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JungとMBTI:先ずはMBTIとその類似品から

【はじめに】


最近、MBTIに似た心理解説/テストサイトが散見されるようになった。16Personalities

はその1つで、MBTIではない、と防戦するような主張もあるが、MBTIの成り立ちを考えると些事に過ぎない、寧ろMBTIと、MBTIが準拠しているとされるJungとの違いが遥かに大きい、というのが本稿の主張である。

【MBTI】


そもそもMBTIとは何だろうか。綾紫の理解では、建前上、Jungのタイプ論[1]

をI. B. Myersが心理テストとして纏め上げたのがMBTI

である。理論面では補助機能を重視した所、更にJungを丹念に読み込んで、補助機能は主機能とは違う側の世界を司る、即ち前者が外向的(内向的)ならば後者は内向的(外向的)とする仮説を呈示した所が大きい、と綾紫は考える。Jung派の分析家C. A. Meier (Myersと似た名前)

が同じ世界を向いている、と考えているのとは対照的である。まぁ、実はこれ、van der Hoop

の業績かもしれないのだが。実践面では心理テスト開発に留まらず、これを有資格者の元で実施し、最終的にはクライアントが説明を受けて納得したタイプを以て結論とする、という運用まで定めた点が特徴的である。

【MBTIの類似品:16Personalities】


前述のように最近、16Personalitiesという心理テストサイトが立ち上がっており、MBTIとの類似性から頻繁にネット上で言及されるようになっている。中身を見ると分析家・外交官・番人・探検家、という4タイプが16タイプに至る中間地点として掲げられており、この点はKeirsey

の影響を感じさせる。Keirseyは元々、「古来から提唱されて来た4気質、即ち多血質・胆汁質・憂鬱質・粘液質をMBTIの言葉で表現するとSP・NF・SJ・NTになる」と主張していた。これはソーシャル・スタイル

と対比すると疑わしい上、岡田斗司夫

まで絡めるともっとややこしい事態になるので深入りはしないが、それはともかくKeirseyは、既に示したPlease Understand Me IIでやっとMBTIからの乳離れを果たし、同じ用語を用いながらもそこそこ違うタイプ論に到達している。

横道にそれたが、16Personalitiesについて触れている記事がすぐ見つかるのがさすがにnoteである。2件、挙げるが、

どちらも16PersonalitiesはMBTIでない、と主張する(心の声:4気質の並び方が違う)。前者によれば例えばE/Iに関して引用すると、

●この質問項目は非常に分かりやすいと言えます。対人関係が広いとか,人と一緒にいるのが好きとか,そういう質問項目は16 Personalitiesの外向性に相当します。でも……もともとのMBTIの質問項目って,もっと意味が広い範囲を測定しているはずなのです。MBTIの理論的背景になっているユングがいう「外向性」も,広い範囲の内容を指しているのです。それに比べると,16 Personalitiesの外向性の質問項目は,人間関係の内容ばかりだという印象があります。むしろビッグファイブに近い内容です。
●しかし,16 Personalitiesの外向性(-内向性)の質問項目は,ビッグ・ファイブ・パーソナリティの質問項目の意味範囲よりも狭い範囲を測定している印象です。ビッグ・ファイブ・パーソナリティの外向性に含まれる,活発さや刺激希求性などの意味も16 Personalitiesの外向性では測定されていないようで,単に「人といるのが好きかどうか」という意味に狭められている印象があります。

等とある。Jungの提唱したE/Iが人間関係ばかりに関するものではない、これは後述するが確かにそうである。しかし「対人関係が広いとか、人と一緒にいるのが好きとか」であれば活発で刺激を追求する傾向も高い、と想像するのは自然な事でほとんどトートロジーと言っても過言ではないし(例外的人間は幾らでもいるが)、MBTIのE/Iの詳細について素人は知る由もないが、日本語版の開発段階に於ける研究

からは、結局Big Fiveとも余り変わらないと想像できる。なおBig Fiveとは性格を表現する膨大な言葉の分析から得られた、5次元的な特性論モデルである。16PersonalitiesではINTJ-A/INTJ-Tのように、末尾にMBTIにもKeirseyにもなかった-A・-Tが付いているが、これはBig Fiveに於ける神経質さの度合いを反映した記号である(Tがより神経質)。

●類型のつくり方はMBTIの名称を流用していますが,質問項目は全く違います。むしろ,質問項目の内容は,MBTIとは関係のない,ビッグ・ファイブ・パーソナリティに近いものとなっています。
●「ビッグ・ファイブ・パーソナリティ(の概念の一部)の質問項目を用いて,MBTI的な類型の名称を流用して人々を類型化する心理尺度」といったところではないでしょうか。
●いやどう考えても,これは絶対にMBTIではないですよ。

