作れます。今回のうどんゲームの年齢制限はありません!
大人も子供もspringinで楽しもう!

すけさんうどんは北九州のソウルフードです。


スプリンギンはnoteにもアカウントがあります!
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眠れぬ夜の奇妙なコメント師とは・・・

「偏れ!」
愛は独善。愛は独断。愛に理論も方法論もない。理屈抜き大いに語れ。愛に日和見など無い!
(批判はだめです。)

それでは今月の眠れぬ夜の奇妙なコメント師、暗夜のエンターテイナーをお楽しみください!



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夏目坂出水 さん

コメント師プロフィール
終わりの見えない思秋期をエンジョイしています。
最近の楽しみは、YouTubeで友近さんの「黒蛙の美女」をみること。

日頃からうどんは脳幹に響く官能がある、と思っておりましたが、それが間違いではなかったのだと強く頷いております。

03 「窓に立つ足」海亀湾館長さん
エロティシズムもありながら、読後はほのかに切なくじんわりさせられる作品でした。「俺は変態だ、変態だーっ!」を「ちょっとかわいいかも」とすら思ってしまう、絶妙なフェチシズムの描かれ方が素晴らしかったです。
また、最後が良いです!「柔らかくなった冷凍うどん、土手で見る月と金星、太腿(リプライズ)、賞味期限の切れた卵は固茹で。」過去と今をあやとりしているような感覚がたまりませんでした。

04 「Go to hell.」闇夜のカラスさん
闇夜のカラスさんの作品は、スピード感があって映像が明確に浮かんでくるので、読んでいて本当に気持ちいい!心地いい!です。
個人的にBLには「哀」があってほしい、と常日頃思っています。この作品でも、「うどん」からの「うさぎ」、「うさぎ」=寂しさ、寂しさだけで繋がることの葛藤=哀、と痛いところを突かれて、ふつふつと喜んでしまいました。最後の釜揚げ展開も、うどん感があってよかったです。ごちそうさまでした!

12 「ひとだま饂飩」ムラサキさん
脳内で柳瀬茂氏の画で完全再現されたこの作品。好きすぎました……。色!艶!妖!奇!全部練り込まれていて、構成も文体もかっこよすぎても、もうヤダ、みたいな気持ちです。「饂飩」の世界で、茜子が叫ぶ「おうどん…ッ…!」からの食シーンが、ことさら官能的でした。(うどんに「お」がつくと、さらに艶めかしいですねッ!)最高の一玉、堪能しました。できればおかわりください!



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ナルハヤでシクヨロ さん

コメント師プロフィール
24時間働くことが可能な企業戦士と周囲には思われているが、職場に誰かが残っていると自分が先に帰ることができないという豆腐メンタリティを持っているに過ぎない。

今回は「うどん」という誰もが親しんだことのあるテーマ。シンプルな素材だけに、作者がそれをどう調理し何をトッピングしたかが、各作品に如実に現れていたと思う。
 ここでは、アンソロジを読み終えて特に印象に残った三編を挙げたい。

  「白い糸」(理柚 氏)
「うどん」という素材を単なる小道具として用いるのでなく、調理法を工夫して新たな一品料理として提出された本作。雑味がなく清んだ味わいに気持ちの良い時間が過ごせた。
  「正義の消費者」(民話ブログ 氏)
 こちらは、「うどん」そのものを題材として話を膨らませていくと読者に思わせておいて、実はフードコートにある「うどん」屋を舞台にして活劇が展開していく作品。面白愉快な筋を旨いうどんをすするように読み進めていくと、出汁のようにその旨さを陰で支えるテーマがあったことが最後に示される。本作は単なるドタバタコメディではない。
  「うどん狂い、うどん屋へ行く」(絵な子 氏)
 本作は「うどん」という素材を発展させたものでなくて、あえて言えば、うどんとアイスクリームやパンを取り替えても成り立つものとも思える。しかし、最後の「皆でうどんをすする」場面が読者の気持ちをあったかくさせる力を持つのは、やはり素材が「うどん」だからではないだろうか。「うどん」の持つ力を改めて感じさせられた。



