没ネタ祭「習作 鳥の巣」
エイモス・チュツオーラ、心の師父に。
アンデルセン(パン屋)のメルヘン大賞に応募するため、「メルヘン」をめぐって脳内トリップ中である。
蜘蛛の巣と埃だらけの脳内で僕は懐かしくエイモス・チュツオーラ師に出会った。師はナイジェリアの小説家で奇異な幻想文学を数点残した。その内容の奇異さ故に世界中に根強いファンがいる(に違いない)。
さて、この度のアンデルセン(パン屋)のメルヘン大賞は募集要項を読み解くにあたり、「民話、神話」のような民間伝承よりも「童話」形式の短編小説の募集に思われる。
それも美味しいパンに似合う童話でなければならない。
つまり、脳内で出会ったのがエイモス・チュツオーラ師ではいけない。師の作風は美味しいパンには少しく似合わない。彼の影響下で書かれた小説もやはり美味しいパンに似合わない。
パン小説の為に脳内でエイモス・チュツオーラ師に出会ってはいけなかった。
かと言ってそれが小川未明氏でもいけない。グリム氏でもいけない。出会うべきは明快にアンデルセン氏でなければいけない。「アンデルセン、アンデルセン」と名前を呼びながら、僕は相変わらずのスランプの海にいる。
果たして僕の心のうちにアンデルセン氏はいるだろうか。
そのような訳で本作は完成することもなく没集に晒して供養とします。この未完の作品を心の師父エイモス・チュツオーラ氏に捧げる。
ある日、干ばつが起こり、鳥という鳥が一羽もいなくなってしまった。
男の子が鳥の巣箱を作って樹の上に置いたが、その中に住む鳥はついに現れなかった。
だから男の子は手のひらを唇に当てて鳩の鳴き真似をするのであった。
鳩の鳴き真似をすると本当に鳩が来ると男の子は思っていたが、ついに鳩は現れなかった。
男の子はカンカンに腹を立てて、天に呪詛を吐いた。そしてとうとう外に出たまま帰らなかった。
置き去りにされた影の中から鳴き声が一つ聞こえた気がするけれど其れはおじいさんの気の所為です。
お爺さんは毎日鳥の巣箱を作っていた。
たくさん作られた巣箱に囲まれてお爺さんは眠る。
お爺さんが巣箱の中を覗いても、男の子はいない。
空っぽの巣箱から鳥の声が聴こえた気がするが、
でもそれはおじいさんの気の所為です。
お祖母さんは揺り椅子に座って居眠りしながら編み物をしていた。
ゆらりゆらりとお祖母さんは居眠りした。
古ぼけて色褪せた夢を見ていた。
お爺さんが振り返ると其処には誰もいない。
ただ揺り椅子が揺れている。
ゆらりゆらり。
「お婆さん」とお爺さんは呼んでみた。
お婆さんは返事をせずに揺れている。
ゆらりゆらり。
お婆さんだと思ったものは揺り椅子の上に残された小さな手袋です。
ゆらりゆらり。
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時計が鳴ってお爺さんは驚いていた。
いつの間にかお昼の時間であった。
おじいさんは茹でたジャガイモを磨り潰して塩と胡椒で味付けして生乳を加え、その中に焼いた干し肉と賽ノ目切りの茹で人参、緑豆を加えたサラダを食べる。
猫が鳴いたので半分は猫にあげる。
残っていた最後の葡萄酒を飲む。
お爺さんは赤ら顔になって夕日を見つめた。
昨日よりも今日、お爺さんは若返った気がした。その次の日にはもっと若返る。
日に日に若返った気がしてお爺さんはとうとう青年になったので旅に出ることにした。
猫が言った。
「やめておきなよ」
お爺さんが言った。
「探しているものがあるんだよ」
猫が言った。
「何を探しているんだい」
おじいさんは言った。
「鳥だよ」
猫は言った。
「嘘つき」
お爺さんはてくてく歩くと
工場に着いた。
廃油が川に流れて川は真っ黒になっていた。
一匹の魚が浮かんで、呼吸しようと喘いだ。
「真っ黒だ、真っ黒だ」と魚は言った。
「もしか、あなたがこの工場を停めてくれたらいい事を教えてあげますよ」
と魚は言った。
「いい事ってなんだい?」
「美味しい魚の餌の作り方です。」
「どうやって作るんだい?」
「トウモロコシの挽き粉と海老の卵を混ぜるのです。」
「そうか。」
「そうです。」
「他に何か教えてくれることはあるかい?」
「もう教えられることはありません。」
「そうか。」
「そうです。」
お爺さんは工場の中に入った。
工場の中では歯車職人たちが忙しそうに働いていた。
「真っ黒だ、真っ黒だ」
と歯車職人たちは言った。