とする考え方、綾紫にとっては(MBTIでは有資格者の指導の下心理テストを受けて納得したタイプを選ぶとか)運用面まで含めればそうなるかもしれない、といった程度で、そのままでは首肯できない。

後者あどりみなるや日本MBTI協会

も「違う」という立場に立つ。あどりみなるによれば

●16personalities は、BIG5-BASICという心理学研究の中で最も支持されている「ビッグファイブ理論」に基づく性格診断なんです。
●一方、MBTIは、ユングぱいせんの生み出した「タイプ論」が元の理屈となって作られたメソッドです。
[中略]
●MBTIと16personalitiesは全くの別物なのです。

であるし、日本MBTI協会言葉を借りれば

●MBTIとは全く異なるものです。16Personalities testは特性論ベースの検査であり、MBTIの根本にあるユングの心理学的タイプ論とは無関係のBig Fiveという特性理論がベースになっている性格診断テスト・・・。

となっている。でも本当に「絶対に」「全く」異なるのか?

MBTIはJungのタイプ論の心理テスト化、と誰も疑わないが、綾紫は冒頭で「建前上」とワンクッション置いた。実はここがMBTIの盲点である。

【Jungに遡る】


冒頭でMBTIはMyersが「建前上」Jungのタイプ論を心理テスト化したもの、と述べた。何故わざわざ「建前上」なのか? Jungのタイプ論の章の構成は

I. The problem of types in ancient and medieval intellectual history.
II. On Schiller's ideas on the problem of types.
III. The Apollonian and the Dionysian.
IV. The type problem in the knowledge of human nature.
V. The type problem in poetry.
VI. The type problem in psychiatry.
VII. The problem of typical attitudes in aesthetics.
VIII. The type problem in modern philosophy.
IX. The type problem in biography.
X. General description of the types.
XI. Definitions.

となっていて、第1章から9章までがE/Iの発想の原点となった先行する類似例であり、Jungの広範な学識を示している。第10章はタイプ各論、第11章は用語の説明(定義)である。邦訳[2]もあり、そちらでは

第1章 古代及び中世の精神史に於けるタイプ問題
第2章 タイプ問題に関するシラーの理念について
第3章 アポロン的なものとディオニソス的なもの
第4章 人間観察に於けるタイプ問題
第5章 文学に見られるタイプ問題
第6章 精神病理学に於けるタイプの問題
第7章 美学に於けるタイプ毎の構えの問題
第8章 現代哲学に於けがるタイプの問題
第9章 伝記に於けるタイプの問題
第10章 タイプの一般的説明
第11章 定義

と訳されている。内容を雑にまとめると、第1・2・3・5・7・8章は哲学や文学に現れた流儀の違い、第4・6・9章は叱責覚悟でいえば陽キャ vs 陰キャであり、後のMBTIその他の心理モデルに継承されている視点でもある。仮に前者を認識論的視点、後者を日常語的視点と称するならば、章の数から考えて、Jungが認識論的視点を2:1で重視していた事は明らかである。にもかかわらずMBTI、まして16Personalitiesはそこに言及せず、専ら日常語的視点によるE/Iに終始している。だから冒頭「建前上」だったのだ。MBTIが自らを「Jungに基づく」と主張するのであれば、より重視していた認識論的視点を優先すべき所ではあるが、そうなっていない。従ってJungとMBTIの間の断層は山よりも高く、海よりも深く、これを前にするとMBTIと16Personalitiesの違いなんて色褪せたコップの中の嵐に過ぎない。

アスキーアートで表現するならば、Atsushi Oshioやあどりみなる、日本MBTI協会の考え方は

●Jung=MBTI≠16Personalities

であるのに対し、綾紫は

●Jung≠MBTI=16Personalities

と捉えている事となる。

もし気が向けば次回以降、Jungそのもののタイプ論の解説を追加する。また「MBTI、まして16Personalitiesは」という表現で気付いた人もいるかもしれないが、ここにKeirseyがないのも意図した事である。この点もJungとMBTIの間に横たわる断層に関わって来るので補足したい。

今日はここまで。

[1]Jung, Carl. Psychological Types (English Edition). Livraria Press. Kindle版.
[2]C.G.Jung著、林道義訳、タイプ論、みすず書房、1987。

追伸:MBTI日本語版に関する備忘録リンク


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