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ゴテンマリシティ さん

コメント師プロフィール
小説作品にコメントを寄せることが多い
『アクシデンタル・ツーリスト』をまだ読んでいる
アン・タイラーを読み終えたら『黒い時計の旅』(エリクソン)か『イラクサ』(マンロー)に取りかかりたい(読みかけなので)
最近のお気に入り:ブラックサンダーミニバー・ガトーショコラ

 理柚さんの詩で始まりノートさんの音楽でページが閉じられる、美しくも贅沢な今回のうどんアンソロジー。
新しく参加して下さった紅茶と蜂蜜さんのSFも加わり、「うどん」がこんなにも多彩な世界を表現できるテーマだったなんて事前に予想できませんでした。
アンソロジー参加の皆様の底力を見たような思いです。
独断で三作品を選ばせて頂きましたが、自分はそれぞれの作品にあるコメント欄での感想に全力を出し切った感があって、この合評で何か書けるか不安です、間違って理解しているようでしたらお許し下さい。

 最初にあげたい作品は、

14  「麺女録」虎馬鹿子さん

 虎馬さんの短編小説は、昨年十二月の『湯島地下』以来でしたので、読む前から胸が躍りました。超絶技巧の掌編小説とはまた違う形で昇華した、言葉の結晶を見ることができるからです。
 この作品の舞台は、比較的裕福な中流階級が集中している住宅地、というイメージを持ちました。主人公の男性は、自分の奥さんがマルチ商法の商品を購入し、販売の活動までしていることをあまり面白くは思っていません。はじめは反発しますが、ご近所付き合い、相談相手のいない孤独感、家族の健康を願う気持ちなど、そういった奥さんの本心を知るにつれて、次第に折れていきます。
 前半のこの部分は流れるような語り口の中に夫婦や子供を取り巻く状況や内面の変化をバランス良く抽出していて読ませます。男性が不審に思い、非難するのは、マルチをしている奥さんのことではなく、その連鎖販売を支えている仕組み、システムの方でしょう。男性の感覚には、それらは普通ではないという意識があります。通常のマーケットでは流通せず、特定のネットワークを介して流通するのがマルチの商品です。そのネットワークに入ることは、同時にアップとダウンの関係によるヒエラルキーに組み込まれることを意味します。そこにあるのは、システムによって狂信の状態を作るいかがわしさ。その類のものを警戒する男性の感覚は、うどん屋で見た仏教系新興宗教のカレンダーを見て反応したことでも明らかでしょう。
 しかし、現状、目の前にいる家族は健康で幸福そのもの。そのことから、男性は自分の従来の考えに折り合いを付けていきます。最初に出てくる「浄水器」は象徴的です。綺麗で美味しい水は幸せを呼ぶ健康の源であり、汚れや毒を洗い流す洗浄の役割を果たします。男性はマルチの商品で健康になったことで、言うなれば、毒気を抜かれてしまったわけです。

 この前半だけでも面白いのですが、本作の真骨頂は『亀八』の二階でした。
 うどん屋の「亀八」で男性は、偶然にも顔見知りの美人の奥さんと入店のタイミングが重なります。すぐ後に入ってきた美人の奥さんが、ふわりと男性にもたれかかってから離れます。この動作は意識的でしょう。最初に読んだときは気付きませんでしたが、このあとの展開を思えばなかなかの手管を弄する女性に見えてきます。この女性は、男性が月に一度決まって「亀八」に訪れることを知っていて、偶然を装った可能性もあります。
 店主の奥さんもすっかり承知しているのか、いつもの「野菜天」という、暗黙の符牒を使って、美人の奥さんの真意を確かめます。これも最初に読んだときは気付きませんでしたが、作者の虎馬さんがコメント欄に残して下さった言葉からヒントを頂き、なるほど、そういうことかと「蕎麦屋の二階」の色っぽい急展開に深く納得しました。
 二階へ通じる細い階段を女性が先に上がっていくシチュエーションでは、美人の奥さんが身を包むワンピースは透け感があり、その色はバーガンディーという完璧なものです。ただでさえ白い肌がより綺麗に映えると思われ、並の男性であれば後ろにいて心拍数が上がらない方がおかしい状況です。
 これを皮切りに、後半は圧巻の描写が目白押しになります。
 少し前のところで、うどんの麺には「男麺」と「女麺」があり、亀八の麺は「女麺」に違いないと男性は感想を残していますが、まさにうどん屋の二階では、うどんと裸身が渾然となります。虎馬さんの筆は、うどんを語る言葉で女体を描写し、女体を語る言葉でうどんを描写します。私はこの場面を読みながらうおおおっと声を上げてしまうほどその筆致と表現力に興奮しました。

