七つの幸運ep.撮記取喜六「新たな伝聞、紙の上」⑦
7.
「穴生革命音さんってさ、奇跡ちゃんのこと大好きだよね」
顎に手を当てて考えながら、少女は答える。
「いつも放課後一緒に帰ってるところを、よく見かけるから」
綿陽郷咲桜。わたひさとさくら。公立域還高校二年二組出席番号三十番。憧れを抱く少女。
「ふむふむ……。まあでも、未知標さんと、あの……あので……」
「あのでもねさん」
「そうそう。あのでもねさんと未知標さんは、小学校の頃からの、幼なじみなんだろう?」
固有名詞の漢字がわからない。新聞記者として、あるまじき事態だ。後でちゃんと調べておかないと。
「だったら放課後一緒に帰るくらい、ふつうじゃないのか?」
──いや、そうとは限らないか。
人と人の関係が必ずしも時間の経過とともに濃くなるものとは限らない。むしろそういう絆の積み重ね方はレアケースで、現実はともに過ごす時間が増えれば増えるほど、互いの嫌なところが見え隠れして心の距離は離れてしまう。
ずっと、ずっとずっとずーっと、仲良しなんて。
幻想だ。
「うん、まあ、そうなんだけど……なんかね、穴生革命音さんが奇跡ちゃんを見る目って──ふつうじゃないの」
「ふつうじゃない?」
「うん」
ふつうじゃない。
その言葉は、綿陽郷桜桜が発すれば深い意味を持つ。
憧れを抱いたままの、ふつうすぎる少女。
「必死に隠してる感じだから、傍目からはあんましわかりにくいんだけど……なんかね」
そこで咲桜はふと、目線を教室の隅に流して──ひとつの、机に目を遣る。
いつも眺めている、彼の席。
「穴生革命音さんが奇跡ちゃんに向ける視線って──わたしが、ナンパくんのことを見ちゃってるときのそれと、同じなのかなって」
恋をした女の子だけにしか見えないことって、けっこうある。