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七つの前屈ep.伝導寺真実「瓢箪の中で回る駒~捲れ、舌。~」

6.

 型固芽道利は、不自由だ。

 この物語の登場人物としては比較的年を食っている方であるとはいえ、世間的には彼もまだまだ若い。寿命を半分も全うしていない。

 世界を理解するにも、人生を諦めるにも早すぎる。

「あなた、『未来を教えてくれ』って頼んだよね……でも、ほんとうにいいの? 知ってしまったらもう、引き返すことは、できなくなるよ」

 しかし、彼が無気力に陥ってしまうのも、平等主義に固執してしまうのも、致し方ない話だ。

 なにもかもを知ってなお顔を上げて前に進むには、この世はあまりにも残酷すぎる。

「──そっか。じゃあ、今日はヒントだけ伝えることにしようか」

知らぬが仏。全知の神は、優しくはなれない。

 たとえこの世の希望と絶望の総量が同じであったとしても、深く心に根を張るのは、光も闇であることは明白だ。


「予言しようか。きみはこれから、大変な事件に巻き込まれることになる。……どうしようもなくつまらない僕たちとは違って、ね」

 公園のベンチに座り、手帳を開いて思考する刑事の姿は──そのどうしようもない未来すら含めて──彼の目に入っている。

 ただ、それについて伝導寺が心中でなにかを思うようなことは、ない。

 臆病な占い師はただ、直感で予見した真実を、淡々と語るだけで。

 口を突いて、言葉にしてしまうだけだ。

「そしてその事件は、どんな聡明な推理力を以てしても、止めることはできない」

  警察は、事件が起こってからでしか動かない。

 法は罪を裁くことはできても、未然に防ぐことはできない。

 しない。

 動かない、といえば、そう。

「うっせえな! だから、俺は赤色には染まらねえっつってんだろ、離せよ! この街をまた、黄色に塗り変えてやるんだ!」

 黄仙沼白桃。けせんぬまばくと。公立域還高校二年二組出席番号十番。黄ばんだ沼で咲く白桃。

「やめておいた方がいい。壊されて、血に濡れるのがオチだ──と、わたしの占いでも出ている」

 噂花秘密子。うわさばなひみこ。公立域還高校二年二組出席番号六番。現代の卑弥呼様。

 伝導寺真実の視界の先に、ふたりの男女。身に纏うのは、公立域還高校の制服。

「占い占いって、これだから女は──あーもう、めんどくせえ! じゃあもう今日はおとなしく帰るよ! ふん、どうせ未来なんて、見えるわけねえのによ」

「未来なんて、ね……あ、そうそう、未来といえば」

 黄色い帽子を被った男が、女に対してなにかを喚いているようだが──そんなことは、いま占われている未来には関係がない。

 カラーギャング『イエローオーシャン』の残党も。噂話信憑率百発百中を誇る域還高校きっての情報通も。

 この物語には──すこし先に展開される舞台には、深い関与はない。

「この間、うちのクラスの学級委員が、こんな言葉を漏らしていたらしい──」

 動かない、といえば。

 公立域還高校二年二組の学級委員。微動だにしない優等生。

「『はあ。超直感、なるものがわたしにも備わっていたとしたら、このくだらない毎日も、すこしは変わっていたんですかねー』──と」

 彼女の存在は、この物語にも、先に展開される舞台にも。

 伝導寺真実の未来にも。

 深く関りがある。

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