 うどん屋(蕎麦屋)の二階には竜宮城があった……おそらくそこは、おかしなヒエラルキーもなく、資本主義も介在しない、独立した夢のような空間……そんな白昼夢をうどんの湯気の奥に透かし見たような読後感です。素晴らしい作品でした。長く余韻が続いています。

12 「ひとだま饂飩」ムラサキさん

 作品のコメント欄に感想を書かせて頂き、そこで全力を出し切った感があったのですが、作者のムラサキさんが、同じく作品のコメント欄にoui-nさんへの返信として(楳図かずお漫画作品の独特なコマ割りを、小説で再現しようとしておりました……)と書いていらしたのを拝見し、この小説の第二景の場面に思い至って、あッ、と声を上げてしまいました。たしかに、それを念頭に再読してみると、楳図かずおの漫画のエッセンスが随所に再現されています。大牟婁勘太郎少年の悲鳴や感嘆符付きの台詞が、頭の中で楳図作品として聞こえました。こんな仕掛けがあったなんて!
 実は、子供の頃から私は楳図作品が大好きで読んでいました。『猫目小僧』『おろち』『漂流教室』『恐怖』『のろいの館』などなど。なので、楳図漫画の雰囲気は、即座に頭に思い浮かべることができます。コマ割りの再現と聞いたときは、この作品の第二景がすっと降りてきました。楳図漫画と印象が重なるとしたらこの場面以外ないと思ったからです。
 第二景を読んでいて、御斎美津子が屋根伝いに部屋に入ってくるところ、「ホホ…ホホ…ホホッ…!」と哄笑するところなど、目に浮かびます。窓を越えてきた御斎美津子は、きっと楳図かずおがよく描くあの白いソックスを履いているであろうことも想像できました。擬音も、震えるときは「ガタガタ」ですし、風は「ゴオオオ」と吹くんです。JKが叫ぶときの吹き出しの文字は、きっとヒビが割れていたり、無数の毛が生えていたりするのでしょう。まさに眼前に蘇る楳図ワールド。参りました。
(余談ですが、楳図かずおの漫画ってペンのタッチや絵柄に差がある作品が混在していますよね、前から気になっていました。ちなみに私は、髪の毛を一本一本緻密に描く『おろち』の頃のような絵柄が気に入っています)

 また、魂魄で作る「饂飩」など、普通は絶対に食べたくないわけですが、ムラサキさんの筆力で捏ねられ、その得も言われぬコシの強さを思うと、本当に美味しそうで困りました。

06 「思い込んだら命懸け」くにんさん

 主人公の親しみやすい饒舌な語り口により、すんなりとストーリーに入っていけるというのが最初の印象です。若いのに目標を持って、懸命に開店の準備に勤しむひたむきな主人公に好感がもてます。また、ほんのりと、はすっぱなしゃべり方も、若い職人という感じがして魅力です。この人物造形は作者の計算のうちだと感じます。
 ピザ屋を始める主人公は、石窯の部材に使った石に不安を感じており、読者も「何かやらかしてるぞ」と一緒に心配してしまうところがあります。この気懸かりなポイントが物語へと誘い込む「引き」になりますが、この小説は、さらに強い「引き」を用意していました。幽霊です。
「平家の落ち武者の隠れ里」という伝説がある土地が舞台ですので、落ち武者の幽霊の登場は期待されたものでしたが、刀を構えてビジュアルは怖いのに、腹を空かせて襲いかかってこられないところにこの作品のユーモアがあります。主人公が食べる仕草をして見せると落ち武者が首を縦に振るところは笑いました。幽霊と空腹。緊張と緩和をこういう形で衝突させて、ユーモアを醸成させる巧さがここにあります。
 空腹なくせに、選り好みが激しい落ち武者の幽霊。自分のお店に毎晩出てこられても困るからと、成仏を願い、幽霊の好みを探っていくピザ屋の主人公。両者の意思疎通の成功を見守る展開となり、小説の面白さが跳ね上がります。「引き」を用意した分、後半には物語の「押し」が始まります。最後のひと押しは、ガツンと来る気持ちのいいオチ。見事でした。

