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JungとMBTI : ~佐藤淳一とJPTS 2 各章の概要~

【概要】

心理学全般ではなく、狭義のJung心理学、即ち分析心理学における臨床実践を念頭に置いた一冊である。だが期待外れ。MBTIに対する誤解があるため、正しい批判ができていない。また綾紫が抱いていたE-Iに関する疑問も解消されていない。それ以外の断片的な疑問も含め、複数回に分けて指摘したい。

【はじめに】

GW・JTSについてはT-Fの信頼度が低い。MBTI from Mについては・・・定義や項目内容がJungの概念を充分に反映しているかどうか再検討の余地がある。SL-TDLについては、尺度の回答形式が対極性の想定に基づいておらず、因子妥当性が充分に確認されていない。

こうした不満こそ、"ユングのタイプ論に関する研究:こころの羅針盤としての現代的意義"(以下、「ユングのタイプ論」)

の著者である佐藤淳一が、新たにJungのタイプ論に基づく心理テストJPTSを開発するに至った理由である。

折しも綾紫はずっとJung≠MBTIという考え方を貫いている。それは

に記した通りだ。かいつまんでいえば、JungはE-Iの基準として、雑な言い方だが

  • 哲学や文学における流派の違い

  • 陽キャ vs 陰キャ

の2つを挙げていて、前者が主、後者が従だったのに対し、MBTIも含む心理学全般では後者のみが採用されている。冒頭に挙げたように佐藤淳一もMBTIはJungの概念を充分、反映していないと述べており、それは綾紫の疑問と同じかもしれない。そこで何かヒントが得られるかもしれない、という一縷の望みの元、「ユングのタイプ論」を購入した。本稿はその評論の第1弾である。

【章の構成と概要】

「ユングのタイプ論」の章立ては

序章 ユングとタイプ論
第1章 ユングのタイプ論に関する研究の展望と本書の構成
第2章 心理学的タイプの既存尺度の再検討と新たな尺度の作成
第3章 心理学的タイプと他のパーソナリティ特性との関連
第4章 心理学的タイプと投影反応、箱庭療法、描画作品との関連
第5章 心理療法家における心理学的タイプと心理療法の学派・技法のオリエンテーション
第6章 心理学的タイプの個性記述的アプローチ
第7章 共存性を考慮に入れた心理学的タイプ測定尺度(JPTS-C)の作成
第8章 まとめ
注釈
参考文献

となっている。

序章ではJungのタイプ論の概要と共に、それが成立するに至った経過を時系列的に紹介している。これを受け、第1章ではタイプ論を深堀すると共に、そこから派生した研究に触れている。E-I・S-N・T-Fの対極性(シーソーのような傾向)に対する疑義や、臨床心理学への応用に関する研究も紹介されている。von Franz

やMeier

の名前が登場するのもここである。また、既存の心理テストGW/JTS(Gray-Wheelwrights/Jungian Type Survey)・MBTI(Myers-Briggs Type Indicator)

それから上述の対極性への疑義を体現したSL-TDI(Singer-Loomis Type Development Inventory)も取り上げている。

第2・3章ではこうした既存の心理テストの問題点を契機として独自の心理テストJPTS(Jung Psychological Type Scale)を作成し、更に進んでKretschmerや5因子モデルなどとの比較も行っている。JPTSの作成手順は以下の通り。実はJPTSに先立ってJTQ(Jung Typology Questionnaire)と称する心理テストを作成していたが、S-N・T-Fの妥当性は不充分であった。そこで主にJungのタイプ論の第11章 定義を参考に項目を集め、臨床心理学の教員1名と協議して内容は表現の質の向上を図った。更に、Jung派分析家2名に内容妥当性の検討を依頼して項目を精選、その結果、E-I 21、S-N 26、T-F 27の項目対を得た。なおその前後の検証に於いて統計を駆使している点は「文系でも心理学と経済学をやるには数学は不可避」という箴言を彷彿とさせる。

第4・5・6章は臨床実践に関わる内容である。佐藤淳一の専門は臨床心理学・力動的心理療法なので面目躍如といった所、逆にいえば素人である綾紫には最も難解な部分でもある。と同時に、ここを深堀すればJungの「哲学や文学における流派の違い」につなげられるかもしれない、とも感じている。

さてここまで、E-I・S-N・T-Fでは一方が成り立てば他方は成り立たないような仮定を対極性と称し、進んで来た。これを疑ったのがSL-TDIだったが、第7章では佐藤淳一もJPTS-Cを開発、幾つかの結果と限界を得ている。さてタイトルにもある共存性とは

タイプ論ではパーソナリティの発展過程が進むと、優越機能を頼りとし、補助機能を助けとしつつ、その開発を通じて劣等機能を徐々に発展させて行く。このような過程を個性化の過程と呼び、心理療法場面に於いて人格発展の道筋として理解されている。そこでは結果的に外向的でもあれば内向的でもある、といったように両立しがたい一般的態度或いは心理機能同士が、高次のレベルで両立し得るようになる。こうした共存し難いことが共存し得る概念を、河合は、人格の「対極性」に対して「共存性」と呼んだ。

と解説されている。MBTIでは優越機能がE(I)なら補助機能はI(E)、と考えているため、一般的態度E-Iの両立は劣等機能の発展に比べ、遥かに容易である。このためちょっと大袈裟にも感じられるのだが、MBTIを参照しない純然たるJung派・の立場では、優越機能と補助機能はEであれ、Iであれ、同じ方向を向いていると見做されているのが、その理由だろうか。ついでだが、続ける。

・・・心の中で相反、対立し合う概念や性質のことを「対極性」、・・・共存し合うことを「共存性」とし、この「対極性」と「共存性」の両方の意味を備えることを「両義性」と呼ぶこととする。例えば外向と内向の間における「両義性」とは、外向と内向型が対立し合う「対極性」と・・・「共存性」が、外向と内向の間に同時に働くことを意味する。

「両義性」の解説である。このような迂遠で、分かったような分からないような話が長々と続くのがこの章である。

第8章はタイトル通りまとめである。

その後、注釈や参考文献が続く。合わせて94ページが費やされており、参考になりそうな情報も多く含まれている。

今日はここまでとする。



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