精霊の花火
コロコロぷぺぽと
朱い小さな火の玉が
軸を巻き込み登ってくる。
ちょっとした不安と
期待が入り交じった
曖昧な眼差しで凝視する。
ぐるぐると転ろげながら
ふつふつと
ぷくぷくぷんぷん渦を巻く。
襟足の後れ髪が
僅かな風に揺れていたんだ。
じじじじの後に大人しくなり
ふつふつした静寂を切り裂いて
チッと吐き出す一筋の閃光で
口元にふっと浮かび上がる
微笑みとも着かない
安堵の表情が可愛いい。
チッチッ、チッチッと
次ぎ次ぎに放たれだす閃光が
一際喧しく、
忙しなく弾き出される閃光の弾け。
一時の騒がしさに包まれ
見詰める瞳に
そこはかとない嬉しさが
浮かび上がる。
チッ、チッ、チッと
数を減らしながら翳り行く火玉に
真剣な眼差しで
小さな頑張れを送ってる。
揺らさぬ様に
慎重に摘まんだ
細くカラフルな紙縒りの下
僅かな風に揺らされながら
じくじくと縮み行くオレンジが
ほんの少し前までの
盛りの華やかさとは裏腹に
一抹の淋しさを纏ってる。
胸元に折り畳んだ片手を
ギュッと握り締めながら
綺麗だったな。と
ありがとう。を
少し念じながら
やがて
小さく成り行くオレンジの火玉は
ふっと、
何かを諦めたかの如くに
紙縒りを離れて落ちて行く。
あっ。
最初から
分かり切っていた終演なのに
こんなにも
ふつふつとした
儚い淋しさを
見事に演出する線香花火。
遠い街並みからは、
けたたましく弾け続ける
爆竹の炸裂音が鳴り響き
ビルの合間を
精霊舟の行列がネオンの狭間を
練り流れている。
華やかに、賑やかに
送る魂もあれば、
似合わずとも
浴衣姿の写真を
胸ポケットに忍ばせて
たった一束の線香花火で
照らし出される思い出を
粛々と偲ぶ送りも
また精霊流し。
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