 作品の中で、この世のものではない存在を扱うくにんさんの筆には、優しさがあります。完成した作品に上品さが漂うのもそういう理由でしょうか。これらは作者の持ち味であり、尽きない魅力の源泉となっている気がします。



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饂飩子票 さん

コメント師プロフィール
お花をたいせつに

「白い糸」理柚さん

赤い糸ならぬ、白い糸。
赤い糸って、目立つけれど切れやすそうかも。
人には、赤い糸でつながった相手もいるけれど、白い糸でつながった相手もいるのではないか。
赤い糸よりも、白い糸でつながった相手と伴侶となった方が幸せになれそう。
……などと想像がふくらみました。
官能的な作品が多く集まったNEMURENU41th【うどん】ですが、「白い糸」も色っぽかったです。

「女王様の心得」りりかるさん

スピリチュアルをかじったことがある方が読めば、一見そうと思えるようで、なんか収まりきらないというか、なんか違うというか。
ばっちりスピリチュアル界隈に属する人々から見れば、おそらくは異端の小説と思われます。
スピリチュアルに依存してしまったら本末転倒のはずなのに、傍からは依存にしか見えないそれはどうなの?と時々思わずにはいられない私は、惹かれるものがたくさんありました。
海外の児童文学で見かけたような「賛美」があるとも感じました。

「うどん」ノートさん

アンソロジーの〆に、ノートさんの「うどん」!!さいこー!!
しみじみとご馳走様です。
まだまだ死にそうにない私ですが、十年後、二十年後にまた聞きたいと思いました。


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亡骸三太夫 さん

コメント師プロフィール
漢中天坑群に月兎と一緒に暮らしている。主食は煎餅。好きな芸能人は羅生門綱五郎。
関節が弱い。最近血液が緑色になる。
好きな言葉は「鯨骨生物群集」

赤い色が特徴的な即席麵の「きつねうどん」が好きだった。あれは独特の風味があって旨い。あのような代物を自分で作ろうとしても上手にいかない。麺を乾燥させるのにフライ製法を使っているのだろうか。うどん麺に油が染みている。乾燥粉で作るスウプは化学調味料の過激な旨味と甘み塩味が均衡する。粗雑で不健康の味だ。不健康、不道徳には人間を堕落させる旨さがある。その旨さの中に、これまた人口加工的な油揚げが浮いている。この人口加工の油揚げは長年干していない煎餅布団の如きものしっとりと湿っている寝汗の綿だ。やはり不健康で自堕落の味がする。つまり怠惰だ。失楽園だ。淪落の味が3分で出来上がる。煙突から黒煙が濛々と上る大資本の工業都市が、労働者を搾取しながら作りうる悪魔の所業。ところが。僕は斯様に悪魔の味を礼賛しながら、いつの頃からか悪魔の味では満足できなくなってしまった。舌が肥えたわけでもない。健康教に入信したわけでもない。旨い旨いとすっかり即席うどんを食べ続け、在りし日のあの舌上の蕩けるような甘美の体験は今も心の裡に残っている。食べずとも神経が感受する刺激を脳髄は再現できる。要するに飽いたのだ。飽食である。林檎の味を知らぬまま、其れに恋い焦がれる事が楽園であった。既に知って仕舞った。脳髄が覚えて仕舞った。味は覚えているが、驚倒を忘れた。鮮烈を忘れた。感動を失って仕舞った。壱百円、三分間の楽園から失楽したのだ。渇している。飽食して膨らんだ腹が満たされず、楽園を探して迷子になる。

