現代詩「納税/沼地の葬列」

按分された私が 生が
財務処理されている
納税 納税 また納税

削られて 欠けてゆく私

鷲掴まれて捩じけた胃袋が
ぼやいている
「痛い とても」
専ら今の私が喋られるのは
彼だけだ
胃袋氏に私は返事する
「そうですか」と

私達は深夜のソファに腰掛けて
親交を深める今宵も

昨日の私に比べて今日の私は
皮膚の切片を死に変えて
また一つ死ぬることを積み上げた
その欠損で
私はもう空腹を覚えない

神経が途切れて
空腹を覚えない
珈琲はブラックで

私の愛した
マーガリンパンの
呪わしきこと
チョコーレートドーナツの
みすぼらしきこと
食べることの
浅ましきこと

食べる代わりに納税するのだ
将来を喜捨して納税するのだ
拒食は皮膚を鱗に変えて
その切片を納めるのだ
そうして積み上げられた私の死が
市税課で換金されている

「痛い とても」
「そうですか」
友よ
君の痛みだけが確かなもので
私は君に救われている
私達は夜ごと罵倒と汚辱を交換する
君だけが
真摯に応えてくれる

「苦しい とても」

君だけが

-------------〈キリトリ〉-----------------

沼地の葬列

黒衣の人々は葬列の如き夢 にて
黙々と行進する
私は加わることが出来ない
言語を知らぬ 礼節を知らぬ

相貌失認して彼らの顔は区別がつかぬよ

池沼に霧が立ち込めるのだ
彼らが私の切片を奉戴しようとする時に
ああ ああ
伸ばすべき腕頸が ない

朝起きて私の眼球はガラス玉になっていた
私の脳髄は藁芝になっていた
納めてしまった
ああ 良かった
半壊

(現代詩「納税/沼地の葬列」村崎カイロ)

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蛇足。
ストレスで食欲減退して、拒食気味になって
いい機会だからダイエットでも始めようかな、という詩です。