「朝から晩まで歯車を回さなければならないんだ」
そこでおじいさんは言った。
「もしか、工場を止めても良いだろうか」
歯車職人たちが言った。
「そんなことをされたら大変だ」
歯車職人たちは怒ってお爺さんを歯車に縛り付けて川に流してしまった。
歯車に乗せられてお爺さんは中流の砂州に着いた。
しかし、頑丈に縛られたので動けずにいると未亡人に声を掛けられた。
「助けて下さい」とお爺さんは言った。
「この先の工場に言って機械を止めてくれたら良いことを教えてあげますよ」
そう言われた未亡人は川を遡って工場に着いた。
工場では沢山の歯車職人たちが働いていた。
「もしかこの工場を停めたなら」と未亡人は言った。
「冗談じゃない」と歯車職人たちは言った。
そして未亡人を歯車に縛り付けて川に流してしまった。
未亡人には娘がいたので、今度は娘が工場に行く番だった。
娘は工場に着いたが中に入ることができずに川岸で泣いていた。
「もしお嬢さんどうしたのですか」と魚が言った。
「あたしは工場を停めなければならないの。でもきっとできないわ。そしてあたしも川に流されてしまうわ。」
魚は言った。
「私を褒めることはできますか?」
娘は言った。
「鱗がキレイだわ」
そこで魚は言った。
「お嬢さんよくお聞きなさい。歯車職人たちは午後になると椰子の木陰で午睡をするのです。その時まで待てば、あなたでも工場を停めることができますよ。」
娘が木陰で待っていると、午後になって歯車職人たちがぞろぞろ外に出てきてぐうぐう寝だした。
だが娘は待ちくたびれて寝てしまっていたので、結局工場を止めることはできなかった。
午睡が終わると歯車職人たちは再び工場に戻って言った。
娘はそれから目を覚ましてしくしくと泣き出した。
「馬鹿な娘さん」と魚が再び顔を出した。
「工場から廃油が流れて僕はそろそろ生き難いよ。」
娘は言った。
「眠くなってしまったの。どうしたら良いのかしら。」
魚は言った。
「もしあなたに魔法が使えるなら煙突から工場に入ってご覧なさい。」
娘は魔法を使って煙突から工場に入ってみた。
天井裏から娘が工場の中を覗くと、中に働く歯車職人たちは実は悪魔でした。
娘が鶏の声を真似て鳴くと悪魔たちは一目散に逃げていきました。誰もいなくなった工場の中を歩いていると、紡績機の中から誰かが呼んでいた。娘が機械の中に入ると、呼んでいたのは生糸であった。
「連れ出してくれ」と生糸は言った。
「いいわよ、神様の加護がある限り。」と娘は言った。
娘と生糸は一緒に外に出てみたが、外は夜になっていたので、何処に向かって良いか分からなかった。困っている娘に生糸が言った。
「私を空中に放ってみなさい」
娘が生糸を宙に放ると生糸は月になった。
「道を照らしてあげよう」
と生糸は言った。
娘が生糸に照らされて夜の道を歩くと一台のトラックが停まっていて、荷台いっぱいに花を積んでいた。娘は花を買おうと思ったが、花は全て腐っていた。
「この花を全て買いなさい」生糸が言った。
娘が運転手に花を買いたいと伝えると、運転手は花の持ち主がいなくなってしまったから売れないと答えた。
持ち主は誰か尋ねるとそれは娘の弟であった。娘は弟を探して歩かなければならなくなった。
カササギが羽を休めていたので娘は「弟を知りませんか」と尋ねた所、このカササギは弟の友達が悪い魔法使いによって姿を変えられてしまった姿であったことが分かったので娘はトラックの所有者である弟と弟の友人をカササギの姿に変えてしまった悪い魔法使いを探さなければなりませんでした。
「僕の姿は悪い魔法使いを見つけない限り元に戻らない」とカササギは言った。
娘はまた道を歩き出した。
「悪い魔法使いを探さなきゃあ、いけないわ」と娘は言った。
「わしはここにおるよ」と声がした。
驚いて娘が振り返ると自分の影が喋っていた。
「あなたはどなたですか」と娘が尋ねると
「わしは影だ」と悪い魔法使いが言った。
「いいえ、あなたは影ではないわ。影は喋らないもの」と娘が言うと
「そんなもんかな」と悪い魔法使いは答えた。
その時、雲から月が現れて娘を照らすと影がもう一つ増えた。
「そんなもんかな」と影は言った。
「神様に誓って」と娘は言った。
「喋らないわ」
影はまた分かれて言った。
「そんなもんかな」
影が幾つも分かれて娘の足元は影だらけになってしまったので、娘は足早に家に帰ることにした。
途中、道が2つに分かれた。
(習作「鳥の巣」村崎懐炉)