一か月をうどんのことばかり考えて過ごし、寝ても覚めても悩ましくうどん。
生涯で最もうどんに肉薄した月間であったことは間違いない。
かといって、生涯で最も旨いうどんを食べた月であるかと言えば、残念ながらそうでもない。
うどんはよく茹でた。三玉で壱百円の讃岐風うどんである。三玉を鍋で茹でると吹き零れるので難儀していたら、フライパンで茹でれば吹き零れないと教わった。成程、確かに。些細な事だが大きな知恵だ。

この度のアンソロジーに集まった作品は、十五玉。どのような大鍋で茹でてもふきこぼれるようなボリュームで、脳髄が煮え立つような驚倒を以てアンソロジーを賞味した。うどんと云えばユーモアと官能。いづれの基準で選ぼうかと迷ったが、本日思い出した饂飩が壱百円の即席麺であったので今回は優れたユーモアを発揮した作品を選びたいと思う。

海亀湾館長さん「窓に立つ足」
ユーモアや官能とは日常からの逸脱であって、有りうべからざる事柄が起こりうる事であるが、壮大の逸脱が説得力を持って実現することに小説の面白さがある。
本小説の主人公の行動や遭遇した事件は常道から逸している。私は河原で「俺は変態だ」と叫んだ事はないし、今後においてもその予定はない。狂気の行為に違いないが、この小説には主人公がそのようにせざるを得ない説得力がある。
狂気が深まるほど、説得力が整合することは難くなる。理解できない狂気を奇抜に読むことも面白いが、狂気を常識によって乗りこなし理解に導かれることには感動を覚える。
海亀湾さんの小説が巧緻であることはいつもの事ながら、今回の小説の描いた狂気的なユーモアには大いに笑った。フェティシズムとは当人にとっては人生を左右する大問題であるが、他人にとっては理解不能の律法であって、そうした不条理に翻弄される人間像が失敬で不謹慎ながら愉快であった。驚倒感嘆の名作であったと思う。

朝見水葉さん「うろんな二人」
大真面目に徹するしかない場面というものが幾つかあって、そうした場面に場違いの気抜けの出来事にユーモアが生まれる。
朝見さんの小説には根底に悲哀があって、登場人物の多くが不遇を抱えている、ように見える。そうした登場人物がこの度は探偵であって、気抜けてうどんを食している。世界観と探偵とうどんが場違いを起こしていて、不整合。だが、その不整合が巫戯けることなく難なく成立している。そのような全編が読んでいて愉快であった。

民話ブログさん「正義の消費者」
最近、森鴎外が日本語訳したオシップ・ディモフの「襟」という小作品を読んだ。襟を買ったばかりに主人公が窮地に陥る。理不尽で不条理。二十マルクの損失から始まって当人の不幸は自らの命で贖うまでに拡大する。運命に翻弄される人が不幸であればあるほど、そこにユーモアが生じる。不謹慎ながら。
そうした不条理はユーモアであると同時に恐怖である。ユーモアと恐怖が均衡するような緊張のある作品が好きだ。民話ブログさんのこの作品は正義の行使について民衆の支持が逆転することに理不尽がある。その理不尽がそんな馬鹿なとユーモアを誘い、その有りうべからざる事柄が、現実において行われているだろうことに恐怖を感じる。正義と非道が気まぐれに覆る。それは我々の暮らす日常社会に於いても、また。決して笑ってはいられない。何故ならこの梯子を外された人物は我々自身の姿でもあるから。そうした恐怖に対してもまた不謹慎で場違いの笑いを浮かべずにおれない。

ユーモアの観点から三作品。
もっと多くの作品を選びたいが、季節と気圧とその他諸般の事情でやむを得ず。


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眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー次回テーマ公開中

こちらの記事で発表??しています。


次々回テーマ候補を募集しています。

次々回テーマの候補を募集中です
次回テーマの投票の候補も公募にて募集しています。次次回(2021年12月号)のテーマの候補をご応募下さい。以前採用されたテーマでも応募可能です。お好きなテーマは何度でも。一度落ちても何度も応募すれば採用されるかも。


皆様に愛を!
眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー「NEMURENU」は毎月開催中。ご参加はお気軽に!

#ネムキリスペクト #NEMURENU #springin #資さんうどん