『七つの前屈』ep.捺鍋手愛須「振り撒くハクアイ」①
1.
愛の形は人それぞれ。
人間同様、『愛』という概念も、その多様性は認められているところで。
少なくともこの時代においては、人種や年齢、果ては『愛』の根幹要素であるはずの性別さえもが、もはやその成就を阻むものには成り得ない。
ロミオとジュリエットなんて、現代ではもう流行らない。
好きなら勝手にくっつけ、って話だ。
たしかに婚姻ともなればそこにはやや面倒な法律が存在する場合だってあるにはあるが、愛のゴールが結婚にある、という考えがそもそも勝手な思い込みではないか?
双方が想い合うだけで成り立つ愛もあれば、片方が強く想うだけで形を保つ愛もある。
法に気を遣う程度の愛なら育むな。
しかし、そんな概念的形状の拡がりを見せる『愛』ではあるが。
時代が進めば進むほど、人類が歴を刻むほど、肩身の狭まる愛もある。
浮気、不倫、八方美人……現代人は、人がふたり以上のだれかを、複数人を同時に愛することに、強い反感を覚える。
好きな人の好きな人は敵。
好きな人と好きな人がいる人は敵。
好きはひとつでないといけない。
「わたしは人類すべてを、平等に愛しているわ。わたしはだれも差別しない。好き、好き、男の人も女の子も、みーんな大好き! ……でも、子孫繁栄を前提とした性交渉に興味はないの。この気持ちは、低俗な恋心とは違うから」
そんな時代に、誰彼構わず、恋ならぬ愛を振り撒く女性が、ここにひとり。
愛せど恋せぬ発情姫。
元気が取り柄のビルの顔。
ピュアなバイセクシャル。
『博愛』に満ち満ちた受付嬢──捺鍋手愛須。