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小夜 2

「今はもう、縁の薄かった小学校の頃の友達とは余り一緒にはいなくて、新しい面白い奴とか楽しい奴らと過ごしてるんだよね。」 

「それって、応えになってないじゃん。
手紙は読んでくれたんだよね?」 

「読んだよ。読んだけど、、、
今、始めて好きって意思表示したんじゃん。
手紙には、そんな事は一言も書いてなかったじゃん。
それってズルいよ。」 

「だから、今ちゃんと言ったんじゃん。」


その時点で僅か数ヶ月の空白はすっかりと無くなっていた。
昔から良く知ってる小夜が、その制服姿の外観とは全く別の、心情的な気安さで迫って来ていた。
目の前にいるセーラー服を着た女の姿をしている彼女を見ていると、ついこの間まで目くそを引っ付けたままで、ガハガハ笑っていた女の子とは思えない距離感を感じていたのに、
今、気安く話しをいている相手の感覚は、小夜そのものだった。
このギャップと違和感に俺は戸惑っていた。 

「だから、あたしと付き合ってよ。」 

「なんだよ、付き合うってさ。」 

「だから、好きだって言ってるじゃんよ。」 

「きらわれる様な覚えはないけど、好きって言われる覚えも俺にはないぞ。
俺は小夜に何かしたのかよ。」 

「淋しいに決まってるじゃん。
あたし達は今でずっと一緒だったんだよ、
何でも話しをしてくれてたじゃん。
毎日一緒だったんじゃん。」 

「それは、、、当たり前じゃん。
同じ小学校だったんだし、、、
まぁ、気が合ってたのかな?」 

「そうでしょ?気が合ってたよね?
だから、あたしはまさとが好きなの。
会えなくなって辛かったの。
男としてのまさとが好きだって事に痛いほど気が付いたの。
だからこうして時間を作ったんだよ。」 

夏休みが迫った7月の下校時刻。
夕方とも言えない、まだ陽射しが照り付けて暑い時間帯だった。
日陰だけを選んで歩けるほど、太陽の位置はまだ傾いておらず、ゆっくりと歩いているにも関わらず汗が絶え間なく流れ出していた。
肩が触れ合うのも、なんとなく暑苦しくて、自然と距離を取った俺にスッと近付いて来て、何気なしに手を繋ごうとする小夜。 

「ちょっと待てよ。」 

「良いじゃん、手ぐらい繋いだって。」 

「お前に女を感じないんだよ。」 

暑さに多少の苛立ちを覚えていた矢先の出来事に、咄嗟に出てしまった一言だった。 

思えば小夜と手を繋ぐ事なんてのは小学校時代には良くあった事だった。
手を繋ぐどころか、俺は彼女に抱き付いたり、後ろからおっぱいを鷲掴みにしてた事もあったりもしてた事を思い出したのだ。
しかし、それもこれも、小学生だからこそ、お互いの性別を重要視していなかったからこその暴挙であって、
逆に今、手を取られて咄嗟に拒んでしまった自分の行動は、明らかに小夜を女として意識していたからに違いなかった。 

ふっと、自分の視線が小夜の胸の大きさを確認しようとしている事に気が付いてしまった。


言いたい事を遠慮なく言い合えていた仲だった。
小夜に放った俺の「女を感じない。」の一言にも大して傷付いてはいない様子だったので、やっぱり小夜は小夜のままんだと、意味のない安心感を感じたのだった。 

「触りたかったら、触っても良いんだよ。
あたしは、全然嫌じゃないよ。」
少し顎を引いて、胸を強調するかの様に前に突き出して見せる小夜。 

「バカか、こんな、何処に人目があるかも知れない道の真ん中で、女のおっぱいなんか触りたくても触れるかよ。」 

「あっ、やっぱり触りたいんだ。
白状しちゃったね。
あたしと付き合えば、触りたい放題なんだよ。
本心を言っちゃえば、逆に、、、」 

それ以上の言葉は、口籠ってしまって、何を言っているのかが分からなかった。


家までの帰り道は、バス通りの国道を真っ直ぐに帰るのが最短距離で歩き易い道なのだが、排気ガスと車の通りが多いので埃が舞い上がったりして気分的には余り好まない経路だった。
もう一本は、国道に沿って狭い路地が平行して走っているのだが、こちらの道は道幅が狭くて、国道の抜け道になっている為に、狭い割には交通量が多くて、一人で歩くには問題はないのだが、二人で並んで歩きながら話しをするのには危険だし、会話がしずらい。
更なる帰路を選択するとなれば、全くの遠回りを覚悟しての林や畑の中を抜けて行く、全く人通りのない淋しい道が存在していた。 

俺の頭の中は、女と付き合うと言う、あれやこれやのいやらしい妄想でいっぱいになってしまっていた。
見せ付けられた小夜の胸の標高の高さは、あの頃と比べると遥かに高くなっていたのは事実だった。
それを触っても良いと言われた。
いや、むしろ触って欲しがっていた様にも思えた。
思考をその方向からずらそうと必死になっていたのだが、
そこは、中坊の元気で正直な下半身は別人格であったのだ。
正直者の元気君はむくむくとズボンを押し上げ、若干前屈みにならなくては、そこが目立ってしまうまでに自分を主張し始めていたのだった。 

俺は小夜と一緒に歩いている限り、この強張りを納める自信がなくなっていた。 

「ちょっと、遠回りして帰ろうか?」 

不自然な前屈みの姿勢で、今度は俺から小夜の手を握り、遠回りになってしまう、人通りの少ない山岳コースへの帰り道へと誘ったのだった。 

何かを悟ったかの様な小夜。 

「それって、辛いんでしょ?」 

「それって何だよ。」 

「それは、それの事だよ。」 

握られた手を握り直して、強く握り返してくる小夜。 

「そうゆうのってさ、どうして上げたら良いのかが分からないんだよね。
彼女にして貰えるんなら、ちゃんと教えてよね。
黙って、そうやって隠されてたら分からないよ。
それって、あたしが原因なんだよね。
女の私には理解出来ないかもだけど、
女の私にだって、その気持ちは分かるんだよ。
ねぇ知ってる?」 

「だからって、なんとかしろよ。
なんてお前には言えないじゃん。」 

「言って欲しいんだよね。
既成事実じゃん、それって。」 

「山に行って、おっぱいを触る?」 

「それでこっちに行こうとしてる分けじゃないぞ。」 

「でも、あたしには触りたいんだよね。
だって、辛そうなんだもん。
だから、ここで返信を聞かせてよ。
右の山道を選んだら、あたしは覚悟するから、応えを出してよ。 

ほら、今のあたしの気持ちも考えてよ。
あたしだって、もう、、、
おんなじなんだからね。」


住宅が疎らになり始めた路地の交差点。
手を繋いだ中学生の男女が、道の中央で汗だくになりながら向かい合って真剣な目差しで見詰め合っていた。



道は次第に細くなり、民家の影が遠く離れて車の通行が出来なくなる位に狭くなった地点に市民の森の看板が立っていた。 

気候の良い休日は家族連れや老夫婦、カップルなどが沢山散歩に訪れる、言わば市民の憩いの場所だが、平日の昼間とあっては、人影などは全くなく、森は鬱蒼とした濃い緑色を称えて、木々を吹き抜けて行く風は爽やかに香っていた。 

「ここを歩くのは久し振りだよね。
4年生の時にみんなで遊びに来たっ切りかもね。
ねぇ覚えてる?
あたしが足首を痛めちゃって男子に代わる代わるおんぶして貰ったんだよね。
その時に一番長くおんぶしてくれたのがまさとだったよね。」 

「そうだったっけ?」 

とぼけてはいたが、俺はハッキリと覚えていた。
あの時の小夜は、痛い痛いと何度も俺の耳元で繰り返し囁きながら、俺の腰に辺りに大きく開いた股間を擦り着ける様に密着させて来ていた事を鮮明に覚えていたのだった。 

「あの時ね、すっごく嬉しくて、しょうもない妄想だったけどさ、まさとと結ばれてるって感じてたんだ。」 

「下らないな、足を怪我する様な下手こいておいて嬉しいってなんだよ。
そんな奴をおんぶして歩かされた俺の身にもなって見ろよ。」


市が管理している市民の森には、そこに生えている木々を伐採や間伐をする為の道具や機材を保管する物置小屋が建ってられていた。
普段はガッチリと鍵が掛けられていて、とても中には入れはしないのだが、何分にも市の管理などそこそこにいい加減なもので、明かり取りの為に設けてある、山側の小窓のサッシが枠ごと外れて、そこから中に忍び込める事を、地元の小学生だった悪ガキの俺は知っていた。 

「なぁ、その、おっぱいを触らせてくれるって本気なの?」 

小夜と一緒に歩いていると、彼女の体やその体をどうこうしている自分の姿見を想像してしまい、ズボンの中のモノがすっかりと準備を整えてしまっていて行き場に困ったいたのだった。

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